王との謁見 2

「そこでですが、私共はトルエを酷い目に合わせた悪鬼を探し討伐したいと考えております。必然的に王子様達の行方を探す事に繋がるのですが」

「つまりそなたは、わしの息子を探してくれるというのか?」


タクミの提案に王は始め半信半疑だった。それはそうだ、どう見ても今回の騒動に巻き込まれ一番辛い目にあった本人が、その現況となった自分の子、王子達を探してくれると言うのだから、不信に思っても仕方無いのかもしれない。自分だったらそんな事はしないだろうと考えていた。


「はい、その代わり私たちに他国へのフリーの通行許可書を頂きたいのと、金銭的な援助をお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」

「何を言うかと思えば、そうのような事で良いのか?」


王はホッとしていた。それぐらいの要求があった方が逆に信頼できると考えていた。ただより怖いものは無いと云うのが王の考えだ。


「解った。それなら直ぐ手配しよう。そうだ、タクミとカーリーと言ったかな。そなた達はラングトンの生徒であったの」

「はい、そうですが?」

「それでは、そなた達は今回の騒動を治めた功労者として、特別に飛び級でラングトン大学学院の修了書を授け、自動的に冒険者ランクをBにいたそう」

「へ?」


僕は耳を疑った。大学を飛び級で卒業?まだ一月も通ってないよ? それに冒険者クラスをランクBだって?


「そして、冒険者ギルドにそなた達のAクラスアップの昇級試験の早期実施を進言しておこう。Aクラスになれば各国へに通行許可は必要なくなるからの」


王様の提案はとても魅力的なのだが、学院を卒業しただけで冒険者クラスがBだなんてありえるのか?


「ねえヴェルデ、大学院を卒業したらBになるものなの?」


僕は、小さな声で、隣にいるヴェルデに聞いてみた。


「うん、そうね普通はCクラスにはなるわよ。」

「え?そうなの?」

「ラングトンの大学院卒業の特典みたいなものよ。それだけここの卒業者っていうだけで認められるのよ。ただBクラスは今回の功労が上乗せされてるってことかな」


なるほどね。それなら遠慮なくもらっておくか。でもそうなると普通に学園生活を楽しむってのは無くなってしまったわけだ。

それはそれでちょっと損した感じがあるね。


「王よ! いくらなんでもそれは度が過ぎませんか!」


大声を張り上げ、意義を唱えてきたのは、またあの長官だった。


「ローエン長官、何が不満なのだ。この者達が探索しやすいようにした方が我々としても助かるではないか」

「そもそもですが、この者達が言ってる事が全て本当とは限らないのですよ? 何を根拠にクドエルド様が鬼等というものに体を乗っ取られたと解るのですか? 本当は、クドエルド様が命をはって真竜を倒したのを此奴らが横取りしたとかではないのでしょうか!」


何を言ってるんだこの人?大体今回の件は競技場の周辺を警護していた騎士や魔導師の証言も含めて、事実関係を前もって確認しての謁見だったはずなのに、それは反古にしてまでクドエルドを庇うのは何かあるのか?


「それにですぞ!この子供がカイザー(皇帝真竜)様だなどと誰が信じられますか?!」

「ま、まあ、確かに、他の者達がそういうのでそうかと思ったが、わしは見てはいないからの」


おーい、王様、その他の者達が複数がそう証言してるのに、このおっさん一人の言う事を簡単に信用するなよ。


『ターちゃん、このローエンとかいうおっさんから微弱だが暗示の魔術が発動しておるぞ』


念話でトルエが教えてくれた。僕もローエン長官の魔素の流れを観察する。確かに不自然な流れがあるな?でもトルエが言ったような魔術そのものは判らなかった。相当に高等な技術を使っているのか?


『まずくない? これって』

『そうだね、結局は王の判定が全てだから、もしかしたら私達が罪人にさせられる可能性はあるわよ』


カーリーやフラムも状況の変化に気づいているようだ。

どうする?下手に動く訳にもいかないし、王に暗示の魔術が発動していると言っても、僕ですら解りにくいものを証明する事は難しいだろうし。

色々考えるが良い案が浮かばなかった。


「それなら、わらわに任せろ!」

「え?任せろって、どうすんの?」


僕が疑問に思うが、トルエはニッコリと笑って自信満々に答えた。


「簡単なことじゃ! ここで竜に戻ってわしが真竜じゃとわかれば問題ないのじゃ!」


そう叫んだと思ったら、急激に大量の魔素が集まり出し、トルエの体が光り出した。


「ちょ、ちょっと! トルエ! こんな所で竜に戻って大丈夫なの?」

「問題ない、これだけ広ければ建物を壊す事はなかろうて」


などと言っているうちに、トルエは光に包まれその中で形を急激に変えて行く。

謁見の間に居た貴族達が騒ぎ出し、一時騒然となってしまった。

等のローエン長官も突然の事に意識が持って行かれたのか、魔素の流れが完全に無くなっていた。


「どうじゃ? そこのローエンとやら、これでもわしが真竜ではないと申すのか?」


トルエはわざとゆっくりとした口調でローエンを睨みつけながら聞くと、その圧力にローエンの顔は青ざめ尻餅をついてしまった。


「う、くっ、」

「う、うわあーーー!!」

「た、たすけ!て!」


トルエに圧倒させられたのは何もローエンだけでなく、この場にいた殆どの者がその圧倒的な力に恐怖していた。

ある者はこの場から逃げだし、ある者は、床にはいつくばり手を合わせ祈る。


「あれ?でも僕らは何ともないけどどうしてかな?」

「それはじゃの、ターちゃんを中心に皆が家族としての絆が出来ているからではないかの?」


家族ね、それ、なんか良いかも。

あれ? でもクロちゃんは?


「あ! やっぱりわれも、タクミさんの奥さんという事ではないかの?」


赤くした顔を両手で塞ぎ、イヤンイヤンするクロちゃんに、ヴェルデやフラムは鋭い視線を浴びせていた。


「タクミ君、あんまり手広く手を出さないでね?」


カーリーには真顔でそんな事言われてしまった。


「ちょっとカーリー、僕何もしてないよ? 本当だよ?」

「は、は、良いではないか! ターちゃん程のいい男に女が寄って来るのは仕方ないのじゃ! ヴェルデ達もモテないターちゃんより、モテた方が良かろう?」

「うー正論過ぎて文句も出ない。判ったは! 私達が悪い女が付かないように駆除していけばいいのよ!」

「とりあえず、クロちゃんは仕方ないから仲間にしてあげるわ!」


ヴェルデさん、仲間ってそれは奥さんだと言ってるんだよね? ・・・・・・また増えたよ。

僕は少しうなだれながらも、喜んでいるクロちゃんを見て、まあ仕方ないかと自分に言い聞かせていた。


「タ、タクミ!、なんとかしろ! そのカイザー様を人に戻すよう、お、ね、お願いしてくれ!」


王様は、次々と倒れる者達がいる中で、流石というべきか、なんとか玉座に座ったままに、意識を保っていた。


「トルエ! 人化してもらえる? ちょっと人族のなかにはそのままでだと、倒れるものが続出しそうだから。」

「判ったのじゃ!」


そんな大きな頭で頷くと、一瞬にして女の子の姿に戻っていた。


「わ、わかった。タクミ達の言い分に嘘はなかったので、始めに提案していた通りの褒美を与えよう」


王様も真竜の力に、あてられたのか、肩を上下に動かしていた。

とにかくこれで、みんなで旅が出来そうで良かったよ。


「ところで、先ほど奥さんとか言っておったがどういうことだ?」


王の質問に照れ笑いながら僕は迷わず答えた。


「はい、ここに控える5人は、全て僕の婚約者になります」

「え! その、えーと、そのカイザー様もそうなのか? 」

「はあ、まあ、そうですね。はい、そうらしいです」


僕は少し疲れ気味に答えると、あんぐりと口を開ける王が見えた。

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