公爵令嬢争奪真竜対決 13

『もう一度お聞きします。この声の主は、神エルカシア様で、よろしいのでしょうか?』

『はい、間違い無いですよ?』

『そうですか、そうなんですか』


あれ? 何か以前も同じような状況にならなかったか? まさかね。


『フフ、そうですか、そうか、やっと会えた・・・まさか最後に会えるなんてね。神様も意気な計らいするじゃない。いや、神はあんただっけ? ねえ、エルカシア』


タクミは急激な気配の変化に振り向く。今まで靄の様なもので覆われていたのが、少しづつ霧が晴れるように薄らいで行き、おぼろげではあるが人の様な存在を認識出来るようになって来ていた。


『私の事覚えてる?まあ、判らないか。そりゃあ、こんな化け物になってるんだし、判るわけないか』


言葉がはっきりと、タクミとエルに届き始めると、次第に目の前にいる存在もはっきりと形が見えはじめた。エルも僕の横に姿を現しその声の主と相対する。


『あれ?エル、人の姿になってるよ?』

『はい、ここは精神世界ですから、自分の本来の姿に戻れますので。それより、真竜よ、私とあった事があるのですか?』

『そうだよ。と、言ってもこの姿では会った事ないから判らないでしょうね』


そう云うと、声の主の姿がはっきりと見えた。タクミはその姿に驚き、その理不尽さに怒りを覚える。

声の主は、裸の少女だった。白銀の髪に、黒く大きな瞳を持つ神秘的な顔立ちの美しい少女。

しかしその白く美しいはずの肌には無数の傷痕があり、その傷は今、少女が繋がれている鎖がもたらしたものだという事が判る。よく見れば、肋が見え、手足もかなり細い。やつれた表情からも、今の呪縛が彼女を苦しみを与えつづけているのだろう。それでも、彼女の目には力が感じられる。その目の先にはエルカシアを捕らえ、離さなかった。


『君は真竜の精神体と思って良いんだね?』


タクミが少女に確認する。


『ええ、そうよ。私の名はトルエ。そして、あなたに恨みを持つ者よ。エルカシア』


トルエと名乗った女の子は喋っている間もエルを親の敵のように睨みつづける。


『私はね、始めは、あなたに感謝したのよ。一度死んだ私を転生させて、旦那様とまた会わせてくれるって言うんだもの。でもそれが、あなたのミスで全てがだいなし。挙げ句には一度殺されてまた転生したら、今度はこんな化け物なんだよ。しかも、年代も過去に遡っていて、今の私は100才を超えてるんだ。多分、他にも私と同じような転生者がいるはずなんだけど、多分年齢は15、とか6とかなんだよ。なんで私だけこんな目に会わなきゃいけないのよ!』


一気に喋った彼女はエルを見る。一方エルは、その話を平然とした態度で聞いている。


「これは、あれだね。多分、そうなんだね」


タクミは、だいたいの事はさっしがついた。すると、今まで平然と聞いていたエルがいきなり、床に膝と手を着き、額までも地面につけた。


『申し訳ありません!!』


あ、なんか久しぶりに見たとタクミは思った。


『やっと思い出してくれました? こんな呪われた状況じゃなかったら、げんこつの一つでもおみまいしてあげれられたんですが。あ、知ってます? 今の私のげんこつなら、いくら神とはいえただじゃすみませんよ』


顔はにこやかだけど、奥底に冷たい眼差しを宿した瞳でエルを眺めるトルエ。


『あ、ごめんね、君。それにこんな格好、本当は見られたくないんだけど、つい昔なじみに会えたんで興奮しちゃて出てきちゃった』

『そんな事ないですよ。とても綺麗な方だと思いましたよ。それに、真竜なんて格好良いじゃないですか』

『え?そうなの? でも、私の思い人にこんな姿見られたら、幻滅するだろうな』


凄く寂しそうに話すトルエがかわいそうになる。


『なんですか? その思い人ってそんなに思慮の浅い人なんですか?』


タクミはわざとらしく尋ねた。


『そ、そんな事ないわよ! あの人は絶対、こんな私を見たら助けてくれるもの!! そして優しく迎えてくれるもの! タクミさんはいつも私の事を大切に思ってくれた全ての世界の中でも一番優しくて格好良くて、ハンサムで、礼儀正しくて、男の中の男で、私が一番大好きな人だもの!』


聞いてて恥ずかしくなってきたタクミだった。


『それじゃあ、今から解呪しますよ。良いですね? トルエ、いや、つむぎ』

『え?』


突然、名前で呼ばれて驚くトルエ。


『い、今、何て言ったの? つむぎって』

『タクミ様、呪縛の解析終わりました。つむぎ様、いえトルエ様をお救い下さい。』

『エルカシア、今、タクミ様って』

『はい、タクミ様です。あなたが待っておられたタクミ様です』


エルの言葉に、呆然とするトルエ。


『え、え? でも』

『ごめん、なかなか言えなくて』


タクミはちょっと頭をかきながら恥ずかしそうに答える。


『そして、遅くなってごめん。迎えに来たよ』


タクミはそっと腕を伸ばし、トルエに近づこうとする。


『いやあ!!! タクミさんのエッチ!!!』


突然大声を出して、恥ずかしそうに体を捻り始めるトルエだったが、鎖に繋がれたままなので隠そうにも隠せない。


『タクミさん! あっち向いて! こんな縛られた姿なんて見ないでええ!!』


うーん、今まで散々見られといてとも思うタクミだったが、それでも後ろへ向く事にした。


『でも、タクミさんがトルエさんと接触しないと、解呪できませんよ?』


淡々と喋るエル。


『と、言う事なんだけど、そっちに行って良い?』

『うううう、こんな姿の私みて幻滅しない? こんな傷だらけで、体を乗っ取られて、汚された私なんか、嫌でしょ?』

『さっき自分で言ってたじゃない。僕は、君を助け迎え入れる。そして、トルエをこんなにも辛い目に合わせた悪鬼を絶対に許さない!』


タクミは後ろを向きながら断言する。


『やっぱり、タクミさんだあ』


トルエは、嬉しかった。自分の思い続けていた人が今目の前にいる。それも以前と変わらず優しく格好良いと事に。


『こっちに、来て、下さい』


小さな声で答えるトルエにタクミは振り返りゆっくりと手を指しのべた。


『エル、補助よろしく』


タクミがエルに指示を出すと、自分は縛られているトルエの胸の真ん中に手の平を当て、集中する。すると、呪縛紋の起動術式の紋様が浮かび上がり出した。その術式に再度手を押し述べるとゆっくりとその紋様に手が飲み込まれていった。


『あ、あん、だ、だめ、あっ!』


術式に干渉したせいか、トルエの体がピクッ、ピクッ!と反応し声が漏れる。そんな彼女をもう片方の出て抱き寄せると、彼女の唇に、タクミは自分の口を合わせた。


『んん!』


少し苦しそうな顔をするトルエに構うことなく、タクミは唇を押し当て、自分の力をトルエに流し込み続ける。


どれくらい経っただろうか?


「ガチャン!!」


何かが外れる音がした。すると、タクミが呪縛紋に押し当てていた手の周りの術式が勢い良く回転し始め消えていった。それと同時に繋がれていた鎖もバラバラと砕け落ちて消えていった。束縛から解放されたトルエの体が崩れ落ちえて来たので、タクミがそのまま抱え助けた。


『タクミ様、呪縛紋は完全に消えました。トルエ様は解放されました』


エルの言葉に、ようやく肩の力を抜くことが出来たタクミ。腕の中にはやはり安堵し嬉しそうに微笑むトルエがいた。


『もう、タクミさんったらこんなに激しくするなんて』


そしてトルエはタクミを抱きしめてもう一度口づけをした。

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