221話 戦士はクソ野郎を地獄へ蹴り戻す4
二百人のザウレス。
「レベルは1000程度だが能力は同等だ。油断しない方が良い」
こんな攻撃手段もあるのか。
どうなってんだあいつの体。
二百対三人の戦いが始まる。
本体であるザウレスはその場から動かず眺めていた。
「フラウはカエデを守れ。俺は一人でなんとかする」
「ですがご主人様!」
「カエデ、よそ見している場合じゃない! こいつら思ったより素早い!」
ザウレス(複製)は言葉を交わすことなく攻撃を繋げてくる。
斬っても斬っても即座に再生しきりがない。まるでゾンビのよう、再生しない分ゾンビの方がまだ可愛げがあるかもしれない。
「私の魔法で一網打尽にします!」
敵を引き連れながらカエデに合流する。
カエデが濃密な魔力を集中させる。
どうやら広域魔法を撃つようだ。
上空を黒い雲が覆う。
「終月白降殿!」
一気に気温が氷点下まで低下し、雲は九つの渦を巻いて螺旋を描きながら地上へ達した。極寒の風が大地を凍らせ純白の世界に変貌させる。
ザウレス(複製)は残らず氷像と化した。
とんでもない魔法だ。
超広域魔法とでも呼べばいいのか。
本体であるザウレスは炎のドームを創り攻撃を防いでいた。
「抵抗値を無視した魔法、私を倒す可能性のある力か。排除を最優先にしなければ」
カエデを狙ってザウレスが動き出す。
首を狙った横への一閃に俺は縦の一閃で阻む。
「させるか」
「退け」
「フェアリィフラッシュ!」
「なっ!?」
至近距離でフラウが体から光を放った。
前もって知っていた俺は目を閉じてやり過ごし、視覚が麻痺している奴へ刃をたたき込む。
「まだ理解できないか。私には勝てないと」
「俺だけならな」
「葬炎装束鬼狐!」
蒼い炎に包まれたカエデがザウレスを殴る。
タマモが使っていた魔法だ。殴る度に肉体は凍り付き拳はさらに加速する。
「ようやく顕現できた、私が! 女!」
ザウレスが魔法を放とうと手を伸ばす。
だが、俺は刹那に腕を斬り飛ばした。
「おとなしく、しんでろっ!」
フラウが強烈な一撃をたたき込む。
ザウレスは真っ直ぐ地面に叩きつけられた。
「驚いたよ。ここまで追い詰められるなんて計算外だ」
ぴきぴきとカエデの魔法がその肉体を凍り付かせて行く。
もう間もなくこいつは身動きすらとれなくなる。
ずががががが。
地面から次々に触手が飛び出し俺達を絡め取る。
なんだとっ!?
「私は人のようだが人ではない。この形状は扱いやすさの他に騙しやすさもあってとっているのだ」
ザウレスは凍り付いた部分を全て切り捨て元の形状を復元する。
起き上がった彼の背中からは大量の触手が伸びていた。
地中へ密かに張り巡らせたのか。
「あわわ、これってめちゃくちゃヤバい状況じゃない?」
ばちち。どこからか発生した稲妻が触手を焼いた。
しかし、触手の数が多すぎて解放されるにはほど遠い。
俺達に管が突き刺される。
肉体は弛緩し、自分の中にある何かが吸い取られる感覚があった。
「レベルを下げ、それからゆっくりとスキルを奪うとしよう」
「や、めろ」
力が抜ける。
ステータスを開くと、レベルが下がり続けていた。
カエデとフラウが懸命にもがくも、触手がほどける気配はない。
このままでは経験値を残らず吸い取られてしまう。
シュッ。ドシュシュ。
触手がちぎられ俺達は地面に落ちる。
「ぐぉおおおおおおおおお!」
大きな塊が降ってきて、ザウレスは反射的に後方へと飛び下がった。
重い音を響かせ着地したのは、見上げるような獣だ。
その背中に乗るのは三人。
「敵、なのでしょうね。あれは」
「トール達がいるデース!」
「見たか、我が弓の腕前を」
マリアンヌ、モニカ、アリューシャだ。
俺達は麻痺していることもあって動けないまま。
「薬を、頼む」
「ストレージをお借りしますわね」
マリアンヌが薬を取り出し飲ませてくれる。
なんとか体は動くようになったが、レベルはちょうど3000になっていた。
「そのレベルで戦うつもりか」
「ハンデだよ」
大口を叩いてみたものの、まったく勝てる気がしない。
どうすればこいつを倒せるんだ。
唯一可能性があるのはカエデの魔法だが。
「もう魔力が」
「魔力貸借を使えば――」
「そうではなく、総量が減少してしまったのです。これでは九尾の魔法がほとんど使えないことに」
あの蒼い炎の魔法はかなりの魔力を消耗するそうだ。今のカエデでは氷結葬火を撃つだけで精一杯らしい。通常の氷魔法ではあれには効果も薄いだろう。状況はますます厳しいものに。
いっそのこと逃げるか。いや、奴が見逃すとも思えない。
「最後の手段が残っています」
彼女の覚悟を決めた目を見て嫌な予感がした。
「大婆様に使うなと堅く禁じられましたが……」
「待て、カエデ!」
「約束を破ることになり申し訳ありません。ですがご主人様を救うにはこれしかないのです。今日までの楽しい日々は私の宝物です。貴方に会えて本当に良かった。私はトール様が大好きです」
やめてくれ。
最後の言葉みたいじゃないか。
「氷滅界!」
ザウレスへとカエデが向かう。
次の瞬間、二人を蒼い球体が包み込んだ。
「これはまさか!? 自爆するつもりか!」
「ご主人様をやらせはしません。地獄までお付き合い願います」
周囲に稲妻が発生し、強い風が吹き荒れた。
そして、激しい閃光が発生し、二人は跡形もなく消える。
二つの鉄扇が落ちてきて地面に突き刺さった。
「あ、ああ……」
俺は脱力して両膝を地面に突いた。
「主人を助けたつもりだろうが完璧な死に損だ」
「!?」
ぐにょりと真っ黒いスライムが瓦礫の陰から姿を見せる。
それはザウレスの形となった。
「保険として体の一部を潜ませていた。レベルは2万とずいぶん落ちたが、それでも君達を殺すには十分だろう?」
ばちっ、ばちち。
俺の激しい怒りに同調し、稲妻が迸る。
「いやぁぁああああああ! カエデ、カエデが死んじゃった! なんで!? どうしてこんなことになるの!?」
フラウは泣き叫び取り乱していたが、俺には気遣いをする余裕などなかった。
怒りだけが俺を現実に引き留めていた。
大剣から蒸気が噴き出す。
身につける全ての聖武具から黄金の光が放出された。
お前も怒ってくれるのか。
そうだよな、ずっと一緒に旅をしてきた仲間だもんな。
力を貸してくれ、相棒。
カエデの鉄扇が光となって俺の聖武具に吸収される。
フラウの手元にあったハンマーも光となり吸収。
遠くから8本の光が軌跡を描き俺へと落ちる。
ここに十二の聖武具が揃った。
聖武具は俺の右手に集まる。
『聖波動極大霊滅機二十七式、解凍』
どこからか声が響く。
俺の右手には神々しい大剣が握られていた。
「馬鹿な、内側から強制解除したというのか!? そんなことできるはず――まさか最初から権限を!?」
ザウレスはひどく怯えていた。
これの力を知っているのなら当然だ。
俺のレベルは聖波動極大霊滅機二十七式によって一時的に30万に達していた。
大量の魔力が吸い取られる感覚があった。
俺から発生する稲妻は強力になり、無差別に何もかもを焼いていた。
優しく殺して貰えると思うなよ。クソ野郎。
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