神様だって謝罪する 2

さっきまでは何も見えなかったはずだった。

でも今は白い壁に白い床、そして天井は真っ青な青い空?


「ここはどこだろう?」


上に見える青空のおかげで白い空間の大きさを把握できるが、上も白一色だったら何もかも判らなかったと思えるほど白しか無い床と壁だった。20帖程の広さはあるだろうか?

そして私はちょうど真ん中辺りに立って・・・・いるのか? 此処に居るのは意識出来る。でも、身体というか実体を感じられない。


「一体どうなっているんだろう?」

「申し訳ない。鷲尾殿」


不意に上の方から野太い男性の声が降って来るように聞こえてきた。物凄く響く声だ。

そしてゆっくりと男性が空から降りて来た。傍らには女性が一人一緒に降りて来る。というより、女性の方はその男性に首根っこ捕まれた状態でだ。


「鷲尾 匠殿、改めて謝罪したい。このエルカシアが度重なる粗相をいたし、匠殿と奥方に大変ご迷惑をおかけした」


大柄の男性は白いスーツ?いや海軍とか海兵隊とかそういった類の正装に近い上下に、短めのマントを纏い、シルバーの髪色に薄いグレーの瞳をもったダンディーなおじ様といった感じだろうか。


その大柄の上半身を大きく曲げ、匠に向かって頭を下げていた。

女性の方は、その男性の大きな手で頭を押さえ付けられる形で同じように頭を下げさせられていた。


「あの~、そちらの女性がエルカシアさんという事は、あなたは?」


「はい、自己紹介が遅れ申し訳ないですね。私の名は、パデュロスと申します」


エルカシアさんの言うところの全能神様ということになるのか。


「不躾で申し訳ありませんが物凄い神様なんですよね?」

「物凄いかどうかは自分自身では分かりませんが、これら各世界の管理神を統括する仕事は、しております」


やっぱり物凄い人、じゃなくて物凄い神様だった。


「その神様、どうして私に謝られるのかが判らないのですが」


「その辺りを順を追ってお話しするためにここに降りてきました。まず、あなたの奥様、鷲尾つむぎさんの事ですが、こちらの書類ミスで1年近く早くに亡くなられております」


ん? 今聞き捨てならない言葉が出たぞ。


「1年早くですか? もしかして後1年は長く生きられて一緒に過ごす事が出来たと?」


「そうです。奥様、つむぎさんは、亡くなられた後、別世界への転生は以前より決まっておりました。その転生先世界の管理神がエルカシアなのですが、予定死亡日と転生日の日付を書き間違えておりまして、本当は11月11日死亡のところを1月11日と書いて書類を回してしまったようで。」


決まりの悪そうに神様が話している横でエルカシアは正座させられ、シュンとなっている。


「それで、彼女はどうなったんですか?」


エルカシアの事務ミス? は置いとくとして、つむぎがどうなったのか、その方が気になる!


「それはもう、悪魔の如く怒られましたよ。匠殿と1年近く早く別れさせられた事が本当に悔しかった様でして、その後、アイダールの時間で3日3晩、エルカシアは正座させられて怒られ続けたようです。管理神とはいえ、一神をあそこまで恐怖させられる人間はそういませんよ」


感慨深そうに語る神様の横でエルカシアも大きく相槌をうっている。


「それで私が仲裁に入り、異世界への転生を承諾してもらうために色々と譲歩させてもらいました。本来なら私が直接人間の転生や転移には関与しませんが今回は特別ということで対応させていただいたのです」


「つまり、彼女はアイダールという世界に転生しているということですね?」

「はい、前世の記憶を残したままの状態で、です」

「それは、つまり・・・」

「はい、あなた、匠さんが来られるのを待っておられます」


その言葉を聞いて、胸が熱くなった。いつだったか、二人が生まれ変わったらという話をした時、つむぎが迷うことなく「また結婚してくださいね」と言ってくれた事に私も迷い無く頷いた事を思い出した。今思えば結構恥ずかしいが、でも彼女はそれを守ってくれたんだ。なんて言うか、自分で言うのも恥ずかしいが、私の奥さん全世界で一番良い女なんじゃないだろか。多分? いや絶対だな。


「それで私もその世界に転生させていただけるという事なのですね?」

「はい、奥様の要望の一つですのでそれは確実にです。ただ・・」

「ただ?」


何か嫌な予感しかしません。


「重ねてのこちらの落ち度で、問題が発生しており、匠殿にご迷惑を掛けてしまいました」


問題? 私に対してと言うことは、奥さんに対しては問題ないという事だろうか?


「それはどういった問題なんでしょうか? やはりそちらで正座して冷や汗流しているエルカシアさん絡みでしょうか?」

「御明察の通りです」


神様と私の視線がエルカシアに重なり、見る間に顔が青ざめていくのが見えた。


「申し訳ございません!!!」


エルカシアさんて多分普通にしていれば絶世の美女と言っても良いだけの顔とスタイルだ。

誰が、どう見ても女神だと言って反論する者なのどいないだろう程の美しさだ。

だが、今は半ベソ泣き、額を地面? 床かな? に、擦り付けるように土下座している姿はただ、情けないお姉さんくらいにし見えなかった。


「エルカシアさんから説明していただけますか?」


匠の言葉に顔をあげるエルカシア。横に立つ神様にちらりと視線を送ると、神様がコクりと頷いた。

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