公爵令嬢争奪真竜対決 14

コロシアムの競技場には静けさが戻っていた。

カーリー達が暴れる真竜を拘束してから、30分以上経った頃、それまでなんとか拘束から逃れようと暴れ続けていた真竜が突然その動きを止め静かになったのだ。

そして程なくして首に表れていた呪縛の紋章も霧散するように消えていき、ヴェルデ達もそれを見たことで、拘束を解きタクミが覚醒するのを待つ事にした。そして真竜が動かなくなった事で、王宮の警備隊や魔導士が真竜とヴェルデ達を取り囲むように競技場に戻って来ていた。


「ヴェルデ先生! 御無事でしたか!」


今だ気を失ったままのタクミとエルの周りに座り様子を伺っているヴェルデ達の所に、一人の騎士が大声でヴェルデの名前を叫びながら物凄い勢いで向かって来ていた。


「ヴェルデ、あなたの知り合い?」


フラムが、こちらに向かって来る騎士を眺めながらヴェルデに聞いてみた。


「え?うんんーーーーーーーーーーーーーーーーーー、! 誰?」


「ハア、ハア、ハア、ッハア、よ、よくごぶ、じで良かったです。ハア、ッハア、真竜の暴走を食い止めにヴェルデ先生が残っていると聞かされた解きには生きた心地がしませんでしたよ!でも本当に無事で良かった! ウン!」


「あのー、どちら様で?」


「嫌だなあ、僕ですよ。王国第10警備隊のレーベンですよ」


「レーベン、レーベン・・・・・・ああ!! あの悪魔騒動の時に何か活躍しないで消えていった、レーベン隊長!」


「そうです、その活躍しなかったレーベンです、って! 酷いなあ、ヴェルデ先生。僕と会うのが恥ずかしいからと言って、そんな思っても無いこと言わなくてもいいんですよ。真竜相手なんて、さすがのヴェルデ先生でも怖かったんでしょう?素直に僕の胸に飛び込んで来て下さい。その恐怖心を取り除いてあげますから」


自分に陶酔するタイプだなこれは。そんな風に思いながらヴェルデは嫌あな顔でレーベンを見ていた。


「それで何か御用ですか?」


ヴェルデは面倒臭そうにレーベンに尋ねる。


「嫌だなあ、未来の婚約者の僕が、あなたのことを心配するのは当たり前じゃないですか。ハ、ハ、ハ、ハ!」


「すみませんけど、私はあなたと婚約する気は、ミジンコ程もありませんからね」


「またまたご冗談を! は、は、は!」


そういえばいつもこうやって人の話を聞かずに、一方的に話す人だったと、思い出し大きくため息をつくヴェルデ。


「では、はっきり申し上げます。私この度婚約する事が決まっておりますの!」


「おお!そうですか!ようやく私との婚約を受けて下さるのですね!」


駄目だこれは、いい加減腹立って来たわ。

「いい加減にしてください! 私はレーベン様とは結婚なんかしたくありません! 私はこのタクミと結婚する事になっているんです! わ・た・し・の婚約者はこのタクミです!」


ヴェルデはまだ意識が戻らないタクミを引っ張りあげ自分の小さな胸にタクミの顔を埋めさせギューっと抱きしめながらレーベンに訴えた。


「はあ? ご、ご冗談を」


「冗談ではありません! ほら!」


そう言ってヴェルデは無理矢理タクミの顔を自分の方に向けると、自分の唇をタクミの唇に重ねた。


「「嗚呼嗚呼嗚呼あ!!!! ヴェルデずるい!どさくさに紛れて何してるのよ!!」


フラムが怒り出す。


「こ、これは仕方ないのよ! このレーベンに判らす為の緊急処置なのよ!」


「私だって、タクミさんの奥さんだもん!」


フラムも側に来て、ヴェルデとは反対側からタクミを抱きしめ始めた。すると今まで黙っていたカーリーもいつのまにかタクミの正面に回ってタクミの胸に自分の顔を押し付けるように抱き着いて来ていた。

この光景を目の当たりにした騎士レーベンは口を馬鹿みたいに開け、言葉無く立ち尽くしていた。


「な、な、なんですか!これは! 私の何処がこんなガキに劣るというのですか! こうなったらどちらがヴェルデ先生に相応しい男か勝負だ! いずれ日時を知らせるから覚悟して待っているんだぞ!」


と気絶するタクミに向かって言う事だけ言って、そそくさとその場から消えて行った。ヴェルデは厄介な人物が逃げてくれて安心したのか、勝負の捨て台詞の事はこの時は、あまり気にしていなかった。

騎士レーベンが競技場を後にしたのと入れ違いに今度はカルディナが駆け寄って来るのが見えた。


「タクミ様ー!、ご無事ですか?!」


カルディナは、今にも泣きそうな顔で駆け寄り、カーリー達三人にもみくちゃにされているタクミを後ろからガバッと抱き着いてきた。


「こんなになるまで私の為に頑張っていただいて、私は心から嬉しく思います! どうか早くお目覚め下さいまし!」


「ひ、姫様! こんな公然の前ではしたない真似はお控え下さい!」


護衛騎士であるルーナが、タクミに抱き着くカルディナを諌める。


「別に良いではないですか、ルーナ。この真竜を抑えたタクミ様が私の婚約者になる事は決定事項なのですから、誰に憚る必要があるというのですか?」


「しかしですね姫様、世間体というのもございますし、王家の目もあります。ここであまり派手な動きは控えた方が宜しいかと思いますが」


「うー、仕方ありません、ここは自嘲いたしましょう。それよりあの三馬鹿殿下はどうなったのです?」


カルディナの言葉にヴェルデ達はどう説明するか迷っていた。


「それについては僕が説明するよ」


そこへ気がつきゆっくりと身体を起こしてきたタクミが声を挟んできた。


「タクミ?! タクミ君! タッ君?! タクミ様! タクミさん!」


「ごめんね、心配かけちゃったかな?」


タクミは頭をかきながら少し照れ臭く微笑む。なにせ今の自分は4人の女の子に抱き着かれた状態だったからだ。


「とりあえずみんな、協力ありがとう。なんとか真竜の呪縛も解除出来て、仲直り出来たよ」


「真竜と仲直り? あのータクミ様、この真竜は死んでいないのですか?」


カルディナは、このまったっく動かない真竜をタクミが討伐したものだと思っていた。と、云うより多分タクミやヴェルデ達以外は皆、そう思っていると思う。


「ああ、呪縛の呪いも解いてあげて今では自由の身だよ」


にこやかに笑って事もなげに話すタクミだったが、カルディナとルーナの表情がみるみるうちに変わっていくので不思議に思った。


「どうしたの、カルディナ?」


「タ、タッ、タ、タ、タ、タクミしゃま!! い、生きているんですか!」


「え?そうだけど? 殺すなんて可哀相だよ?」


「姫様! お下がり下さい! ここは、私が命に変えて!!!」


突然、カルディナを庇うように前に出て、剣を構え出すルーナにタクミは驚く。


「ちょ、ちょっと待って、ルーナさん。どうしたって云うんです?!」


「どうしたもこうしたもじゃありません! なんで生かしてるんですか!? 真竜は破壊の神とも言われる厄災なんですよ! しかも王家の者によって捕われ屈辱を受けているのに、このまま何も無いわけないじゃないですよ!」


カルディナもルーナの後ろで怯えていた。確かに悪鬼の仕業とはいえ、王家に捕われ屈辱を受けた真竜が本能のままに動けば、こんな街、消し炭に変える事くらい朝飯前だろう。


「ああ、それなら大丈夫ですよ」


「なんの根拠にそう言われるのです!」


タクミはちょっと照れたように顔を俯かせて呟いた。


「だって、そのこの子、僕の奥さんだからね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


競技場に、風が吹き土誇りが舞い上がる。


「「「ええええええええええええええ!!!???」


その風に乗って、彼女達の悲鳴が、場外の街中まで聞こえたとか聞こえなかったとか。

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