冒険者 1
朝のドタバタ劇をなんとか鎮めて、王宮から来られた監査魔導士に白狼の使役契約の確認をしてもらって、その審査結果を取り調べ室で4人と2匹で待っているところだ。
「お待たせしました」
扉を開け入って来たのは、昨日話しをしていた審査官と王宮からこられた監査魔導士の二人だ。
「結果が出ました。特に不備は、ありませんでしたので、これで手続きは完了いたしました」
問題は無いだろうとは思っていたが、なにせエルのする事なので特に不備が無いと聞けて胸を撫で下ろす事ができた。
「だから言ったろ? 大丈夫だって。」
ジュードの言葉に監察官は苦笑いをしていた。そんな二人を他所にラモナさんが僕達の方に近づいて来た。
「それで、タクミ君達は冒険者ギルドに行くんだよね?」
「はい、そうです。大学に行く前にギルドで冒険者登録をしておきたくて。大学の案内にも書いてあったんですけど、学生の殆どが冒険者登録しているそうで、魔獣とか魔物とかを実地演習とかで討伐する際持っていた方が何かとお得らしいので。」
「それじゃ、ギルド本部の横で朝食やっている店があるからそこで朝ごはん食べながら、簡単に手続きの流れとか教えてあげるわね」
「助かります。カーリーも良いよね?」
「うん! お願いします。ラモ姉。」
いつの間にかカーリーはラモナさんの事をラモ姉と呼んでいた。ジェナさんの戦闘術を学んでいるラモナさんはカーリーにとって姉弟子にあたるからね。
ん? 待てよ。ということは僕もジェナさんに体術とかを教えてもらっているから、僕にとっても姉弟子になるのか?
「あ、タクミ君!」
僕たちが、この部屋を出ようとして審査官や監査魔道士に頭を下げようとした時、審査官の男性から声を掛けられた。
「その成獣と魔獣だが、かなりの上位種のようだから、気を付けた方がいいよ。そういう珍しい聖獣や魔獣は狙われ易いからを気をつけるんだぞ」
審査官からの忠告に礼をして、この場から離れた。
エルや白狼を捕まえられる人間が存在するだろうか? これでも一応は神様と神獣だから無理だろうけど・・・白狼王はともかく、エルはオッチョコチョイだから案外簡単に引っ掛かって何処かに連れて行かれても不思議じゃない・・・・気を付けよう。
僕たち4人と2匹は東門の横にある衛兵や門兵達の詰め所を後にして、目的の冒険者ギルドの本部を目指した。
門から続く王都中央に向けて直線に整備されている大通りを進むけど、さすがは王都だ。
まだ朝も早い方だけど、もう人で混雑していた。
馬車で荷物を運ぶ人、豪華な衣装に身を包み、何人もの従者を連れ歩く商人、剣や防具で身を固めている冒険者風の男や女達、町の警護隊の人がそれぞれの目的に向かって歩いている。
その中にエルフやドワーフぽい亜人種も結構な数が歩いている。
トネ村にも、たまに亜人種も訪れる事もあったがここまでの数を見たこと無かった。
もう田舎丸だしで、僕とカーリーは大勢の人で賑わう街や人をキョロキョロと見回しながら歩く。こんなに大勢の人の波の中に身を委ねたのって、前世の通勤ラッシュの時以来だから、すごく久しぶりで懐かしい感覚を思い出してしまいそうだ。
そうこうして、15分くらい歩いただろうか? 目的地の冒険者ギルドに着いた。
「とりあえずそこの、レストランに入って朝飯にしようぜ。」
ジュードがギルドの右側に隣接するパンとスープの絵が看板に描いてあるレストランを指して中に入ろうと促す。
店の扉を開けると、カランカランと軽やか鈴の音が店内に響いた。
「いらっしゃいませ!」
元気の良い声が聞こえ、店の奥から白いエプロンを着けた歳のころは13~4才くらいの女の子が小走りで僕たちの方にやってきた。
「あ。ジュードさんにラモナさん!おはようございます! 今日は遅いですね?」
その女の子はジュード達に親しそうに話しかけて来る。ショートの赤い髪に大きな瞳とソバカスが少しあるが活発そうな顔立ちの美少女だ。
「よう、ミリア。ちょっと今日はこの子らの案内をするんで冒険者稼業は休みにしたんだ」
屈託の無い笑顔で僕達2人を覗き込むように見つめて来るミリアさん。
そこにエルがピョンと僕の胸目掛けて飛んで来たので受け止める。僕が抱える格好になってエルがミリアさんの方に顔を向ける。
何故かキッ!と睨み付けたように思えた。
「キャー! なにこの子! 無茶苦茶可愛いいい!」
すると今度はカーリーが僕の右腕に抱き着くように引っ付いて、エルと同じようにキッ!とミリアさんを睨み付ける。
「キャー! この子も何? 可愛いいいい!! それに、この男の子! 私のど真ん中じゃない! ラモナさん!どこで拾って来たの?!」
何かえらいパワフルな人だな。
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