転生先で最強の奥さん達?が待っている!

ユウヒ シンジ

神様だって謝罪する 1

「まさか誕生日の日に事故に会うなんて・・・」


子供や孫達に恵まれ、一流企業ではないがそれなりに頑張ったおかげで40年間勤め続け、もうすぐ定年を迎えようとする、ごく普通のサラリーマンの一生が今、終わろうとしていた。


車に跳ねられる瞬間、運転手の顔がはっきりと見えた。あんな驚いた顔されても、跳ねられたこっちの方がビックリなんだが。居眠り運転だったんだろう。

バス停で待っていたところに、ノーブレーキで突っ込んで来たからの、お互い気づいた時には終わっておった。

あんたにも家族がおっただろうに、こんな爺さん跳ねて人生を棒に振ってしまうとは、可哀相だの。


自分が死にそうな時に人の心配をする、お人好の男、鷲尾 匠は今、病院に迎う救急車の中にいた。


とにかく頭はしっかり動いている様だし、自分の体のチェックをしてみるか。


そう自分に言い聞かせるようにして自分自信の体の状態確認を始めた。


まず、手だけど・・動かない。

次は、足だけど・・これも両方とも全然動かない。

次は視力だ、えっと・・瞼が開かない真っ暗だ。

じゃあ、耳は・・・何も聞こえてこない。

後は声か、・・喋れない。

・・・・・うーん、これは駄目かもしれんな。

死ぬ時ってもう少し取り乱すものかと思っておったが、案外こんなものかもしれん。

なんといっても私の人生、自分で言うのもなんだが悪くなかったからの。端から見れば普通の人生なんだろうが、私にとっては充分、幸せな人生だった。だから落ち着いて死を迎えられるのかもしれんな。

子供達も独り立ちし、孫までいるんだからこれで文句いったら死んだ奥さんが怒って出て・・・・・来てほしいな。


匠は落ち込んで来た。

死にそうなんだから落ち込むも何もないのだが、奥さんの事を思いだしてしまったからだ。

 

彼女と知り合ったのは高校一年の時だ。

当時、物凄く可愛い女の子が入学してきたと話題になり、あっという間に学校のアイドルになった彼女だが、未だに分からない事なのだが、何故か、この平凡という字を書いた紙を背中に張り付けて歩き回っているようなこの私に何故か告白してくれたんだ。

そのせいで男子生徒からは羨望の眼差しを向けられたり、妬みの対象にされたり、女子生徒からは、私が彼女の弱みを握って脅迫しているのではないかと噂され、学校からも呼び出しを受け、ありもしない疑いをかけられたりした。まあ、天使の様な可愛い彼女が私の恋人になったのだから、当然なのかもしれない。

でも、そんな事はどうだって良かった。

彼女がいつも横にいて一緒に怒ってくれ、泣いてくれて、そして一緒に笑ってくれたから、それが嘘偽りのないと感じれたから、何も恐れる事はなかった。

その後も同じ大学に進み、卒業して就職が決まった後、すぐに彼女と結婚した。

それからもずっと一緒だった。

そういえば喧嘩した覚えが無いな?

世間では喧嘩するほど仲が良いとか言っているが、私らの前ではそれはあてはまらなかったと思う。

子供もでき、そんなに優秀とはいえないけど、それでも立派に独り立ちしてくれ、自分達の家族を持ってくれた。

これ以上の幸せを見つけるのは難しいだろう。そう思っていた。

ところが、初めての孫が生まれるまで、もう間もなくといった時に彼女は、あっさりと私を置いて死んでしまった。

今の私と同じで交通事故だった。

そういえばあの時も居眠り運転だったな確か。

あの時始めて人を恨んだような気がする。

自分に、こんな感情があったんだと思えるぐらいその運転手を恨んだ。

ある時、ふと鏡を見た時そこに写っている自分の顔を見て愕然とした。こんな鬼みたいな顔は誰だってね。

そしてこんな酷い顔を奥さんが見たら泣くだろうと考えたら、一気に力が抜けて恨むという感情は萎んでしまった。それからは人を恨むという事は全くなかった。

そして一生懸命に働いて誰にも後ろ指を指されない人生を送ろうと誓った。

自分が死んで、もしあの世で奥さんに会えたとき、ご苦労様って言ってもらえるように。


はあ、奥さんに会いたい・・。


「その願い叶えて差し上げます」


突然、匠の頭の中に綺麗な女性の声が響いて来た。


「え??」


辺りを見回す匠だが、誰も見当たらない。


幻聴か? 死ぬ間際には変な幻聴が聴こえるものなんだろうか?


「違います! それに変じゃありません!!」


今度はしっかりと聞こえた匠。


「あ! すみません。突然の事だったんでついビックリしてしまって。それに私、死ぬのは始めてだったんで勝手が判らず本当にすみません」


「たいていの人は、死ぬの始めてだと思いますけど?」


声の主は、匠の受け答えに調子を狂わされたのか、少し不機嫌気味に言葉を返してきた。


「えっと、鷲尾 匠さんですよね。私は全能神パデュロス様に使えております、管理神エルカシアと申します。この度、あなたに神の祝福を受ける事が許されました。よって、先程も言いましたが、あなたの願いを叶えて差し上げられます」


なんかこの声の主、ちょっと早口だな。何かを焦っているんだろうか? 怒っている様にも聴こえるし?


「あのー、願いっておっしゃいました?」

「はい、そうですが?」

「神様に願いというと家内安全とか五穀豊穣とかですか?」

「それは! 日本の神のことでしょ!」


すると苛々したのか女神エルカシアが少し語気を強めて話し出す。


「私が言っているんのは、匠さんが先程願った、奥さんに会いたいって言う願いの事です!」


この声の主、エルカシアという方の言葉を一瞬理解出来なかった。奥さん? 誰の? 僕の奥さん? 会える? !!


「あ、会えるのですか?!」

「そうです!」

「本当ですか?!」

「そうです!!」

「どうして?」

「どうしてもこうしてもです! とにかく早くしましょう」

「何をですか?」

「異世界への転生に決まっているでしょう! 説明はあちらの世界に行ってから話しますから、早く「はい」って言って下さい!」


やっぱり焦っているよな。何か問題でもあるのか? それともあの世の詐欺商法か?


「昔、爺さんに言われたんだが、早口で畳み込むように話して来る人間は信用するなって」

「あー!もう時間がない! もう飛びます!」

「え?ちょっ! ま、待ってくだ・・!」


エルカシアの叫び声と共に、周りがまばゆく光輝き、一瞬で匠を飲み込んでいった。

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