神様だって謝罪する 3

「は、はい! ご説明させていただきます。彼女、つむぎ様は私に罵声を浴びせつづけた後、


「今、何か言いました?」


匠がエルカシアの言葉を遮り、彼女の言葉を確認する。それに気づいたのか、真っ青だった顔が紫色になりかかり、また土下座スタイルに戻ってしまった。


「す、すみません!! その私を戒め、導いて下さいました後、異世界への転生について色々と取り決めさせていただいたのです。一つ目は、匠様が亡くなられたら、匠様の意思を確認した後、同じ異世界へ転生させていただくという事」


それは聞くまでもないよ?


「二つ目は、匠様が異世界に来られるとしても自分達が死んでしまっていたら元も子もないので、無事に生きて行けるだけの力を授ける事。これは神様とも相談いたしまして、アイダールの世界での元素魔法属性の7つの内5つを授けさせていただいています。その他、有害毒耐性とか有害細菌耐性とかいくつかの加護も付けさせていただきましたので、アイダール世界ではちょっとやそっとでは死なないはず・・・・です」


うーん我が奥さんながら、えげつなくチート体質を手に入れているなと感心してしまう。そういえば結構一緒にゲームとかして遊んだ事があったな。


「エルカシアさん、一つ質問していいかな?」


「は、はいなんでしょう?」


エルカシアさん何かビビッてませんか。


「いえ、アイダールというところは魔法とかのある世界なんですか?」

「はい、人の生活基盤に魔法が存在し、魔物に魔獣もおりますし、異人種族も多いです」

「異人種族? ですか?」


「はい、エルフにドワーフ、魔人に獣人等などの事です」


おー! 良くある小説や漫画のパターンそのままだな。でも、そんな世界だと奥さん本当に大丈夫なんだろうか? そんな事を考えていると、エルカシアがそれえを察したのか言葉を続けてきた。


「国同士の戦争も結構ありますが、地球でいう中世から近代に入る前くらいの世界ですし、奥様の力は飛び抜けて強いですから」


「それで問題というのはなんですか? 今まで聞いていて特に問題は無いように思いますが?」


「えーと、それがですね、匠様が亡くなるのは、奥様が亡くなられてから18年後と予定表で確認されていました。ですので、本来なら奥様の転生を極限まで遅らせて匠様の転生と時間差を少なくする必要があったのです。」


確かに、別世界でも同じように時間は流れるのだろうから、奥さんが亡くなって直後に転生したら私が転生する頃には奥さん18才になってしまうのか。


「しかし転生を凍結するためには魂そのものを神の管理下に置き凍結する必要があります。しかし、余りに長期間、凍結しておりますと劣化が発生し、たとえ転生しても五体満足で生まれない可能性があるのです。ですので、限界ぎりぎりの最長の15年間凍結して転生させる手筈でした」


でした?


「まさか凍結の時間を間違えて転生させてしまって、身体に異変が起こったのか!?」

「い、いえそれは大丈夫です!! 転生先で無事にお生まれになっておられます!!」


エルカシアさん、だんだんと喋り方が敬語化されて来てないか?一応神様なんだろうに。


「では何があったのです?」


「そのですね、凍結されている魂はつむぎ様だけでなく、他にも色々な理由で結構多くの魂が保存されているのですが・・・」


歯切れの悪い喋り方をするエルカシアさん。どうしたって言うのだ?


「それが、ですね・・・色々忙しかったので、つい他の凍結中の魂と間違えてかなり早く凍結解除してしまいまして・・」


「どれくらいなんですか?」


「えっと、凍結開始してから・・1」


「1年?」


「いえ、1ヶ月・・です。す、すみません!!」


う~ん、このエルカシアさん、管理神とか言っていたけど、この人に管理されているこのアイダールっていう世界大丈夫なのか? 凄くしんぱいだが、 それよりも奥さんの現況の確認が優先だ!


「それで奥さんは現在どうなっているんですか?! そこをはっきりと言って下さい!」

「は! はい! えっとですね・・転生されたのが18年前となりますので、」

「現在18才ということですか?」

「いえ、27才になります。」

「へ? 27?」

「はい、地球の時間軸とアイダールの時間軸では1.5倍ほど差がありますので、27才となります・・」


はあ~ため息しか出ないな。エルカシアさんの、ドジっぷりもここまで来ると才能なのかな?

それにしても現在27才、つまり27才差か。

私がこれから転生して成人している頃には40才は超えているということだよね。


「一つ質問ですが、神様なら転生した奥さん達を保護して、僕が転生し大人になるまでの十数年後に再び世界に出現させる事は神様なら出来るのではないのですか?」


「いえ、さすがに現世に生まれてからには、個人に干渉することは出来なくなっておりますので、申し訳ありません」


全能神のパデュロスさんが本当に申し訳なさそうに謝ってくる。こんな不出来な部下を持つ上司も大変何だろうと、かえって同情してしまういそうだ。


「それじゃ仕方ありませんね」

「え?! よろしいのですか?」


あまりに私が簡単に許した事が以外だったのか聞き返されてしまった。聞き返されてもこまるんだが・・


「よろしいも何も、今の最善は一刻でも早く私が転生する事しか無いじゃないですか! 彼女が30才だろうと40才だろうと彼女が私を待ってくれているのなら関係ないですよ」


「そう言っていただけると、こちらとしても助かります。早速、つむぎ様の言い残された通り、匠様に元素魔法属性の2つとその他の加護を授けて転生の準備に入らせていただきます!」


「お願いします。それでその元素魔法とか、加護とかは説明していただけますか? 何も知らないというのは、さすがに心配なので」


「あ! それなら大丈夫ですよ。このエルカシアを匠様の眷属として使わしますから、転生先で説明を受けてください」


神様がごく普通に言われるので 「あ、そうですか」 と簡単に答そうになって思い止まる。あ、エルカシアさん、驚きすぎて神様の方を向いて固まってしまっていますね。


「あの、神様? 神というのは現世では個人に直接関与出来なかったのでは?」


「それも大丈夫です。さすがにここまで失敗しますと、それなりに罰を与えないと他の神に対しても体裁がつきませんので、土地神まで降格させます。土地神は自分の縄張りの土地を直接管理する地域神ですので人との関わりも問題ないのです」


「そうですか」


でもこの女神が付いて来るのは考えものだぞ。


「そんなあぁあ~~! パデュロス様!! お考え直しいただけませんでしょうか?!」


あー泣きながら神様にしがみついているよ。

よっぽど嫌なんだろうな。


「大丈夫ですよ、エルカシア。一度再研修もしたかったですし、もう一度世界を自分の目で見て勉強してきなさい。なあに500年もすれば神域界に戻って来られますよから」


優しく促すようにエルカシアを説得する神様の目は笑っていない。その目の迫力に負けたのか黙ってしまうエルカシアさん。

う~んこれは決まりのようですね。私としては嫌なのですが、断るとエルカシアさんの処遇も変わって心配ですし、仕方ありませんか。


「それでは、このまま転生いたします。どうか奥様にも申し訳なかったと、お伝え下さい」


全能神パデュロスは、姿勢を正し、匠に向けて深くお辞儀をされた。

すると私の身体はすーと光の粉に変わり青空の先に飛んでいく感覚になったかと思ったあと、意識がそこで途切れたのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「行かれましたか」

「はい、たった今」


匠が去った後、聞こえてきた声はエルカシアと同じ様な綺麗な女性の声だが、その妖艶さと迫力は桁違いだ。


「エルカシア程度の力で大丈夫ですか?」


その女性がパデュロスに問う。


「判りませんが、これ以上は不自然ですので、仕方がないです」


パデュロスの言葉を聞いた女性は少しの間を置いて話し出す。


「後はあの子達にこの世界の行く末を託しましょう」


その言葉を最後に二つの意識は、その場から徐々に消えていった。

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