冒険者 3

六日亭を、後にした僕達はものの30秒で冒険者組合の扉の前に到着した。

僕たちは分厚く大きめの扉を開き、冒険者組合の中へと足を踏み入れる。建物の中は結構広くて100人位が入れそうな大きなフロアーがあり、中央の奥に受付用と思われるカウンターが設置され、数ヶ所で受付をする窓口が等間隔に並んでいた。

ただ、時間も遅めだったせいか、フロアーの中には十数人しかおらず、受付にいる人も窓口の数の半分くらいしか居なかった。

その中の左端に座っている受付の女性職員さんの方に僕とカーリーは向かった。


「あのすみません。冒険者の登録を御願いしたいのですけど」


カウンターが結構高く、僕とカーリーは爪先立ちでようやく頭が出る状態で女性職員さんに話しかける。

その女性職員は視線を前に向けたが、誰も居ないので小首を傾げていた。

あ、見えてないな、これは。

僕も、カーリーも身長は120センチを切るくらいしかない。

この世界と前世を比較すると全体的に身長や体重は今の世界の方が大きいと思う。

魔獣や魔物が多く存在しているこの世界では人もそれなりに強くないと生きていけないのだろう。そう考えると僕の身長はこの歳としては低い方に分類される。

まあ、そんな事はどうでもいいや。とにかく気付いてもらわないといけない訳だしね。

ちなみにジュードとラモナさんは、別件で他の受付で話をしているので、今この場には居ない。


「あのーすみません、ここです!」


僕は限界まで背を伸ばし、片手をカウンターに掛けながらもう片方の手を大きく振ってアピールした。


「あ!? す、すみません! 気付かなくて」


受付の女性は、僕に気付くと慌てて謝ってきた。別にそんなに謝らなくてもいいのにと思いながらも、取り敢えず気付いてもらえたので話を進めるとしよう。


ガン!!


物凄い音が、ギルドの建物の中に響いた。数人がその音に驚いてこちらを向く。


音の主はあまりにも謝り過ぎで激しく頭を振っていたら、勢い余ってカウンターに頭を激突したようだった。額に手を当てて、声に出さずになんとか痛みを堪えてカウンターの奥で身悶えしている。


「あのー、大丈夫ですか?」

「は? は、はい。なん、とか、無事です」


いやいや無事じゃないでしょ、それ。目に涙を浮かべながら、愛想笑いをして誤魔化しているが、打った額からは、ほんのり血がにじんでいた。痛いのを相当我慢しているな、これは。


「お、お待たせしました。今日はどういった御用でしょうか?」


お、立ち直った様だ。


「僕は、タクミといいます。彼女は、カーリーといいます。今日は冒険者登録をお願いしたくて伺わせていただきました」


僕が説明すると、受付嬢はキョトンとしてどこか遠くを見つめていた。おい!大丈夫かこの女性?


「え? あ! え? 冒険者登録ですか? 君、何歳です?」

「え? 8才ですよ」


変な事を聞いてくる女性だな。


「8才だと冒険者登録は出来ませんよ? まず、準冒険者に登録していただいて、10才で本登録になりますが宜しいですか?」


あれ?おかしいな。ラングトン魔法大学に在籍している者は、8才でも冒険者登録出来ると聞いて来たのに、おかしいな?


「あのう僕達、今年度からラングトン魔法大学に入学するので登録お願いします」


「あー!ラングトンの学生さんでしたか。すみませんでした! それでは入学証明書をご提示下さい」


良かったー、登録出来ないのかと思ったよ。

僕は、担いでいたリュックから、ラングトンの入学を許可する証明書を取りだし、受付のお姉さんに手渡す。

同じようにカーリーも手渡すと、証明書と僕たちの顔を交互に見ながら何やら確認をしているようだ。


「はい、証明書は本物のようですね。それでは、冒険者のクラス確認をいたしますので、そちらの円盤状の器具前にお立ち下さい」


そう言われカウンターの左側を見ると、一段下がったカウンター上に奇妙な形をした物が置かれていた。30センチくらいの円盤状の上に一つが直径2センチくらいのビー玉の様な輝く石が7つ、半分程埋まっている状態で置かれていた。外周に赤、青、緑、金、銀の5つの玉が等間隔に置かれその真ん中の少し間を空けて、白と黒の玉が同じように置かれていた。そしてその中心にメモリが刻まれた銀色の棒が突き刺すように立っている。


「では、この円盤の横に付いている水晶玉に手を置いて下さい」


手を置くとどうなるんだろう?


『エル、この道具ってなんなの?』

『さあ、どこかで見たことがあるような気はするんですが思い出せません。ただ、それぞれの玉に色が魔法元素を現しているようですので、その水晶に魔力を流すと何かしらの変化が生じる可能性があります』


ふむ、さっき魔導士の人がやった観察術の機械版かな? 取り敢えず、右手をその水晶玉に添えて魔力を流し込んでみた。


「!!!!! わっ!!」


それは一瞬だった。僕が水晶に手を添えた瞬間、バッ!と盤全体が光った。僕もびっくりしたが、なんとか手を離す事なく光がおさまるのを待つことが出来た。


「何ですか今のは!? びっくりしたじゃないですか!!」


受付のお姉さんの驚き声に、ギルドのフロアーに居たすべての人が注目していた。しまった!目立ってしまったんだろうか?


『エル! 今のは、何?』

『判りませんが、もしかしたら神器の類いかも』

『神器?』

『はい、かなり昔ですが全能神様が、人々の魔術向上に役立てようと作られた魔導器かも』

『もし、そうだとしたらどうなるの?』

『・・・私の隠蔽術では、かなり効力が薄くなりますね。これは、やっちゃいましたね、あははは』

『あはは、じゃないよ!』


こうなったら仕方がない。とにかく、計測器がどうなっているか確認しなきゃ。恐る恐る、計測器の方を見ると、白と黒の玉が盤の上から無くなっており、残りの5つのうち3つが目盛り2つ分の所まで浮いていた。


「あのー受付のお姉さん、これは、どういう事でしょうか?」


盤の見方が判らないので、聞いてみようと訪ねたが、反応が無い。よく見ると、目を見開いて固まっているお姉さんの姿があった。

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