ラングトン大学 試験編 10

「ぶっ!! な、何やっているんですか!」


あまりの光景につい吹き出してしまった。

外でこんな事をしているところ、見られたら日本だったらまず捕まってます。


フラムに羽交い締めされているカーリーのスカートと、フラムのやはり短めのスカートをヴェルデがたくし上げている。

カーリーは涙目になってとっても恥ずかしそうだけど、フラムはニコニコして、むしろ見て、見て! と主張してきている。


当然見えるよね。

見たくて見ている訳じゃないんだよ。

見えてしまっているんだ。しかたないじゃないか・・・・でもちょっと嬉しいかも。


「何赤くなってるのよ。私のパンツなんて前世でいくらでも見ていたでしょ」

「全然違あああう! それじゃ僕が変態みたいじゃないか!」


こんなシチュエーションなんかありませんでした!


「それよりもここ! この太股の内側付け根の近くを良~く見て!」


「え、でも」


「でもじゃないの! 私だって二人の女の子のスカートを持ち上げてちょっとは恥ずかしいんだからね。こんなところ他の先生に見られたら、変態扱いされるわよ! それよりも、ここ! この内股の所に漢字の井か音楽でいう#みたいな痣が二人にあるの! 分かる!?」


「カーリー、ごめんね」


あまりにもしつこいので渋々二人の内股の所を見ると、確かに井と読める痣が両方にあった。


「べ、別にタクミ君になら見られても良いんだけど、この格好がちょっと恥ずかしい・・。」


涙目になり顔を真っ赤にしているカーリーは物凄く可愛かった。


「タクミ、タクミ! 私のもちゃんと見て!」


フラムは嬉しそうに急かしてくる。

もう十分大人の魅力が出てるフラムの内股を凝視する勇気は無かったのでチラッとだけ見て終わらせると、フラムが頬を膨らませて怒っていた。


「分かった? そして私にも同じ物が同じ所にあるの」


そう言って、ヴェルデは二人から手を離し、今度は自分のフリルのついたスカートをまくし上げ太股の部分を僕の方に見せつけて来た。

そこには確かに同じ形の痣があった。


「これはね、前々世の時、つむぎの時から有ったのだけど、タクミ、覚えてる?」


うーん、夫婦の時に見ることはあったけど意識してなかったから覚えてないぞ?


「その顔は覚えてないわね。まあ、良いわ。それよりこの痣はね、この世界にテレジア・カーナインとして転生した時にも、同じ様にあったの。そして、一度死んで、またこの世界に転生した時にも同じ様にあったわ」


今、聞き捨てならない言葉がなかったか?

一度死んだって?


「まあ言いたいことは分かるけどね。それについては、また詳しく説明するから、今回はちょっと待って。それよりこの痣の事、これがあるという事は、3人とも、つむぎ、で在ることを証明しているの」


「ちょ、ちょっと待って! 3人が、全員、つむぎ、だって?」


何を言っているんだ。

なんで? つむぎが3人?

カーリーも、つむぎ、だって言うし、それに一度死んで、また転生した?

駄目だ! 考えが纏まらない!


「タクミ君、急にこんな事を言っても訳、分からないよね。順を追って説明したいけど・・」


ヴェルデは言葉を途中で止め、悪魔を浄化中の方に目を向けた。


「確かに、今はそれよりあっちが気になるよな」


そう、さっきから嫌な気配が次第に大きくなっている事に僕たちは気付き始めたからだ。


『カーリー様、エルカシア様! 悪魔と思われる黒い固まりが、急激に凝縮し始めております!』


同時にシロからの念話が響く。

やっぱり何かが起ころうとしているみたいだ。


「カーリー、エル、それにヴェルデ、フラム、色々聞きたいことはあるけど、取り合えずあれを何とかしてからにしよう」

「ええ、私からもお願いするわ。あれに完全に復活させるとかなり面倒な事になりそうだから」


ヴェルデは悪魔の事をかなり詳しく知っているようだ。


「タクミ、私もフォローするから安心してね」


フラムは優しく微笑む顔に戻っていた。


「タクミ君、私はまだ良く解って無いけど、タクミ君と一緒に要れるならそれ以上は望まない。だから、それを邪魔するものがあれば全力で潰すだけよ」


カーリーは相変わらず僕の事を第一に考えてくれる。

やっぱり彼女も元奥さんだからそう考えてくれるのかも。


「ありがとう、じゃあ皆行くよ!」


僕の合図と共に皆が臨戦体制をとり向かおうとした時、奥の方から馬のひづめの音が複数重なって聞こえてきた。

その他にも大勢の人が走る音も一緒に聞こえてくる。


「王宮から警備隊が来たみたい」


ヴェルデが音の正体を僕たちに教えてくれる。

程なくして、十数騎の武装した馬に跨がり鎧に身を包む騎士とが姿を表す。

それから直ぐに歩兵の兵士が30人くらい居るだろうか?

訓練された動きで隊列を組、整然と登場する。

その中の騎馬一基が前に出て周囲を見渡している。


「ヴェルデ主任教導官殿! どちらにおられるか!」


他の騎士より一回り体が大きく銀色に輝くフルメタルプレートを着る金髪の青年がヴェルデを探していた。


「私ならここにいるよ!」


ヴェルデの呼ぶ声でこちらに気づいた青年騎士が馬から降り歩いて近づいて来た。


「おー相変わらずお美しいですな。今度こそ二人でお茶等して頂きますぞ」


緊張感の無い態度に緊張感の無い会話、現在の状況を感じないのか? それにやけにヴェルデに近づいていないかこの騎士?


「さて、あれ? ですな」


そう言って今も凝縮を続ける悪魔の固まりの方を向き目標の確認をしている。

さっきより一回り小さくなったけど、いっそう人型に近づき深淵を覗くような真相の黒色と成りつつある。

その間も、シロとエルが協力して結界の維持と浄化を進めているけど、いっこうに浄化が進んでいない。それよりも逆に漆黒色の魔素がクリスタルへと次々と流れ込み、悪魔の姿が一層はっきりとした形になり始めているように見える。


「王国第10警備隊、レーベン隊、重歩兵を前列と中列へ最後列は魔導隊の3重列へ展開、騎馬隊は両翼からの攻撃へ備えろ!」


騎士レーベンの号令の元、機敏に隊列を組み直し始めた。

確かに良く鍛えられた隊ではあったが、あれで大丈夫なのかな?


『カーリー様! 浄化が間に合いません! 結界もこれ以上は持ちません! 崩壊します!』

『解ったわ!』


「どうするタクミ君?」


カーリーがシロからの報告を聞いて僕の指示を待つ。


「いったん下がらせて」


僕の指示でカーリーはシロにいったん引く様に伝える。

暫くするとカーリーの横へシロが現れた。


「パァーーーン!」


それと同時に結界が破られる甲高い音が響いた。

悪魔の形態になった黒の固まりはすぐ横で浄化を続けるミッシェルの腕とクリスタルへ近づきそれを手に掴んだ。


「今だ! 魔導隊魔術展開! 攻撃開始!」


騎士レーベンの号令に、魔導隊から無数の光の矢が表れそれが全て、悪魔の体に突き刺さる。

光属性の聖魔術、ルミェフレッシェ、かなりの上位魔術なのだが、相手が悪い。

この程度ではかすり傷程度に等しい傷でしかない。

悪魔は、攻撃を気にもしないで、ミッシェルの腕ごとクリスタルを大きな口を開け飲み込んでしまった。

すると、今までぼんやりとしか分からなかった目が、次第にハッキリとし、さらに額に、もう一つの目まで浮かび上がってきた。

三つ目となった悪魔はその目で今、攻撃をしかけた警備隊を捕らえると、左腕をその隊に向け魔術を展開させた。


「黒の鉄槌」


どこから聞こえるのだろう。

口が動く事無くけれどハッキリと地の底から沸き上がるような低い声で術式名を唱えると、悪魔の周りに無数の黒い矢が発現し一斉に警備隊へと降り注いだ。

「!? た、退避!!」


レーベンの号令空しく、兵達はその黒い矢を一身に受けてしまったかのように見えたが、

一瞬早く、警備隊の魔導士が、光属性の防御結界を展開したおかげで、一部の黒い矢を防ぐ事に成功した。

だが、その圧倒的な質量と数で上回る黒の鉄槌を完全には防ぎきれず、半分以上の警備隊員が深手を負ってしまったようだ。

魔導士も今の術で、魔力が底をついた者がいる様で、何人かは膝をつき肩で苦しそうに息をしている者がいた。


「くそっ! 残った魔導士で、騎馬隊の攻撃を援護! その間に重歩兵隊を突進させるぞ!」


その命令に躊躇無く隊は行動を起こした。

隊の戦いで一人でも躊躇すると部隊として機能しなくなる事を皆が分かっているからこその乱れぬ行動だが、それでもこの悪魔には通用するものではなかった。

悪魔は魔術での攻撃を止め、突進してくる騎馬隊に向かって大きな拳で一体ずつ物理的に薙ぎ倒し始める。

騎馬隊の最大の武器は長い柄も全て金属で出来た重量級の鎗であり、これを馬の突進力で利用しての突きが最大の攻撃力のはず。

しかし、悪魔の体はそれさえも弾き返し傷一つ付ける事が出来なかった。

重歩行部隊も騎馬の先制攻撃が効いていれば意味をなすものの、逆に倒された騎馬隊が邪魔となって、今となってはただの烏合の衆と化していた。

圧倒的な大差に声も出ないレーベン。


「レーベン隊長! 後は私達に任せて隊を引いて下さい!」


ヴェルデがレーベンの所までやって来て隊を引くよう助言する。

始めは反応の無かったレーベンも、何度かのヴェルデの言葉にようやく気付いたようだ。


「な、何を言うのだ。あんな化け物、国の軍本隊でも出さない限り相手にならんぞ! いくら貴女が天才的な魔導士であっても、無理と言うものだ。ここは、撤退して王国軍の出動を要請せねば・・・」


「そんな事をしていたら、こいつが街中で暴れ出すわよ。私達で足止めしておくから、レーベン殿は国王軍の援軍の要請を! そして少しでも早く引き連れて戻って来て下さい!」

「しかし、見る限り女性と子供しか居ないではないか。いくらなんでも・・・」

「大丈夫です。この子達、こう見えて、ここにいる聖獣の使役者なのよ。悪魔に対してこれ以上の戦力は無いわ」

「・・・・・・」


暫くの間レーベンはヴェルデの言葉を噛み締める様に思考し僕たちを見回すと、溜め息を吐き小さく頷く。


「解りました。どうもこの場では私の方が足手まといの様だ。直ぐに戻ります故、暫くの間、持ち堪えて下さいますか?」

「当然!」


ヴェルデは笑顔で胸を張る。


「レーベン隊は、これより一旦王宮へ撤退する!! 各自!負傷者を庇いながら後退!!」


号令と共に各自が行動を開始した。


「さて、タクミ、国王軍が来るまで時間稼ぎするわよ!」


ヴェルデの掛け声が響く。


「行きなり大仕事だけどやるしかないね」

「そういう事! 私達、悪魔はこの世に居たらいけないと思うの。居たら困るのよ!」


ヴェルデとフラムは悪魔に対して何か思いがあるのだろうか?

それはこの世界で一度死んだという事と何か関係があるのかもしれない。


「タクミ君、私、頑張るからね!」


カーリーのその言葉を聞くと僕も頑張らなきゃと気合いが入る。


「エルもシロも宜しく! それじゃ皆、行くよ!!」

「「「「「 はい!! 」」」」」

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