大学ライフ 4

「みんな!」

「タクミ! 大丈夫?」


ヴェルデがまず真っ先に僕の所に駆け寄って来た。


「ヴェルデ先生! 来て下さったのですね」


副会長が、ヴェルデの姿を見て安堵の声を上げる。


「会長! 院生の皆を建物最外周まで後退させろ! 副会長! 君もだ!」

「し、しかし私達が後退したら誰があの怪物を止めるのです? ま、まさかヴェルデ先生一人で?」

「そんな無茶しないわよ。私と、タクミ、カーリーともう一人あの女性の助人でなんとかするわ」


副会長はヴェルデの言葉にあぜんとする。

さっきも会長に言われたが、いくら飛び級で院生になった逸材の二人とはいえ、あんな化け物相手にまともに戦えるはずが無いと思ったからだ。

実際、普通に考えればそれが当たり前なのだが・・・


「大丈夫よ、あの男の子、タクミは今の私より強いし、女の子の方カーリーは、単純な戦闘なら、そんなタクミより強いから大丈夫よ」


副会長にとっては、にわかには信じられない話しだった。


「しかし!」

「副会長! もたもたするな! 我々は後方支援に徹するぞ!」


グランディール会長の言葉に渋々、副会長を始めとする院生全員が結界を維持しながら徐々に後退して行く。

その間にもキーザの身体は、変形し続けていた。

肌は色黒の赤色となり、筋肉が異常に隆起し、口からは幾つか伸びた牙が飛び出してきており、なんと言っても額の中心から角の様なものまで生え出して来ていた。


「クロちゃん! あれは魔人族なのか?」

「違うわ! 確かに私がここに着いた時は、仲間の魔力や気配を若干感じていたけど、もう殆ど感じる事が出来ないの。多分あれに、飲み込まれてしまったのだと思うわ!」


険しい顔で正面にいる怪物を睨み、何かを探ろうとするクロちゃん。


「駄目!もう全く感じない。あいつが封印されていた魔人族の能力を全てを食ってしまったのだわ!」


食った?魔人族の魔力や意識を全て食ったって事か?

あれは一体なのだって言うのだ?


「タクミ君! あいつ動き出すよ!」


カーリーが怪物を牽制しながら見張っていたが、どうも変化が止まった様だ。

怪物はゆっくりと首を回し、自分の手や足を丁寧に確認しているようだった。


「クロちゃん、あれは一体何なのだ? あれになる前の人間はどうなったのだ?」

「私達、魔人ではないのは確かだわ。ただ、人を依代にして魔人の力を取り込んだ怪物と言うのは解るけど、もしかしたら・・・」

「!? く、来るわ!」


カーリーの声で皆が一旦考えるのを止めて怪物へ、集中する。

もうキーザの面影は全く無い、酷く恐ろしい顔は、直ぐに何かを捕らえようと動き出した。

しかしそれは僕たちに向けられることは無かった。


「!!!! あれは会長を見ているのじゃないか!?」


怪物は確実に会長を捕らえて攻撃しようと身構えたのが見えた。

一番近くにいた僕が身体を強化魔術で付加して、会長の前に飛び出す。

そのまま、光属性で防御障壁を作り出すと同時に怪物の拳が防御障壁へ激突してきた。


ガキ―ンン!!


光属性の障壁は、物理攻撃にはそれほど強くないので普通なら受け止める事なんか出来ないのだけど、これは闇属性の無形属性を重ね掛けしているので物理攻撃にも相当の耐久性を持っているはずだった。


バッキ!バキバキバキバキバキ!


確かに化け物の拳は僕の障壁に阻まれ、一旦は止まったのだが、それをそのまま無理矢理、押し込んで来て、破壊しようとする。


「クッ!なんて馬鹿力なのだ!」

「た、タクミ君、大丈夫!」


会長が自分を庇っているタクミを気にしながら、自分も剣を構え相対する。

すると、会長の魔力が急激に上昇し、剣先へ集中し始めると一瞬、剣から猛烈な凍気が吹き出す。


尖氷結せんひょうけつ!」


グランディール会長の魔術発動詠唱と共に、剣先から無数の氷の固まりが飛び出す。

一つ一つは人の腕程の長さだが全てが鋭利に尖り、もの凄い勢いで怪物に向かって行く。


ガガガガガアガ!!


怪物の顔を中心に全弾が命中したおかげで、僕の結界が壊れる寸前で、怪物を押し戻す事が出来た。


「有り難うございます、会長!」

「どう致しまして、と言いたいとこだけど、私じゃタクミ君みたいに正面からあの馬鹿力を止められないわ」

「それに、私の取っておきの攻撃呪文もかすり傷程度しかならなかったみたい」


会長の言葉に、振り返ると、確かに化け物の勢いは止まっていたが、致命傷はおろか、重症と思える怪我さえ負わす事が出来ていなかった。


「いえ、十分ですよ!」


会長が僕の言葉に、え? と聞き返そうとしたその時、怪物の直上から黒い固まりが勢い良く落ちてきた。


ガンン!!!


その黒い固まりは怪物の頭を直撃し、そのまま地面に押し潰して行く。


「私のタクミ君に何するのよ!!」


土煙の上がる中、大きな黒い金属の様な固まりに変えられた右手を振り下ろし、地面に突き刺しているカーリーが怒りの表情を隠しもせず、地面に頭を減り込ませた怪物を見下ろしていた。


カーリー、格好良いぞ! でもちょっと怖いよ。

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