136話 戦士は王女を見送る


 ずらっと並んだ遺物。

 これらは全て暗道で得た物だ。


 実はルーナを地上へ運んだ後、カエデとフラウが戻って全てマジックストレージに収納していたのだ。


 ギオ将軍の自宅の一室を借り、遺物を一つずつ確認しリストを作成する。


「今回手に入れた遺物です。ご確認ください」

「ありがとう」


 リストを受け取り、必要なものにだけチェックを入れる。

 あとは全て将軍が買い取ってくれるそうだ。


 思わぬところで旅の資金を得られたので、内心はほくほく顔である。


 ・最上級麻痺消し薬×3

 ・ハイポーション×4

 ・エリクサー×1

 ・手鏡×1

 ・高出力ランプ×2

 ・翻訳のスクロール×10


 エリクサーは一つ持っているので、これで二つになる。

 ハイポーションもミストメイカーに襲われた村でかなり放出してしまったので、ここですこしばかり取り戻せたのはありがたい。


 遺物の中にお洒落なデザインの手鏡があったのだが、カエデが欲しがっていたので引き取るリストに含んでおいた。


 高出力ランプは、言葉通り光量の強いランプだ。蓄魔力で動くので地味に便利である。


 翻訳のスクロールは一定時間、言葉の通じない相手と意思疎通が図れるようになる。

 旅をしている俺達には重宝するだろう。


 チェックを入れた遺物だけをマジックストレージに入れ始めると、笑顔の将軍が俺の肩を叩いた。


「その高出力ランプも売ってもらえないか」

「別にいいけど……あ、暗道か」


 高出力ランプならフラウほどじゃないが、そこそこ使えるのではないだろうか。

 野営に使うつもりでチェックを入れてみたが、今後も暗道を使用するだろう彼に売った方がよさそうだ。


 今回得ることができた遺物の大部分は壺や絵や装飾品だ。


 次に多いのが武具。

 実用向けのアイテムは全体の一割から二割程度である。


 がらがら。


 部屋に白金貨を積んだ台車が運び込まれる。


 受け取る額は三億五千万。


 思ったより少ないと思える俺は、感覚が麻痺しているのかもしれない。


「あれ、もう入らない?」

「本当ですね。もしかすると収納限界がきてしまったのかもしれません」

「三人とも、どんだけ詰め込んだのかなー。100って結構な容量だけどー」


 白金貨が残り五十枚となったところで、マジックストレージが受け付けなくなってしまった。


 ここまで一度も吐き出すことなく移動を続けていたからなぁ。

 かといってマイルームのあるダンジョンへも飛ぶことはできないし、そろそろ新しいマジックストレージを探す必要が出てきたのかもしれない。



 ◇



 俺達は道の先からやってくる二つの塊をじっと見つめる。

 それは近づくほどに大きくなった。


 猛然と駆ける二頭のベヒーモス。


 上には調査団団長のルブエと副リーダーがいた。


「ちょ、トール君、なんなのあのおっかない生き物!? こっちに向かってるけど!??」

「大丈夫だよ。あれは俺のペットみたいなものだ」

「あれがペット!? そういう生き物じゃないと思うけど!?」

「無駄よルーナ。最近の主様は特に感覚が麻痺してて、可愛い犬くらいにしか見えてないのよ」

「犬!? あれが!?」

「迎えには一郎と次郎が来てくれたようですね。相変わらず愛らしい」

「カエデちゃん!?」


 ルーナがぎゃーぎゃー騒いでいるが、ベヒーモスを間近で見ればその考えも変わるはず。


 あいつらはああ見えて寂しがり屋で甘えん坊なんだ。

 そうだ、用意しておいた肉をやらないとな。

 きっと喜ぶだろうな。うんうん。


 ちなみにこの場にウルティナはいない。


 すでに案内の仕事を終えたので、今頃は受け取った報酬で酒でも飲んでるだろう。


 ずざぁ。ベヒーモスが足にブレーキをかけて停止する。


「久しいなトール殿。まさかこのルブエにメッセージをくださるなんて。思わずその日の日誌に『トール殿からプロポーズされた』と書き記した」

「恐れ入りますがルブエ様、あのメッセージはプロポーズではありませんし、日誌にそのようなことを記載するのも問題です。あとで一緒に書き直しましょう」


 ベヒ一郎と次郎からルブエと副リーダーが降りる。

 拠点を離れてしばらく経ったが、元気そうで安心した。


 実は数日前に、ルブエと副リーダーにメッセージのスクロールを使用して、迎えを寄越すようにお願いをしたのだ。


 さすがはベヒーモス、想定よりも早く到着してくれた。


「ぐるぅ」

「うひっ!?」


 一郎がべろんとルーナを舐める。

 さっそく仲良くなろうとスキンシップを図っているようだ。


「拠点に行けば向こうへ戻れるはずだ。できれば最後まで送り届けてやりたいが、こんな状況だからな。捜索を優先したい」

「あのね、みんなが大変な時にはしゃいじゃってごめんなさい!」


 ルーナはなぜか謝る。


「死にそうになって、トール君と再会できて、本当に奇跡だと思った。助けに来てくれたと思ってすごく嬉しかったんだ。でも辛い状況はルーナだけじゃないんだよね。他の人達も同じような目に遭っているかもしれない。だからごめんなさい」

「ルーナさん……」

「向こうに戻ったら、お父様にお願いして捜索部隊を作ってもらうよ。ルーナのできること全部試すつもりだから。だから、みんなを見つけてあげて」


 ぽろぽろ涙をこぼす。


 彼女は我が儘を言ったと思っているようだ。

 そうじゃない。

 自分を責めなくて良いんだ。

 何日も冷たく暗い場所で閉じ込められれば、誰だって人のぬくもりを求める。


 俺はルーナを抱き寄せ頭を撫でる。


「ルーナは何も悪くない。事故だったんだ」

「もし誰かが死んじゃったら」

「絶対に全員見つけ出す。だから信じてくれ」

「トール君……うん」


 ルーナはベヒーモスへと乗る。

 俺はルブエに『頼んだぞ』と目配せした。


 二頭のベヒーモスは遺跡船のある拠点へと出発した。


「先ほどのトール殿の目を見たか、あれは『愛している』と伝えていたに違いない。日誌には記念日としてハートマークを付けておかねば」

「恐れ入りますがルブエ様、あれは護衛を頼むとの意思が込められていたと推察いたします。何度も重ね重ね申し上げていますが、日誌に個人的な記載はお控えください。そういうのは日記に――」

「あはは、なんだか賑やかな人達だねー。帰りの旅も楽しそうだよー」


 ルブエと副リーダーの声が聞こえる。

 ルーナは何度も振り返り手を振っていた。


「行ってしまわれましたね」

「だな。無事に向こうに戻れるといいが」

「心配ないでしょ。主様の船なら。それよりメッセージの方はどうなったの」

「だめだ。有効範囲外らしい」

「向こうではどこにいても届いたのですけどね」


 安否と現在地の確認を行う為にメッセージのスクロールを使用したのだ。

 だが、ルーナを除いた全員に届かなかった。


 こちらへ来るまで、メッセージに距離的な限界があるなんて知らなかったよ。


 どうにか安否を確認できればいいのだが。


 生きていることだけでも分かれば。


「皆さんを探しましょう。きっと皆さん生きておられます」

「そうだな、そうだといいんだが」

「だいたいあのメンツがそう簡単に死ぬはず無いでしょ。主様が思ってるより女は数倍しぶといのよ、むしろ向こうより良い生活している可能性だってあるわ」

「いや、それはさすがに」


 そうだったら俺も安心できるんだがな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る