145話 バジリスクと戦う戦士達
バジリスク退治に参加するのは五人。
俺、カエデ、フラウ、イツキ、オビだ。
人数を増やせばそれだけ犠牲者が出る率も高まる。
相手は視線を向けるだけで石化させる魔物、少人数であたるのが望ましいとイツキは言っていた。
イツキを先頭に山道を進む。
標高が高くなったせいか至る所に解けきっていない雪があった。
「マフラーっていいわよね、暖かいし楽ちんだし主様と一緒だし」
「きゅう~」
首の辺りでもぞもぞ動くのはフラウだ。
外套の中にもパン太が潜り込んでいて暖を取っている。
フラウを見るカエデはなぜか悔しそうな表情を浮かべていた。
「私もフラウさんのように小さくなりたい。フェアリーサイズに生まれていれば」
「ふふーん、残念ねカエデ。これがフェアリーの特権よ。いつでもどこでも主様の温かさを感じられるの」
「ご主人様! 体で温めて差し上げます!」
挑発されたカエデは後ろから抱きついてくる。
う、うごけないのだが。
温めてくれるのは嬉しいが後にしてもらいたい。
「お二人とも遅れております故、どうかお進みを」
「悪い」
最後尾にいるオビが注意する。
彼の声には『緊張感が足りない』なんて意味も含まれているように思えた。
「も、もうしわけございません!」
「いいよ、後で温めてくれ」
「はい!」
返事をしたカエデはふわふわの白い尻尾を振る。
軽く頭を撫でれば狐耳がぺたんと垂れた。
「…………」
「なんだ?」
「いえ、特には」
オビがじっと見ていたので、まだ何かあるのかと声をかけたのだが。
彼は言葉を飲み込んだように目をそらした。
俺達は先を行くイツキを追いかけた。
「あれが遺跡だ」
「絶景だな!」
雪に覆われた山頂付近、ボロボロの建物が目視できた。
あそこにバジリスクがいるらしい。
景色に感動した俺は、メモリーボックスを取り出しぱしゃりと一枚撮る。
「バジリスクは元々暖かい地域で生息する魔物だ。それがなぜかこんなところにまでやってきて住み着いてしまった」
「餌が不足して住処から出てきたとかか?」
「それは分からん。西の方で何かがあり逃げてきたのかもしれない。とにかくあれを退治しなくては安心して生活できないのだ」
俺はふと思ったことを質問する。
「白狼に退治してもらうとかできなかったのか」
「勘違いをしているようなので言っておくが、白狼の方々は神であっても用心棒ではない。村が危機に陥れば動いてくださるだろうが、元来我ら眷属はお守りする立場、手を煩わせることなどあってはならない」
つまりどうにもできない状況になってようやく白狼は動くと。
なかなか気難しい相手なんだな神様って。
ま、風習から何から何まで違う土地だ。理解できないことだってあるだろう。
「白狼ノ神は眷属の力を信じているのでしょう。自分達で問題を解決する力があると」
「さすがはカエデ様、その通りでございます。子のように庇護することは簡単ですが、それではいずれ獣の力が失われてしまいます。我らは誇り高き狼、護ることを尊び、護られることを恥とする」
「良き眷属に恵まれましたね、白狼ノ神は」
「白狐ノ神にそのようなお言葉を! 光栄でございます!」
イツキは歓喜に染まった表情で、カエデに深々と頭を垂れた。
カエデも一応、神様みたいなものなんだよな。
俺には普通の可愛いビースト族にしか見えないけど。
「遺跡へと参ろうか」
イツキが背を向ける。
俺は彼のふさふさした尻尾に目がいった。
カエデの尻尾は最高だが、狼の尻尾はどうだろうか。
触ってみたい……。
これが終わったら触っても良いか聞いてみるとしよう。
せっかく狼部族の村に来たのに、さわり心地を知らないままなのはもったいない。
「ぐうぅ……ぐうぅ……」
首の辺りからフラウのいびきが聞こえる。
やけに静かだと思っていたが寝ていたのか。
そろそろ到着するので、俺は軽くマフラーを叩いた。
「なに、なにがおきたの!?」
「うごっ!」
飛び出したフラウの頭突きが俺の顎に直撃した。
◇
険しい道に設置された鉄の鎖。
横風に煽られてじゃらじゃらと金属音が響いていた。
遺跡に到着した俺は、見上げて感嘆の声を漏らす。
陽光に照らされる朽ちかけた建造物。
建造された時代は相当に古いようだが風格があって神々しさがあった。
ちなみにではあるが、神代には三つの時期が存在する。
蒼始期
黄中期
白末期
よく見かけるボロボロの遺跡は、蒼始期~黄中期に建造されたものでかなり古い。
古代種が高い技術力を有していたのは見れば分かるが、まだこの期間には聖武具を作れるほどの技術力はなかったと予想されている。
白末期になると古代種の技術が格段に進み、聖武具の神殿など仕組みがまるで分からない、恐るべき創造物が登場する。
そして、目の前の建造物は恐らく蒼始期か黄中期に造られたなにか。
「オビ、先頭を行け」
「御意」
イツキの命令でオビが遺跡の扉を開く。
奥には薄暗い通路があった。
天井からはつららが垂れ下がり、僅かに凍り付いた床はツルツルしていた。
それぞれ武器を抜く。
「ほら、そろそろ出ろ」
「フラウの出番ね」
もそっと首元からフラウが出てくる。
同じタイミングで外套に隠れていたパン太が飛び出した。
「フラウのスキルで視覚を麻痺させればいいんでしょ」
「効くかどうかはまだ分からないけど、試さない理由もないからな」
石化視線を無効化できればただの魔物だ。
さすがに俺よりレベルが上ってことはないだろうし、石化さえなければ余裕で勝てるはず。
オビを先頭に遺跡内部へと突入する。
「反応は?」
「まだありません」
通路を進みつつカエデが鑑定で索敵する。
時折、壁の一部が崩れていてそこから風が吹き込んでいた。
ずずずず。どこからか重いものを引きずるような音が響く。
何かいるのは確実。
しゅーしゅー。聞き覚えのある音が耳に届く。
「イツキ、バジリスクってもしかして蛇か?」
「うん? 伝えてなかったか?」
「来ます! バジリスクです!!」
真横の壁をぶち破って大蛇が俺にぶつかってきた。
勢いを殺しきれず反対側の壁へと直撃、瓦礫が降ってきて埋まってしまう。
「フェアリィイイフラッシュ!!」
「シャァァアア!?」
フラウの閃光が発動し、瓦礫の隙間から激しい光が差し込む。
よっと、確かに動きが速い。
カエデが正面で捕捉したのにも関わらず真横から攻撃された。
俺は瓦礫を押し退け起き上がる。
「シャァアアアア!!」
「グルルルッ!」
バジリスクとイツキが威嚇し合う。
視覚は潰しても、別の何かで敵を認識しているらしい。
「ご主人様! ご無事で!」
「あ、うん、見ての通り石化はしてないよ」
「びっくりしたわよね。いきなり真横から出てくるんだもん」
「申し訳ありません。予想よりも動きが速く、向こうもこちらを捕捉していたようで」
駆け寄ってきたカエデは頭を下げて謝罪する。
「反省会はあとだ。今はあいつをどうにかしないと」
「はい」
「でも、どうすんのあれ。場所は狭いし相手はデカいし。ハンマーを振るにも建物が崩れそうだし。やりづらいわ」
「きゅう」
バジリスクの噛みつきをオビがナイフで弾く。
すかさずイツキが曲刀を振るが、敵は頭部の堅い場所を盾にして刃を弾く。
デカくて頭も良い、おまけに石化視線まである、山脈の向こうにはこんな奴らが山ほどいるのか。
未知なる魔物と戦う。
これもロマン。
「シャァァアアア――ングッ!?」
俺は大蛇の大口を強引に両手で閉じる。
そのまま首の辺りに片腕を回し、ぎゅむうと力任せに絞ってやった。
「…………馬鹿な」
「あの、バジリスクが」
イツキとオビは唖然としている。
二人を押し退け、俺は大蛇を引きずりながら外へと出た。
「シャ、シャァア! シャア!」
「暴れんなって」
ばたばた胴体をくねらせる。
さて、ここなら大丈夫だろう。
目が回復する前に片付けないとな。
大蛇の首に両手を回し、本気で締め上げる。
みしみし、ぼぎっ。
バジリスクは一際大きく口を開き、力なくでろんと垂れた。
「倒したぞ!」
俺は入り口にいるイツキに、笑顔で大蛇を掲げて見せた。
「あ、あのヒューマンは、化け物か……」
心なしか彼の顔が引きつっているように見えた。
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