214話 戦士と古代都市4
特殊種族『魔王』――古代種の永続性を断つことが可能となった種族。
彼らの誕生により世界は再び転換期が訪れる。
死を待ち望んでいた人々はこぞって身を差し出した。
「魔王の登場により人口は激減。社会は機能不全に陥り混沌と化しました。その最中に台頭したのが『悪神派』と呼ばれる反社会組織でした。組織は魔王を強奪し、当時の政治体制に反旗を翻します。世界は二分してしまいました」
ネーゼは再び石版を触れ、絵が切り替わる。
今度はヒューマンのようだ。
「自らを神とし規律と正しさを求めた現体制の『善神派』は、対抗手段として特殊種族『勇者』を誕生させました。ここから永い泥沼の戦争が始まります」
神でありたい集団と人でありたい集団の争い。
窓には無数の兵器が映された。
平和を求め永遠の命を手に入れたはずが、今度はそれが火種になってどこまでも燃えていた。
ずっと戦争だ。終わらない争い。
古代種は賢い種族じゃなかったのか。
笑えるくらい愚かじゃないか。
こんなのがご先祖様なのかよ……。
「損耗に次ぐ損耗によって戦争はひとまずの休戦に至ります」
世界は戦争により再び荒廃していた。何度繰り返せば気が済むんだと叫びたくなった。
ネーゼは心情を察したように語る。
「物事には順番があります。彼らには不老不死は早すぎた。故にこのような無用な争いが繰り返されてしまったのです。そして、研究者による新たな報告がもたらされました」
まだあるのかよ。
もううんざりなんだが。
「特殊種族では、本当の意味で死ねないことが判明したのです」
「は?」
死んでいるのに死んでないとか、もう意味が分からん。
彼女の話は、馬鹿の俺にまったく優しくない。
「情報集積庫への干渉は想定外の事象を引き起こしていました。すなわち永続性は死後も続くということです。肉体を失った人々は『高次元情報体』として、意識を保ったまま存在していた」
「それはつまり?」
「魂の状態で永遠に彷徨う、があなた方には理解しやすいでしょうか」
頭の中に魔物であるゴーストが浮かんだ。
今まで散々ぶった切ってきたが、あれらの一部には古代種もいたのか?
だが、俺でなんとかできるのなら遙かに賢く強い古代種が悩むことなんてなかっただろう。
「ゴーストとここで言う魂は別物であると認識してください。あれらは魔力に焼き付いた強烈な感情を依り代に、生物のように振る舞う疑似生命のような存在です」
「じゃあゴースト系に自我はないのか?」
「稀にそのような存在があることは確認しております。一部には精霊へ変化を遂げるものがいることも確認済みです」
話が逸れたので本題へ戻る。
えっと、魂の状態で彷徨うことが問題だったんだよな。
「このことから多くが判明しました。神の本がもたらす改変はとても強い強制力があり、死してなおその縛りは解かれることがない。逆に言えば真の意味で不老不死が完成したのです」
魔王と勇者の登場で半不老不死になれたはずが……その実、不老不死を完成させるだけだったと。魂になってしまえばもう干渉してくる存在もいない。
逃げ道が完全に断たれた人々はどのような感情を抱いたのか。
あれ、ちょっと待て。じゃあ母さんは魂の状態で?
あくびをするフラウが質問する。
「でさ、結局主様にここに来てもらいたかった理由ってなんなの?」
「そ、そうです。お義母様がご主人様をここへ導いたお話しをまだ聞いておりません」
「さりげなくお義母様って呼んでるじゃない! ずっこい!」
「ちょっと言ってみたかっただけです」
カエデは恥ずかしそうに両手で顔を隠す。
そっか、結婚するとなると義理の母親になるもんな。
嫌な気分になってたが、ほんの少しほんわかする。
「ようやくクオン様が、ここを旅立たれた理由をお話しすることができます。先ほど本機は世界が二分されたと申しましたが、実際は第三勢力がございました。それがこの都市を本拠地とする『中立派』です」
中立派は二大勢力のどちらにも属さない、言葉通りの中立を貫く集団だったそうだ。
変化を恐れた旧社会を根幹とする者達で構成され、王族、貴族、研究者、エンジニアなどが主にいたとされる。
「休戦になった後、三大勢力は世界の再生に注力することとなります。しかし、平和は永くは続きませんでした。またもや戦争が勃発したのです」
だが、今回の戦争は違っていた。
古代種がほぼ登場しない代理戦争である。
どちらの陣営も疲れ果てていた。けれど掲げた理想を取り下げるつもりもなかった。
この頃には彼らの思想は原形を留めないほどに変わり果てていた。それ故、互いの主張はより相容れないものとなっていた。
善神は天獣を創りだし勇者を筆頭に軍をぶつけた。
悪神は魔王と魔族を強化し対抗した。
ただ、以前の戦争と違いこの戦争はゲームの様相を呈していた。
逃れられぬ永遠からの現実逃避だったのか。それとも次の戦いへの前段階だったのか。ネーゼは語る。
「二大勢力が戦う間、中立派は争いを終わらせる為の方法を模索していました。神の本に干渉できないなら、別の方法で永続性を断つ方法を見つけなければならないと考えたのです」
絵が切り替わる。
映し出されたのは聖剣だった。
「善神は最終兵器を創り出しました。【聖波動極大霊滅機二十七式】です。すなわちそこにある聖武具のことです。理論上この兵器は、高次元に存在する魂すらも消滅させることが可能でした」
「まじかよ。じゃあ戦争は」
「理論上は、です。この兵器には致命的な欠陥がありました。あまりに強力なその兵器は使用者が極めて限られ、尚且つ使用後も魂ごと消滅する危険をはらんでいました」
使える奴を見つけても救えるのは限られている。
どこまでも救われない。
「普通に使えてるけど……」
「現在は十二に分けられ幾重にも封印が施されている状態です」
「もしかして聖武具が複数あるのは……」
「そう、元は一つの兵器。ですが、それでも戦争を一変させるほどの力を発揮しました。悪神も対抗しようと似たような兵器を開発しましたが、結局同等の物を作り出すには至りませんでした」
ネーゼは石版に触れ、窓の絵を切り替える。
次に現れたのは虹色のスクロール。
「しかし、この兵器の登場が中立派を良い方向に刺激しました。神の本への干渉ではなく、自らの力で高次元情報体を破壊すればいいと思い至ったからです。そこで彼らはその手段の開発に着手し――」
カエデが挙手していた。
ネーゼは「どうぞ」と応じた。
「自らの力でできるなら、このようなことにはなっていないと思ったのですが」
「ほぼ不可能と考えられていたからです。ですが、この頃の技術力は可能な段階まで来ていました。ところで皆様はレベルアップがなんなのかご存じでしょうか」
「経験値を得ることで、ちょーパワーアップすんのよ」
「その理解でおおむね問題ありません。ですが、なぜと聞かれれば答えられるでしょうか」
俺達は沈黙する。
生まれた時から当たり前にあった。そこに疑問を挟む余地なんてなかったのだ。魔物を倒せば経験値が得られレベルが上がる。持っていた果実が地面に落ちるのと同じ。ごくごく普通の理だ。
「経験値とは言わば『存在力』です。それらを吸収することで、その身は少しずつ高次へと高まって行きます。情報の密度が濃くなると申し上げればよろしいのでしょうか」
彼女は続ける。
「限りなくレベルアップを果たせば高次元への干渉も可能となる。これが中立派が模索し続けた末に出した答えでした。そして、創られたのが『貯蓄系スキル』です」
貯蓄系……スキルだと?
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