ラングトン大学 試験編 11
「さてと、こうして向かい合うと、さすがの迫力だね」
黒く大きいこれが悪魔なのか?
体は人の姿で顔は牛? ミノタウロスか? 角もあるし・・・
「お、前たち、は、魔導士か?」
「え? 喋れるの?」
いきなり、前にそびえる様に立つ黒い牛頭の悪魔が話し掛けて来たのに驚いてしまった。
「あたりまえだ。わしら悪魔族は、人族より数倍長生きじゃし、魔法に関しては人風情に遠く及ばんほどの知識と経験を持っておるからの、逆に人程度がよくもまあ、これだけの知識と魔法を作れるものだと感心するくらいじゃ」
フフン! とか言って偉そうにしている様に、この黒い悪魔の態度がみえる。
それに、光る目だと思う、あれって睨んでいるよね? 絶対に。
「そんな人間風情に不覚をとり、一度は王共々封印されてしまったが今度はそうはいかんぞ!」
「何言ってんのよ! あのまま封印されてりゃ良かったのに、あんたらが作った魔動機が訳の分からん魔法をぶっ放してくれたおかげで、私の体が消し飛んでしまったんだからね。お互い様よ! まだ封印の方がましじゃない!」
負けじとヴェルデが言葉で応戦している。というよりやっぱり悪魔絡みで一度、死んでいるんだ・・・実感が湧かないから変な感情は起きないけど、よくよく考えたら奥さん、死んだんだよね・・・・
「ねえ、ヴェルデ、死んだってこの悪魔のせいなの?」
「そうよ! タクミ君聞いてよ。こいつらがね、私を無理矢理縛り上げて、服を剥がして舐め廻したのよ。そして、最後には・・」
「何、言っておるのじゃ! そこの女!! お前らが勝手に表れて、勝手に暴れまくって、勝手に極大の封印魔法をぶっ放し、わしらを封印しよって! その上、わしらが作った魔動機にお前の魔法が干渉して、大暴走をおこしたんじゃないかっ・・・・て、 え?? お前、あの時の魔導士なのか? あの、人にしておくには惜しい、本当に鬼のような女魔導士なのか?!」
なんだ、それは?
あ、急にヴェルデとフラムの二人がそっぽ向いて、口笛吹いている。
「チッ余計なことを覚えているわね」
なんて小声で言っているよ。
聞こえているからね。
「ねえヴェルデ、いったい何をしたの?」
僕は知らん振りしている彼女に問いただして見るが、口を開いてくれないので悪魔に聞いてみることにした。
「ねえ、悪魔さん、彼女が何かしたんですか?」
「お前、知らんのか? こいつは、いきなり真っ裸で我等悪魔族の拠点の中心、王城に転移してきおって、魔王の衣服を剥がし王を辱め、そこらにいた私の仲間をボッコボコに殴り倒しまくったのだぞ! 私らが、降参するのでもう止めて欲しいと言っても聞く耳なんか持ってもらえなかった、鬼の様な人族なんだぞ! そのうえで、極神聖封印結界を発動して一人残らず封印してしまった本当に鬼畜のような女だ!」
「だって、だって! しかたなかったんだもん! 当時の王子、今のこの国の王、シルデフィリア王が、私の事を気に入って妻にしようとしたんだよ! 判るでしょ?!」
「ゴメン、まだよく判らないんだけど」
僕の戸惑った顔を見て膨れっ面になるヴェルデ。
そうは言ってもさっぱり判りません。
「だから! 私はタクミ君のものなの! あんな変態王のものになんか成るきはないの! だからきっぱり断ってやったのよ。そしたら、私の食事に薬を漏りやがって、眠らされて、その間に裸にさせられて、神殿の祈りの間に吊されたのよ! 何百人ものオッサンの目に曝された挙げ句に、悪魔軍の中心地に転移魔法で飛ばされたのよ! 酷いと思わない? だから腹が立ちまくりで機嫌がどん底だったから、飛ばされた魔法城で目に付くやつを、片っ端からしばきまくったのよ。普通の事だよね?」
一気にまくし立てたヴェルデがゼーゼー息を吐いて苦しんでいた。
息くらいして喋りなさい。
「で、今の話では、ヴェルデいや当時だからテレジアの時か、それで何で死ぬ事になったの?」
「それは、わしが話そう。」
僕の疑問に何故か悪魔が答えてくれる。
なんか悪魔って本当に悪者なのかな? 物凄く丁寧に話してくれるのだけど?
「その時、ちょうど城には、時空魔法の考察の為に悪魔族の学者が集まっていたのだ。時空魔法、時を渡る魔法じゃ。その魔法理論はほぼ構築されており、時空魔法の術式を組み込んだ魔導器の試作機がその集会でお披露目されていたのだ。そして運悪く、この女が突然その場に現れ暴れまくっての、最後に極大の封印術を発動させよった。どうもそれが試作器に干渉したのじゃろう、大暴走を起こしたようじゃ。それにこの女が巻き込まれ、身体は砕け散り、魂が時空を飛び越えたのじゃろう。その時、魂も何らかの影響が加わり分裂し、生まれ変わったとかじゃなかろうかの? わしらも封印される直前までしか感じ取れなかったから後半は憶測じゃがの」
ん~つまり、何が悪いんだ?
「ちょっと聞いて見ますけど、悪魔族って人間の国と争ってたんですよね?」
「ああ、人族が我等悪魔族の領土に侵攻して来てはいたぞ?」
「フラム、悪魔って人の国を滅ぼそうとしていたわけじゃないの?」
「え? 私はそう聞いていたけど?」
「そんなはずは無い! 私らは平和に暮らしておったのだぞ。人族はおろか他の種族の国を滅ぼそうだなんて考えた事もなかったぞ!」
ちょっと待てよ。
僕の頭よ、ちゃんと整理してくれよ。
「ん~つまり、平和に暮らしていた悪魔族の国に人族が侵攻し、それを一気に決めるた為に、王子の不興を買った当時のテレジアが利用されて捨て駒にされたと、で、たまたま時空魔法の試作機ができていて、それをテレジアが暴れまくって見境なく極大魔法をぶっ放し、壊して暴走させ、勝手に巻き込まれ、なんらかの作用が働いて、ほんの少し時間の進んだ時間軸のこの世界に魂が飛ばされ、しかも分裂する形で生まれてきてしまったと・・そういう事かな?」
「おぉおぉ!!」
何故か皆が僕のまとめに感嘆の声を上げていた。
「凄いタクミ君!やっぱり頭いいね。私なんか半分位しか理解出来なかったよ」
何故か僕が頭が良いといったカーリーの方が嬉しそうだな。
「つまり、あれだね。悪魔族の方々にとっては人族の勝手な侵攻戦争と、勝手なテレジアの強襲で殆どの悪魔族が封印されてしまって、いい迷惑だって事だね」
「左様、わし等は何も悪いことはしとらん! それをこの者が・・・」
全体が黒いのであまり表情がはっきりとは判らないが、じと目でヴェルデ達を見ているのが判った。
その中にカーリーも含まれているようで、カーリーは何で?! といいたげに僕を見ている。
「だって、あんな状況じゃ仕方ないでしょ。タクミだって、奥さんの裸を他の男共に見られたら嫌でしょ?」
上目遣いに僕を見つめてうるうると瞳を濡らしながら肯定を強要してくるヴェルデ。
「そんな事をしなくっても、ヴェルデ達が悪いだなんて、ほんの少ししか考えてないから」
「す、少しは思ってるんだ・・・」
ヴェルデが、頬を膨らませ睨んでくる。
「一応、原因ではある訳だしね、反省はしなくちゃね? でももっと悪いやつがいるから、それ以上ヴェルデ達を怒るつもりはないから」
そう言ってヴェルデの頭をポンポンと軽く叩く。
あー! とか言ってフラムとカーリーが私もーとか言って駆け寄って来たので三人に囲まれてしまったのだが、それを生暖かくみる悪魔の視線がなんとも言いがたかった。
「若いとはいいことじゃの?」
なんかいきなり爺さんぽくなってないかこの悪魔。
「事情は判った。つまり、一番悪いのはこの国の王だということだね」
「そうよ!そうなのよ!!」
「あのへたれ王が全ていけないのよ!」
ヴェルデとフラムが一斉に悪魔の言葉を肯定した。
ただ、実際に事を起こしたのはヴェルデ達に間違い無いのだからここはちゃんと謝っておかないとね。
「それはさておき、ヴェルデ、フラム、ここは悪魔さんにちゃんと謝っておかないといけないよ」
えー、と文句を言う二人だがけじめだからね。
「・・・判りました。タクミ君がそう言うなら仕方ありません」
二人は、しゅんと大人しくなって僕の言ったことに納得してくれた。
うん、やっぱり僕の奥さんズは、良い子だね。
「悪魔さん! その節は感情にまかせてボコボコにした上に封印してしまって申し訳ありませんでした!」
「「「すみませんでした!」」」
「て、なんで私まで謝らなきゃいけないの?!」
ヴェルデとフラムの二人にカーリーが強制的に一緒に謝らされているのが腑に落ちないようだ。
そりゃそうだよね。
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