160話 戦士と狐耳奴隷は氷菓を食す
俺達は森の中に突然現れた立派な門に、しばし呆然としていた。
「ぷふっ、驚いた? 驚いたよね? どうせフェアリーの国なんてたいしたことないって思い込んでたよね? ちょ~うける~」
「あんた、うるさいわね」
「ぶへっ」
案内役のフェアリーをフラウは容赦なくビンタする。
彼女の名前はナオミン。
金髪に褐色肌のケバケバしいメイクをした少女だ。
「ぶつなんてひどい、ウチら貧乳仲間じゃん」
「裏切ったくせに! あんたの胸、フラウより一カップ大きかったじゃない!」
「なんかごめん」
「だから一カップ分削って! 早く!」
「死ねと?」
ぷんすかするフラウに、ナオミンは真顔で応じた。
「まぁまぁ、お二人とも」
カエデが仲裁する。
だが、二人は彼女の胸を見て表情を一変。
ばちん、ばちん。
フラウとナオミンはカエデの豊かな胸を、右から左からと平手打ち。
ぷるんぷるん、と胸は見事な動きで弾む。
「痛い!? どうして私の胸を!?」
「そんなものぶら下げて仲裁しようなんて良い度胸ね」
「喧嘩売ってんじゃん。マジで鬼フェアリー見たいわけ?」
「ひぃ、ごしゅじんさま~」
逃げてきたカエデは俺の背後へと隠れた。
さぞ怖かっただろう。
あの二人の豊乳に向ける目には殺気がある。
そこへパン太が近づきなにやら話をする。
「きゅう、きゅきゅう」
「それもそうね。悪かったわよ」
「許すじゃん。ウチらマブだしさ」
よく分からないまま仲直りをする。
さすがパン太、フラウの扱いはお手の物のようだ。
つーか、フラウがもう一人増えたようで疲れる。
「どう、マジ栄えてるっしょ」
「思ってたより立派な国じゃない。それにフラウと同じハイフェアリーも沢山」
門を越えた先には、石畳の敷かれた趣のある街があった。
一部には遺跡らしい建造物もあり、古代文字で書かれた看板などが見ることができる。
大通りを行き交う人々も全てフェアリーだ。
パタパタ羽で低空飛行をする者もいれば、ヒューマンサイズとなって自身の足で歩いている者も。
これがアイノワ国か。
「へぇ、こっちのフェアリーは二階に玄関を作ったりするんだ」
「二階の方が便利っしょ、どうせ他種族なんて入れる機会ないし。一階に作るのはハイフェアリー、あとは貴族とか王族くらいじゃん」
「上流階級になると、他種族との交流もあるということでしょうか」
「そうそう、分かってんじゃん狐おっぱい」
「き、きつねおっぱい!?」
ショックを受けたカエデが涙目で俺に泣きつく。
よしよし、辛かったな。
貧乳フェアリーは口が悪いんだ。
「すげぇ、なんだこのふわふわ」
「最高の乗り心地だわ」
「ずるい! 私も乗せて」
ふと、妙に騒がしいことに気が付き振り返る。
背後を飛んでいたパン太が、フェアリー達にもみくちゃにされていた。
すぐにその騒ぎは喧嘩に発展し、多数フェアリーVS多数フェアリーで取り合いが開始される。
間にいるパン太は左右から引っ張られ、ぐにょーんと伸びていた。
「止めなさい! 白パンはフラウのベッドなの!」
「きゅう! きゅうきゅう!」
「え、それは違うって? そんなのはどうだっていいのよ。白パンに手を出すならフラウが相手になるわ」
パン太のピンチにフラウが駆けつける。
取り合いをしていた人々は、彼女の胸を見て失笑した。
「見ろよ、まな板が何か言ってるぜ」
「くすくす。フェアリーなのに、そのおっぱいってどうなの」
「わしゃあ洗濯板は好かん。好かんぞ」
「どこの田舎フェアリーかな。主張するなら胸でした方がいいと思うよ」
住人達はぺっ、と地面に唾を吐く。
なるほど。こっちでもフェアリーは胸にこだわるらしい。
ぐぬぬと悔しそうな表情をしたフラウは、ハンマーの柄を握りしめる。
「控えめな胸キーック!」
「ナオミン!?」
胸の大きいフェアリーの女性をナオミンが蹴り飛ばした。
彼女は振り返りフラウに親指を立てる。
「ウチらマブじゃん。むかつく奴らなんて、鬼ぶっとばせばいいっしょ」
「そうね。その通りよ。やるわよ、ナオミン」
「「ウチらは、まだ成長期!」」
俺はパン太を刻印に戻す。
「馬鹿なことしてないで、ロズウェルを探すぞ。散った散った」
「そんな~、今からがいいところなのに~」
泣きつくフラウを無視する。
興味を失った住人は瞬く間に解散してしまった。
しばらくパン太は出せないな。
◇
太陽が真上に来る頃。
俺達は噴水の縁に座り氷菓を食べていた。
「冷たくて甘くて、とっても美味しいですね!」
「大森林の、それも奥地で、冷たい菓子が食えるなんて夢にも思ってなかったよ」
「ふふ、ほっぺにクリームが付いてますよ」
カエデにハンカチで口元を拭かれる。
しかし、カエデが食べている氷菓も美味そうだな。
俺のはスタンダードだが、彼女の食べているのは果汁入りだ。
「一口もらうぞ」
「あ」
カエデの氷菓をぱくり。
うん。爽やかな果実の風味が実に美味。
甘さも控えめだし、むしろこっちを買えば良かったかもしれない。
「ご主人様が私の……も、もうひとくちいかがですか!」
「じゃあもう一口だけ」
ぱくっ。
カエデは顔をほころばせ尻尾を振る。
さらに食べてもらいたいのか、氷菓を俺の方へと寄せていた。
「俺だけ食べるのは不公平だから」
「そんな! ご主人様のをいただくなんて!」
「ほら、食えって」
菓子を一口だけ含むと、顔を真っ赤にして「おいひいへふ」と返事をした。
ちなみにフラウとナオミンは、隣で別の菓子を食べている。
食べているときだけ異様に静かだ。
「なぁナオミン、ロズウェルってのはどこにいるんだ」
「マジで言ってんの? ずっと視界に入ってんじゃん」
「……どこだ??」
周囲を確認する。
眼に入るのは大勢の人、建物、それから街の随所に生えている大木、あとは遠くにある山くらいだ。
「まさか、お前なのか?」
「冗談きついっしょ。あれだってば」
ナオミンは山を指さした。
はぁ?
それこそ冗談だろう??
「あれがロズウェルじゃん。びっくりした? びっくりしたよね? これ、ウチらの間でずっと使われてる外向けのサプライズドッキリでさ。あーでも、ドッキリって言っても鬼真実なんだけどね」
「あんなにデカいのか」
「よーく見て、なんとなく人の形にみえるっしょ?」
確かに人に見えなくもない。
下半身は地面に埋もれているのか、ここからでは上半身しか確認できなかった。
「面会については?」
「別に決まりとか全然ないから、好きな時に会いに行けばいいじゃん。でも、ロズっちってフェアリー以外はあんまり好きじゃないから、声かけても反応しないかもね」
「魔王が近くにいて怖くはありませんか?」
「ロズっち優しいから、そんな風に思ったことないかな。それに本物の魔王とは違うじゃん。ロズっち、魔王のジョブないし」
ナオミンによれば、ロズウェルが魔王と呼ばれだしたのは、そのすさまじい力と存在感からだそうだ。
どうやらこの異大陸では、魔王とは必ずしもジョブ所有者を指す言葉ではないようだ。
俺はナオミンに今から会いに行けないか相談する。
「案内は全然オーケーだけど、用が済んじゃうとトールっち旅立っちゃうっしょ? ウチとしてはやっぱここの良さを知ってもらいたいし、もうちょっとフラウっちともお喋りしたいじゃん」
「ナオミン!」
「フラウっち!!」
二人はひしっと抱きしめ合う。
せっかくフラウに友達ができたんだ。
すぐに引き離すのは可哀想かもな。
「このまな板さえあれば、ウチの胸も大きく見え――ぶへっ」
フラウはナオミンを殴り、ぺっと唾を吐いた。
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