冒険者 2

「ごめんね、タクミ君。ちょっとこの子、可愛い物に歯止めが効かないところがあるの。勘弁してあげてね」


ラモナさんが両手を顔の前で合わせて拝んで来る。ということは僕も可愛いに入るんだろうか?


「あ、自己紹介まだだね。私は、ミリア・スタントンって言います。よろしくね! 君達、ラングトン魔法大学の新入生だよね? 私は貴方達と同じ大学の6年生、最上級生になるわ。もちろん、冒険者登録もしているわよ。さっきはごめんね。可愛い物見ると、つい興奮しちゃうのよね」


ウィンクなんかして決めポーズ作っているよ。何か騒がしいけど先輩は先輩だし、ちゃんと自己紹介しといた方が良いよね?


「初めまして。今年度のラングトン魔法大学に入学する、タクミ・カーヴェルです。先輩、宜しくお願いします。それと彼女はカーリー・マリガン、幼なじみで同じ大学に入学します。」


「カーリー・マリガンです。宜しくお願いします。せ・ん・ぱ・い。」


カーリーが手を差し出すとミリアさんも手を出し握手する二人。

お、カーリーがなんだかミリアさんの事やたらと睨んでいる様な気がするし、ミリアさんも何故か視線を反らさず睨んでいるような気がする。取り敢えず気にせずに置いといて、エル達も紹介しておこう。


「それと、この白狐はエル、聖獣で僕の使役獣です」

「え?聖獣を使役? 珍しいわね。するとその子もタクミ君の?」


ミリアさんが指差したのは白狼だった。


「いえ、この子は白狼の子供で、カーリーの使役獣です。」


「!? え! そうなの?」


カーリーの方を見るミリアさんに頷き返す。


「今年の1年は凄いわね」


感心したように驚くミリアさん。まあ確かに聖獣を使役しているなんて、王宮の魔道士でもそうそう居るものでは無いらしい。


「えっと、タクミ君にカーリーちゃんね。そう言えばカーリーちゃんって名字はマリガンて言うのね? まさかとは思うけど、ジェナ・マリガンさんと何か関係あるのかしら?」


「ジェナは私の母ですが?」

「えー!!あの深紅の鬼姫のジェナさんがお母さん! 私、大ファンなんです! 握手してもらって良いですか?!」


さっき握手してなかった? 何故、カーリーに握手を求めるのか判らないけどやっぱり騒がしい人だな。それにしても深紅の鬼姫って、どんな二つ名なんだ? 凄く恐ろしい気がする。

その後もカーリーを撫で回し、色々質問をしてくるミリアに、ジュードがしびれをきらしたようだ。


「なあ、ミリア、朝飯はまだか?」

「あーごめん! 取り敢えず席に座って。朝ごはん持ってくるから。ジュードさん、朝定食4つと、聖獣様と魔獣の子には猪肉のクリームシチュウでいいかな?」


「おう、急いで持ってきてくれよ!」


暫くして店の奥の厨房から、良いにおいを漂わせてシチュウやサラダに加工肉と卵を焼いたもの、ハムエッグだね、とパンがテーブルに並べられる。

エルのクリームシチュウは僕たちと同じテーブルに置き、白狼のは、横の床に置かれた。


「それでは、いただきます! はい、いただきます!」


僕とカーリーが手を合わせているとジュード達が不思議そうに眺めていた。


「前も食事の度にそんな、おまじないみたいな事していたけど、何だそれ?」


そう言えばこの世界には食事する前に挨拶する習慣が無かったんだよな。小さい時に何も考えず、いただきますと言って両親がびっくりしていたの思い出す。


「これは食物となった植物や動物に感謝込めて、いただきますと、お礼を込めた祈りみたいなものかな?」


「へー、変わった習慣だな。こうか? えっと、い、ただきま、す。」

「そう、そう」


皆で食事を進めながら、冒険者の事や大学の事をミリアさんに聞いたり、ジュード達に冒険者としての必要な考えや注意する事などを教わった。


「ごちそうさまでした」


僕が食事を終えてまた両手を重ねて挨拶するとジュードが食いついてきた。


「それもなのか?」


ジュードはかなり気になるのか聞いて来るので色々と教えてあげると、なるほどと感心しているようだ。


「ミリアさん、美味しかったです! また、食べに来ますね」


「ありがとうタクミ君。君みたいな可愛い男の子なら大歓迎だよ! 今度は学校かな? 色々とお姉さんが教えてあげるからね」


ウィンクしてくるミリアさんにカーリーとエルが唸って睨みつけているぞ。二人と一匹が睨み合って動かない。何をしているんだろ?


「タクミ君、学校生活大変そうだけど、めげずに頑張るんだよ。」


何故か、ラモナさんが僕の肩をポンポンと叩きながら、しみじみと語ってくる。

うーん? よく判らないけど、取り敢えずラモナさんの忠告を胸に刻んでおく事にした。


みんなが朝ごはんを終え隣の冒険者組合で登録手続きをする為に僕達4人と2頭はミリアさんが働くレストランを後にした。

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