島の主を倒す戦士


 タキギに案内され島の奥へ。

 今まで魔物の楽園であっただけに森は行くほどに拒絶の色を濃くしていた。


「いつもなら前線拠点に行くまでに何十匹と遭遇するのにさ。未だゼロってやばすぎじゃんよ。団長どんだけ危険生物じゃん」

「これ、俺のせいなのか?」


 森は恐ろしく静かだ。

 先ほどまで鳴いていたはずの鳥すら近づくと黙り込む。

 茂みの奥では獣たちが身を隠し震えていた。


 ここは異大陸でも見られないほどの高レベル帯である。にもかかわらずこの有様、予想していたこととはいえやはりショックだ。


「ようこそ前線拠点へ」


 木製の門を開けて俺を招く。

 拠点と称した森の砦はそこそこ規模が大きく周囲をぐるりと木製の壁で囲っていた。


 樹木の強度はその土地の平均レベルに左右されるそうだ。

 さらに『裏レベル』の高さによって強度に大きな違いが生まれる・・・・・・らしい。ネーゼの説明では、ありとあらゆるものに裏レベルが存在し基礎能力を決定づけているそうだ。つまり俺の故郷の樹とこの土地の樹は同じ種でも強度に大きな隔たりがあるのだ。


 なので木材だからと壊れる心配する必要はない。


 門を越えた先はイメージ通りの開拓村であった。

 他と違うのはほぼ全ての住人が冒険者である点だろう。


 ここでは酒以外全て自給自足だそうだ。なかなかブラックな環境ではあるが、その分報酬も高額だし一ヶ月ごとの交代制にもしている。ここで得た素材も持ち帰ることができるので最終的に得られる報酬はかなりの額となる。

 高レベル帯ならではの経験値の多さも魅力的だろう。たった一ヶ月生き抜くだけで金と力が手に入るのだ。この仕事を目的に漫遊旅団に入る者達もいるくらいだ。まぁそういう奴らは一週間もせずに逃げ出すそうだが。


「よぉ、副団長はどこじゃんよ」

「ネイさんなら団員を連れて『主狩り』に出かけましたよ。あの人は?」


 タキギに声をかけられた青年がじろりとこちらを睨む。

 俺が何者なのか知らないらしい。というか知ってる奴の方が少ないけどな。


 青年の態度が見過ごせなかったのかタキギは「団長じゃんよ」と声を低くして注意する。


「えっ、ええっ!? 団長!?」

「トールだ。よろしく」

「はいっ! あ、僕、Cランクのヘッジです!」


 青年と握手を交わす。


 ネイのおかげもあって俺は半ば生ける伝説と化していた。

 ただ、未だに俺が団長であることを認めていない奴もいるが。


「団員歴は長いのか?」

「まだ三ヶ月です。けど、ここに来てかなりレベルは上がりました。自給自足は大変だけど他の団員も優しいですし結構快適に暮らしてますよ」


 どうやらヘッジは報酬ではなくレベル上げが目的らしい。

 漫遊旅団に入る以前はアルマンのダンジョンでレベル上げをしていたが、より経験値の美味いこの島を知り仲間と共にやってきたのだとか。


 ちなみにだがアルマンのダンジョン(俺が置いた奴)は現在、経験値稼ぎの穴場として大量の冒険者が押し寄せているそうだ。そのおかげで経済効果は著しく冒険者の平均レベルも爆上がりしている。所有者である俺は複雑な気分だ。


 俺とタキギはヘッジに別れを告げ拠点を出発する。


「主ってのは?」

「エリアを仕切る魔物のボスじゃん。この島の開拓が進まない原因じゃんよ。最近じゃ主同士で協力し合っているのか、絶妙なタイミングで同時攻撃をされてるじゃんか」


 直近の報告書にそんな記載があったのを思い出した。


 突然変異らしき異常な強さを有した魔物達。

 配下の魔物を使ってエリアの侵入を拒んでいるのだとか。


 確認されている主は七体。

 開拓を前進させるべくこの七体を排除することが現在の目標となっている。


 しかし、ネイが苦戦する魔物とはどのような奴らなのか。今のネイは昔では想像もできなかったほど強くなっている。間違いなく漫遊旅団最強の格闘家だ(俺を除く)。


 ずずん。僅かに地面が揺れる。森の奥から轟音が響いた。


 ネイ達が戦っているのだろうか。


「今日も派手にやってるじゃん。敵さんも往生際が悪いじゃんね」

「・・・・・・優勢なのか?」

「単純な強さで言えば副団長の方が上じゃん。問題は仕留められないってことじゃんよ。敵は一癖も二癖もある歴戦の強者。おまけに相手に有利なホームじゃん。そこら中に逃げ道があっていつもぎりぎりで逃すじゃんよ」


 どどどどど。猛烈な勢いで何かが近づいていた。

 大きく白い塊。頭部の角で正面の樹を難なく砕きながら突進を続ける。


 そいつは最弱に分類されるホーンラビットであった。

 だが俺が知るそれではない。体高は三メートルを超え、でかい図体にもかかわらずその速度は猪のごとく速い。


 真っ先に思ったのは『何を食ったらあのサイズになるんだ』である。

 

 ホーンラビットは俺を視認しながら突進を続けていた。俺が危険な存在だってことは本能で察しているはずだ。それでもあえて向かってくるのは正面突破しか策が残されていないからだ。


「どうやら逃走ルートを全て潰されたっぽいじゃん。さすが副団長じゃんよ」

「これ、俺がやらないとダメ? タキギは?」

「あれとは相性が悪くて。ここで団長がやらないとまた反省会じゃんよ」

「しかたない。手伝いに来たのは俺だしな」


 俺がやる気になったのを察したのか、ホーンラビットはさらに足を速めた。

 光沢のある金属のような鋭い角を真っ直ぐ俺に向け、このまま貫かんと明確に敵意を示していた。


「これくらいか?」

「――!?!?」


 ホーンラビットの顔を横からビンタする。


 真っ直ぐ走ってきていたそれは、直角を描くように真横に弾き飛ばされ百メートルほど先で大木を揺らした。たぶん絶命したと思う。


「うわぁ・・・・・・相変わらず化け物じゃんか。どっちが魔物か分かんないじゃんよ」


 やめてくれ地味に傷つく。

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