魔法素養調査 4

魔法素養の調査が終わり、村中が大騒ぎになった翌日、僕とカーリーは村の中心にある村役場の執務室兼応接室に呼ばれていた。


「カーリー、そんなところに立っていないで、こっちにおいでよ。美味しいお菓子とかもあるからさ」


応接室の真ん中に牛革で作られた3人掛けのソファーが2つ、向かい合う形で置かれていて、その一つにミッシェル君がお母さんと一緒に座っていたのだけど、そのソファーで挟まれたセンターテーブルに置かれた、焼き菓子や果物を食べながらミッシェル君はカーリーを手招きしていた。


「結構です。朝からそんなもの食べられません」


本当に嫌そうな顔で断るカーリーを無視してミッシェル君は手招きを続ける。


「そんな事を言っても女の子は甘いものが好きなんだから、正直に言えば良いんだよ? カーリーなら幾らでもあげるからさ」


カーリーは本当に困っている様子だったので僕は出しゃばる事にした。


「でしたら、僕が頂きましょうか?」


僕が喋った途端、キッ!とこっちに鋭い視線を投げつけてくる。


「俺は今、カーリーと話しているんだ! タクミはあっちに行ってろ!」


手先の方をクイクイっと、犬にでも向けるように、あっちに行けと言わんばかりにして部屋から出て行くよう促してきた。


「それは無理だよ。僕とカーリーの、ふ・た・り・がここに呼ばれたのだから、出て行くわけにはいかないよ」


僕の言葉が気に食わなかったのか、顔を真っ赤にして睨みつけてくる。


「なんですの、この下品な子供達は?」


今までソファーに座って紅茶を嗜んでいた、ミッシェル君のお母さんが僕を睨みつけてきた。


「ママ、こいつがタクミって言うんだよぅ。いっつも、僕の邪魔ばかりして来る嫌な奴なんだよぅ」


どっから声、出しているんだよ。まだミッシェル君も8才だからぎりぎりセーフかもしれんけど、さすがの僕も鳥肌が出てきそうだ。カーリーなんかドン引きしてるぞ。


「あなた、タクミとか言いましたわね。私のミッシェルを虐めて何が面白いのです?」


いや、虐められてるのはどっちかと言えば僕の方なんですけどね。

これ以上ややこしくしたくないので大人の対応をしておくか。


「自分ではそのように思っていませんが、もしこちらの行動でそう取られてしまったのでしたらお詫び申し上げます」

「謝れば良いというものではなくってよ!」

「では、どうしろとおっしゃるのですか?」

「そうね、あなた、そこの女の子と別れなさい」


「「は?!」」


つい、カーリーとハモってしまった。


「カーリーさんでしたよね、そこの暴力的な男の子なんかやめて、ミッシェルと付き合いなさいな。そうすれば、いつでも美味しいお菓子も食べ放題だし、将来は村長婦人にもなれますよ?」


などと言って片手の甲で口を押さえながら、ホホホホホっと笑う現村長婦人。つくづく親子だなあと、ある意味感心する僕とカーリーだった。


バタン!


「大変待たせてしまって悪かったな」


扉を開く大きな音と共に数人の男たちと、僕のお母さんとカーリーのお母さんが一緒にはいって来た。

僕たちのお母さんが入って来たせいか、さっきまで高笑いの親子は急に黙って何食わぬ顔でお茶を飲みはじめた。


「タクミ君、カーリーさん、まずはお早う。昨日は良く眠れたかね?」


少し大袈裟気味に挨拶をしてきたのは、このトネ村の村長フェリクス・ヘイズさんだ。ミッシェル君のお父さんだ。


「「お早うございます」」


「僕はよく眠れましたよ?」

「私はちょっと興奮気味だったせいかあまりよく眠れなかったかも」

「そうか、まあカーリーの方が普通の反応だろうね。しかし相変わらず、タクミ君はしっかりしてるな。ミッシェルにも見習わせたいよ」


村長の言葉にミッシェル君が僕を睨んで来る。僕が言ったわけじゃないんだけど。


「それで今日、来てもらったのは他でもない。君達二人を、王都にある魔法育成大学に入学させることが正式に決まったんだ。それで、君達に入学に意思があるかの確認に来てもらった」


村長の話を聞いて僕は当然行くことに問題はなかったが、カーリーはどうなんだろう? 彼女の家族は両親との3人暮らしだが、親父さんは有名な冒険者で、仕事のため、ほとんど家を空けていることが多かった。

だから実質お母さんとの2人暮らしだ。

もし、カーリーが魔法大学に入れば全寮制で当分村には帰って来れなくなるのでお母さんを一人残して行くことになる。優しいカーリーの事だから相当悩む事になるはずだ。


「はい!喜んで魔法大学への入学お受けいたします! タクミ君も受けるよね?」

「え?! あ、う、うん受けるけど、良いの?」

「え? なんで行くに決まってるじゃない。一人だったら考えたけど、タクミ君と一緒なら全然! 平気だよ?」

「でも、おばさんは?」

「お母さん? 大丈夫だよ。なんで?」

「なんでって、カーリーが王都に言ったらおばさん一人になるんだよ? おばさん寂しくないのかなって思ったのだけど?」


カーリーが目を丸くする。そして、あーと何か思いついたように頷く。


「心配してくれてたんだ。ありがとう。やっぱりタクミ君はそこらにいる男の子と違って本当に優しいね」


僕よりちょっと背が低いカーリーが笑顔で僕の方をちょっと上目遣いで見つめて来る。その表情がやたらと可愛いかったのでちょっと焦ってしまった。


「お母さんなら大丈夫だよ。私が王都に行ったら、現役復帰するんだって息巻てたもの」

「現役って、まさか」

「そう、そのまさかだよ」

「ほう、カーリーのお母さん、ジェナさん冒険者に復帰するのか」


村長が納得顔で、うんうんと大きく頷いている。カーリーのお母さんは、このトネ村で僕の母さんと双璧をなす美人でしかも元冒険者さんだ。その強さは隣国にも轟く程の二つ名持ちなんだが、カーリーが聞いても二つ名は教えてくれなかったそうだ。


「お母さん、お父さんとまたパーティー組んで稼ぐぞーって息巻いてた。だから、私が居なくても大丈夫なんだ」


カーリーの言葉に、ウンウンと大きく頷く母二人。


「わかった。そういう事なら一緒に魔法大学に入学してがんばろう!」

「うん!」


物凄く嬉しそうな、カーリー。


「村長、そういう事なので魔法大学の入学、改めてお願いいたします」


二人で村長に入学の意思を示しお辞儀をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る