大学ライフ 5

「グウォオオオオ!!!!」


突然地面の中から獣の様な叫び声が沸き上がる。

それと共に、カーリーに押さえ付けられていた怪物の体が動き出し始めた!


「カーリー! 下がって!」


カーリーは僕の言葉に直ぐ反応する。

金属の固まりは手からスルッと抜け、後ろへと大きく飛び退く。


「タクミさん!」


クロちゃんが飛んで来た。

いや、本当に背中から羽を生やして飛んで来たのだ。


「タ、タクミ君! こ、この人! なんなんだすか! は、羽根がぁ、ありましゅよ!」


グランディール会長が驚きの余り変な言葉になって騒いでいる。

まあ、当然な反応だよね。


「会長、慌てないで下さい」


「でも、でも!」


「あの子は鳥人族のハーフなんですよ。普段は羽根を隠す事が出来るんで、余り世間一般的には馴染みは無いようですけどね」


咄嗟に適当な事を言って誤魔化そうとしたけど、会長くらいなら直ぐ解るだろうな。

そんな風に思っていたけど、え? そうなの、であっさり納得されてしまった。

案外、脳筋のお方かもしれない。


「タクミさん、思い出しました! あれは、鬼です。それも悪鬼と呼ばれる、神にも対抗出来る異種族です!」

「悪鬼?」

「はい!遥か昔、神々に対して大戦争を起こした一族だと思います!」


はあ? 何それ?

クロちゃんの言葉に理解が追い付かない。

何でそんな物がここに今いるんだ?

そう思っていた時だった。


「タクミ君! 化け物が立つよ!」


カーリーが叫ぶ!


そこには顔の一部が凹み、片目が潰れてはいたが自力で立ち上がり始めた鬼の姿があった。

それでも、カーリーの一撃が相当効いているのか立ち上がるにも足が震え、まともには立てないようだ。

しかしその目は自分に手傷を負わせたカーリーをしっかり捕らえていた。

何故か嫌な予感がする。

そんな風に思っていたら身体強化の魔術を掛けた体が勝手に動き、カーリーの前に立っていた。

同時に、鬼のまだ生きている片目と僕と目が合った。

そのと途端、背筋に氷を浴びせられたかと思う程悪寒が走った。


「ま、まずい!!」


もう、ただの勘だった。

僕は光属性を最大限に発動させ、闇属性の無形魔術とも組み合わせ、最大魔力で光護結界を張る。

その上に身体強化の重ね掛けで耐久力を上げていた。

今思えば何故そうしたのか不思議だが理屈でなく、そうしなければと思ったんだ。


「カッ!!!!!!!!!!!」


全く余韻も無く一瞬だった。

目の前が光に呑まれ全てが白一色になっていた。

それは数分だったのか数秒だったのかよく解らないが白い世界が続き、徐々に世界に色が戻って行った。

まず目に入ったのは、鬼の口が大きく開き煙りの様な物が立ち上っていて、大きく肩で息をしている姿だった。


「な、何があった?」


僕は、なんとか今の状況を把握しようとまだボーとする頭をフルに活動させる。


「タ! タクミ君!!」


後ろに居たカーリーが僕の前にやってきてもの凄く驚いた顔で名前を呼んでいる。


「カーリーどうしたの? そんなに驚いて?」


「な、何言ってるの! その腕!大怪我じゃない! 火傷が酷いよ!!」


カーリーの顔がみるみる泣き顔になり、大粒の涙を流し始めていた。

確かに、僕の腕は顔をガードしていたせいか、手の甲から肘にかけて皮膚が溶ける程の火傷を負っていた。

ただ、身体強化は痛覚耐性も上げているので、これぐらいの痛みならほぼ感じる事が無いので平然としていられる。

だけど、これはこれで問題だな。

痛覚が無い事に身体がなれると、攻撃をかわす為の反応速度が下がる可能性があるはずで、それは戦闘では大問題になりそうだからだ。

とりあえず、その問題は後で考えるとして、鬼の方が気になる。

今の所、力を出しすぎたのか全く動きそうには見えないが、死んだ訳ではなさそうだ。

悪鬼とクロちゃんが呼ぶ存在をじっくりと観察していると、今度は鬼の足元から大きな木の根みたいな物が鬼を囲むように勢いよく地面から突き出し始めた。

それは、どんどん伸び鬼の身体を拘束すると、ギリギリと締め上げ始めた。


「よくも! よくも! よくも! タクミに怪我させたわね!!!」


鬼を挟んで僕の反対側に居たヴェルデが大粒の涙を流し、怒りに満ちた顔で鬼を睨みながら木属性の束縛魔術を発動させていたみたいだ。


「絶対に許さない!!」


ヴェルデは叫びながらどんどん魔力を注ぎ込み、鬼を締め上げる力を一気に跳ね上げる!

鬼の身体はミシミシと軋みだし、顔が苦痛に満ちはじめた。

やはりさっきの攻撃が仇となったのか最初の頃の力は無く、余り身体も動かなくなっているようだ。

それでも、ヴェルデの締め上げにも耐えるあの強靭な身体は驚くほかない。


「ゆ・る・さ・な・い」


「え?」


今度は今まで泣いていたカーリーがゆっくりと立ち上がり、何か地の底から聞こえて来るような冷たい声で唸っている。

顔は伏せ気味なので顔は解りにくいが、これはかなり怒っているのは分かる。


『シロ! おいで!!』

『はっ!!』


カーリーの命令にシロが直ぐに返事をする。

しかしシロが来る気配はないぞ?

そう、思っていたら、カーリーに変化が表れはじめた?!

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