161話 戦士は古の魔王に会う
それは人型。
遠目からは山にしか見えなかったそれは、近づくほどに輪郭がはっきりとしてゆき、見上げるほど接近する頃には、なんなのか辛うじて理解が及ぶ。
巨大なオリジナルゴーレムだった。
ただし、俺の知っているゴーレムとはデザインが異なっている。
かつてこれほど大きなゴーレムがあっただろうか。
馬鹿げたサイズに笑いすら沸き起こる。
古代種は一体何を考えてこんなものを作ったのだろう。
「すんごいっしょ。アイノワ国が今も平和なのはロズッちのおかげじゃん。近づいてくるヤバそうな奴らは、みーんな倒してくれるの。そのせいで魔王認定受けちゃってさ、てか、ちょーイケてるっしょ」
……イケてる、のか?
案内してくれたナオミンが、ロズウェルの一部をぺちぺち叩く。
古の魔王にずいぶんと気安い態度。
一応、今も生きてるんだよな?
急に動いて踏み潰したりしないよな??
「とても力強く底知れない魔力を感じます。微かにですが、鼓動のような音も聞こえます」
カエデの言葉を受けて、俺はロズウェルの一部に触れてみることに。
張り付いていた苔を擦り落としてみると、金属のようなだけどほんのり温かい、彼の表面があった。
「ロズッち~、お客さんじゃん~。ちょっとは反応してあげなよ~」
『応答する。こちらロズウェル』
「お、話す気まんまんじゃん」
『ナオミン、久しぶりだな。元気にしていたか』
どこからか声だけが響く。
オリジナルゴーレムは、こんなにも流暢に話ができるのか。
しかしながら、以前にも人にそっくりな生活支援ゴーレムなんて物を見ている。むしろ話ができない方が不思議だろう。
「俺はトール。あんたが母さんのことを知っていると聞いてここまでやってきた」
『スキャン開始。ステータス偽装透過、遺伝子情報確認、評価SS、管理者権限あり。個体名クオンの息子と判断。こんにちは、トール』
彼の意識が俺へと向けられる。
『質問について返答しよう。本機はクオンが来訪したことを覚えている。さらに本機はいつか来るであろう彼女の子供に、古都への行き方を教えよと命令を受けた』
「なぜ母さんは俺を古都へ?」
『理由は説明されていない。しかし、そこへ行くことで君の知りたいことは、きっと明かされるはずだ』
参ったな。ここでも母さんの情報はないのか。
ルーツを知るどころか、謎はますます深まってゆく。
「古都へはどうやって行く」
『大陸中央部にあるイグジット遺跡へ向かえ。現地に着いてからの手順は、君の記憶領域に送る』
「うっ」
俺は地面に片膝を突く。
無数の数字や記号が、頭に刻み込まれる感覚があった。
まるで身に覚えのない記憶を思い出したかのような奇妙な体験だ。
「大丈夫ですか、ご主人様!」
「ああ、すこし目眩がしただけだ」
「ちょっとあんた、主様になにしたのよ!!」
『彼から異常は感知されなかった。その目眩は一時的なものだろう』
調子が戻った俺は立ち上がって深呼吸する。
『命令は完了した』
「今ので母さんからの伝達は終わりってことか」
『新たな命令を求む。本機はすでに放棄された機体、存在意義を失って久しい。自己命令によってこの地と小さき種族を見守っているが、本機が最も望むのは主たる種族に命令されること』
「俺に命令してくれって?」
『なんでもいい』
命令か。
命令ねぇ。
うーん、急に言われても。
「いくつか聞いてもいいか」
『本機の記憶領域で答えられる範囲なら』
「古代種が、地上から消えた理由を知っているか?」
『大きな戦争をしていたことは覚えているが、それが直接の原因であるかは本機では判断不能。戦争に関しては多くの記憶領域が消去されている』
「敵は?」
『不明。データが消去されている』
つまり覚えてない、ってことか?
戦争をしていたことだけは記憶にあるが、何と戦っていたのか思い出せない。
もしかすると嫌なことがあって、忘れたのだろうか。
「どうしてここにいるんだ」
『戦後放棄された本機は、目的を失い彷徨い続けていた。しかし、ここで小さき種族と出会った。小さき種族は可愛らしく愉快だ。本機は守る代わりに、話し相手になってほしいと願い出た。その結果、現在の形となった』
ナオミンは「そうそう、ロズッちはこの国の守護者じゃん」と両手ピースする。
『本機と小さき種族は、マブである』
「だよね~、ちょーマブ」
『まな板には石を投げろ』
「ゼッコーな」
ナオミンとフラウが怒り、げしげしロズウェルの身体を蹴る。
こら、やめなさい。
相手は古の魔王だぞ。
『防衛機能発動、魔力弾発射』
「「ひぇ!?」」
前触れもなく彼は、背部よりピンクの閃光を次々に放つ。
一瞬、フラウ達がやり過ぎて怒ったのかと思った。
しかし、閃光は遙か彼方へと飛んでいる。
どこへ向けて攻撃を行っているのか俺には分からない。
一分ほど経過し、彼は攻撃を止めた。
『邪悪な存在を感知した。脅威と見なし排除を試みたが、範囲から抜け出されてしまったようだ』
「敵なのか?」
『不明。本機の中にある条件に合致したので攻撃した』
「ルドラの配下とか」
『ルドラなる魔王が大森林にて活動をしていることは把握しているが、攻撃の対象がそれに属しているかは不明』
邪悪な存在とは何を指すのかは俺には分からない。
少なくとも敵と認識されるような存在であることだけは理解できた。
しかし、ロズウェルの戦闘力は桁違いだ。
あの光はたぶん、サメ子が放つ光と同じ物だと思う。
サメ子のよりもでかい光を出してたし、相当に強力な攻撃であることは俺でも想像できる。
それに物理的にもすさまじい力を有しているのは見れば分かる。
これが古の魔王。
こんなのがこの大陸にはまだいると。
「もしかして他の魔王もゴーレムとか」
『同型機はここ数千年確認できていない。少なくとも、三名の古の魔王は魔王因子を有した正真正銘の魔王である。中央部へ向かうのなら十二分に気を付けよ』
その三名は、大陸中央部にいると。
絶対に関わり合いになりたくないな。
『新しい命令を』
「それじゃあ、今まで通りフェアリー族を守ってやってくれ」
『了解した』
心なしかロズウェルの声は嬉しそうだった。
「トールっちが古代種なんてウケるー! ロズッちも冗談きついって、絶滅して一人もいないっしょ! でもウチはそういうノリをノリで返す会話大好物っていうか、鬼ウケるんですけ――ぶへっ」
「あんた五月蠅いわね」
「叩くなんてひどいじゃん」
「面の皮が厚いあんたには、このくらい効かないでしょ」
「ちょー繊細だし。言っとくけど、フラウっちよりすっぴん顔、鬼可愛いんだから」
「フラウがあんたよりも不細工って言いたいのか」
フラウとナオミンが取っ組み合いを始める。
なんとも醜い争いに、俺とカエデは目をそらした。
「帰るか」
「そうですね」
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