215話 戦士と古代都市5
貯蓄系スキル……物心ついた頃からすでにあった謎のスキル。
つい最近まで使用方法も効果もまるで不明だった。
こいつのおかげで今があるわけだが、なければ、もうちょいストレスのない人生を歩んでこられたのかなとも思う。まぁそれでも、わざわざ俺の所に現れてくれた変な奴に感謝しつつ、最大限力を振るわせてやろうとか考えていたわけだ(気持ちの上では)
俺はてっきり自分に発現した能力だとばかり思い込んでいた。
違ったんだ。
現実は違った。
「――中立派は最後の希望として貯蓄系スキルを生み出しました。一定の経験値をため込んだ後、数倍にして解放する最強のスキル。これにより所有者は短期間で高次へと至ることが可能となりました」
窓に映し出されるのは虹色のスクロール。
恐らくアレを使用することで、対象に貯蓄系スキルを付与することができるのだろう。
だが、全く記憶にない。
「ご主人様、顔色が……」
「大丈夫、大丈夫だ。これは俺の話でもあるんだ」
イオスは運命の子と呼んだ。
あの時は何のことかさっぱりだったが、ここに来て運命って奴にずっと肩を叩かれていたことに気が付いた。
「貯蓄系スキルの完成に多くが喜びました。ですが、一つ大きな問題を抱えていたのです。それは誰に使用させるか」
「それのどこが問題なのよ。適当に選んで実行させればいいじゃない」
「簡単に決められるものではありません。彼らの、そして、種の未来がかかった計画なのです。創ることができたスキルの数も非常に少なく、決して誤ることはできませんでした」
人選は難航したそうだ。
必須となった条件は、永い寿命を有し、種の存続に当事者意識がある者。計画遂行後の種を導くことのできる者だ。
条件を満たす者は複数いたらしい。
だが、遂行者を引き受ける者は皆無だった。
ネーゼは明確な理由を語らなかったが、彼らにとってこの役目は引き受けたくない大きな何かがあるように思えた。
「彼らは悩んだ末に新たな計画を立案します。人工授精を繰り返し計画に必要な理想の人材を造る。そして、それは実行されました」
それってつまり、母さんは計画のためだけに作られたってことか?
だとしたら俺も計画に必要だったから。
どうなってんだよ母さん。
父さんを騙したのか。
脳裏によぎる母の笑顔が偽物のように思えて苦しくなった。
「いい加減にしてください! ご主人様、このような突拍子もない話など信じてはいけません! ご主人様はご両親の愛の結晶としてお生まれになったのです!」
「はぁぁ? 言っとくけど、主様はそんな遂行者とか賢い何かになれるほど立派じゃないんだから。バカで鈍感でなんにも考えてないような顔をしてる主様なのよ」
二人とも……ありがとう。
ところでフラウ、ちょっと言いすぎじゃないのか。
ネーゼは悲しげな表情となる。
「申し訳ありません。しかし、これは紛れもない事実」
「話を、続けてくれ」
「遂行者は賢くある必要はない。むしろ無知である方が望ましいとされました。計画の最終段階は、理想の母体によって生み出される『下界で育った遂行者』でした」
彼女は首から下げたネックレスに触れた。
とても出来が良いとは言えない木製の飾りだ。
「クオン様は貴方と会う日をとても楽しみにしていらっしゃいました。背負わされた運命など関係なく、素敵な男性と出会い幸せな家庭を作ると夢を抱いておいででした。きっとあの方なりに精一杯トール様を愛したはずです」
彼女の言葉に、ほんの少し気持ちが軽くなった気がした。
考えてみれば子供を作るだけなら、わざわざ外海を渡る必要もなかったんだ。
俺と同じく世界を回りながら多くの人達と出会って、冒険をして、恋をして、この人だと思える人と結婚して子供をもうけた。
母さんなりに運命に立ち向かった結果が、今の俺なのかもしれない。
「で、結局俺にさせたいことってなんなんだ。遂行者の役目ってのは」
「……鍵はお持ちでしょうか?」
鍵? 鍵なんて持ってたか?
しばらく考えてとある物を思い出す。
マリアンヌが持ってきた母さんの鍵だ。
取り出した鍵に彼女は、ほんの一瞬だが迷うような素振りを見せた。
「付いてきてください」
ようやく長い話が終わり、ネーゼは次の場所へと案内した。
◇
そこは真っ白な空間。
壁は見えずどこまでも白い床が続いていた。
ぽつんと石版が一つだけある。
「ここは安らぎの部屋と呼ばれる場所です。全ての人々はここで眠り、来るべき日をひたすら待ち続けているのです」
「眠っている? どこに?」
「お見せいたします」
石版に触れただけで部屋が動き始める。
広大な床に先ほどまでなかった切れ目が走り、無数の巨大な壁がすさまじい速さで上を目指して伸びる。全てが終わる頃には、見上げるような高さの分厚い壁が規則正しく並んでいる様ができあがっていた。
「なんですかこれ」
「ふぇぇ、壁がいっぱいだわ」
「こちらへ」
壁の一部を見せられ俺達は声が出なくなった。
人が、数え切れない人が壁の中にいた。
ガラスのような透明なケースに覆われ、その内側では静かに眠り続ける人間が。
ケースの表面には名前のような古代文字が記載され、その下では絶えず数字みたいなのが動いている。
「これが彼らに残された最後の楽園です。生きることに疲れ、死ぬこともできない彼らに残されていたのは永遠にも等しい眠りだけ」
「古代種がどこにもいないのは……」
「全ての中立派がここで眠ることを望んだのです」
目の当たりにして、徐々にだが不老不死のヤバさってのを実感しつつあった。
これを全て救えだって?
重すぎる責任に吐きそうだ。
「何人いるんだ」
「小さな数字を抜いて1億4000万です」
「俺に全員救えと?」
「はい。それが遂行者です」
冗談だろ。俺は小さな村で生まれ育ったただの戦士だぞ。
一億四千万なんて数を救える器じゃない。
「あの、ご主人様が救うと言っていますが、具体的に何をするのですか?」
「そうよ、あんた何気にそこんところ濁してたでしょ」
ネーゼは出かかった言葉を飲み込み、それでもなんとか答えようと口を開く。
貯蓄系スキルを有する俺が行わなければならない計画とは。
「ここにいる全ての人を、殺していただきます」
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