魔法素養調査 1

アイダールという世界に転生してから6年がたった。

僕は、タクミという、たまたま前世と同じ名前で無事に転生していた。

現在はトネ村という王都から100キロ位離れたところに、こちらの世界での両親と3人で住んでいる。

ただ、前世の匠としての記憶が戻ったのは3才の誕生日の時だった。

この時は3年間何もせず無駄に過ごしたのかと歎いたのだが、少し時間が経つと、これはどうしようもない事だと現実を突きつけられた。僕は子供だったのだ。

何を当たり前の事と言われるかもしれないが、転生したらすぐにでも会える気持ちでいたので、転生の意味を考えていなかった。生まれ変わるのですよ。赤ちゃんに。

そりゃ、3才位にならないと前世の記憶を把握することさえ出来なかっただろう。

それに神様はこの世界に、人に、直接干渉出来ないと言っておられた。

つまり転生した後は、自分達で調べ進む必要があるという事だ。

そして1才や2才の子供に奥さんの転生先も名前も調べられるはずもなかった。

かと言って、3才になったからといってその事は変わるはずもなかった。

だからだろうか?

探す手段がない事に、この頃は、悩んで、悩んで、悩み過ぎて、ストレスが溜まってよく病気をしていた。

しかしある時、僕が7才になる頃、王都より魔法の素養調査の為に村へ調査団がやって来るとおふれが出たのだ。

この素養調査で、将来有望と判断されると王都で教育を受けることが出来るというのだ。しかも国が費用を全額負担するという。

なんと、美味しいお話なんでしょう!

王都に行けば何かが掴めるかもしれないと思いその日が来るのを今か今かと待ち望んで過ごすことになった。


そして今日は、そのイベントがある日。

僕は村の中央にある小さな教会に両親と向かっていた。


「おーい、タクミ! 今から教会か?」


教会へ続く道を歩いていると、少し先の畑で仕事をしていた、バックスおじさんが声を掛けて来てくれた。


「おじさーん、お早う! そうだよー!」

「そうか! がんばれよ! お前さんなら魔法素養を見出だされて王都に行けるかもしれんからな!」


おじさんが大きく手を振って応援してくれている。まあ、こればかりは応援してもらっても魔法素養が強く出るわけでも無いのだけどね。


僕も、おじさんに大きく手を振る。


「タクミ、みんな期待しているけど、素養が見出だされなくても別に良いからな」

「そうよタクミ。別に魔導士様にならなくても、私たちはあなたと一緒に暮らせるだけで幸せなんだから」

「父さん、母さん、ありがとう。僕もあるとも思ってないし、無くても平気だから大丈夫だよ」


笑いながら答える。父も母も僕を心配していてくれる。

父はこの村で農業を営んでいる。農家では無く、営むだ。

今まで個々で畑や果樹園を作っていたのを、それぞれの土地を集約し大規模農業化を立ち上げた。

農民達、個人任せで出来高が不安定だった物を一括管理し、安定した収穫と賃金制度を作ったのが父である。というのは表向きで、そのアイデアを出したのは僕なんだけどね。

父はその大規模農業を管理をするオーナーみたいな物で、村のみんなからは大将と呼ばれている。母はそんな父を献身的に補佐する、妻の鏡みたいな女性だ。

こんなこと言うと村のおばちゃん達に悪いが、そこらへんの女性に比べたら赤い髪が特徴的な美人で、村の男性から8人、結婚を申し込まれたそうだ。

僕としてもちょっと自慢な母なんだよね。

で、何を心配しているのかというと、今日、教会で8才から4才までの子供を集めて、王都からくる魔導士様が魔法素養の確認しに来るんだ。

魔法というのはこの世界の基盤みたいになっていて、ほぼすべての人々が魔法を使うことが出来る。

ただし、一般の人が出来るのは、火属性の初期の着火や、水属性の初期のウォーターが出来る所謂、生活魔法といった程度だ。

けれど、たまに魔法素養が高い者が現れ、その者は魔導士となることが出来るのだ。

ただし専門の知識を習得する必要があるし、習得したからと言って、全員が優秀な魔導士になるとは限らない。そこで国が、定期的に魔法素養の高い子供を調査して、見つけたら王都に無償で招き、魔法学院で学ばせるというわけだ。

そして今日がその調査日なんだ。


「タクミ君、お早う!」


僕の名を呼んで一生懸命に走り寄って来る。肩まである金色の髪をなびかせ、ブルーの大きな瞳の活発そうな女の子、幼なじみのカーリーだ。


「エル様もお早うございます」


カーリーが足元にむけて挨拶をしてくる。そこには白いキツネが一匹、僕の足元に纏わり付いていた。

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