130話 乙女達の受難その1
ボクは勢揃いした顔ぶれに緊張する。
以前にも思ったけど、みんな美人で可愛くてスタイルも良くて、本当にこのメンバーの中にいていいのか不安になる。
「みなさま、ご足労いただきまことに感謝いたしますわ。本日、こうして集まっていただいたのは、トール様の件ですの」
マリアンヌさんがボクらに感謝の言葉を述べる。
この場にいるのは、前回顔を合わせたメンバー。
アルマンの伯爵令嬢のマリアンヌ
グレイフィールドの姫君のルーナ。
エルフの里のアリューシャ。
幼なじみのネイ。
幼なじみのソアラ。
そして、魔族のボク――ピオーネ。
発端はマリアンヌさんから届いたメッセージ。
トールについて話をしたいといった内容のお茶会へのお誘いだった。
同年代の友人がいないボクにとって、このお誘いは非常に嬉しかった。
女の子同士で恋バナとか、趣味のお話しとか、パジャマパーティーとかしてみたかったんだ。
でも、いざこの場に来ると緊張で身が縮む。
先にも言ったけど、みんなすごく綺麗で可愛いから、どうしてもボクがこの場には不釣り合いな気がしてしまう。
「とは言っても実際のところそれは建前で、わたくしはこの機会にみなさまと親睦を深めたいと考えていますの。ライバル、ではありますけど同じ漫遊旅団のメンバーであり、友人ではありませんか」
「そだねー。小難しい話は手短に終わらせて、楽しいお茶会を始めようよ」
「では始めさせていただきます」
マリアンヌさんが指を鳴らすと、二人のメイドが長方形の板を持ってきた。
ボクの国にもある黒板ってやつかな。
かっかっかっ、ばんっ、彼女は黒板にチョークで文字を書いた。
『打倒カエデさん計画』
なにそれ。
アリューシャさんも首を傾げてる。
「お察しだと思いますが、トール様の正妻の筆頭候補は間違いなくカエデさんですわ。フラウさんは……この場合は横に置いておきましょう。確かにわたくし達は指輪をいただきました。ですが、それに甘んじていてはトール様の寵愛を得ることなどあり得ません」
「つまりカエデと同列、もしくはそれ以上の関係をトールと結ぶにゃ?」
「いかにもですわ。わたくしは指をくわえて、与えていただくのをただ待つなんてまっぴらですの。乙女なら立ち上がるべきですわ」
ボクが、トールの正妻。
ど、どうしよう、第二でも第三でもいいから、子供を二人産めると良いなって思ってたけど……やっぱり正妻になったら沢山愛してもらえるのかな。
ボクもこの話にのるべきかな。迷う。
「でもさー、カエデちゃんは奴隷だよー。そもそも正妻になれるのかなー」
「貴方はまだトール様を理解されていないようですわね。あの方は、何があろうと関係なく突き進む。きっと身分など目の端にも入れず、カエデさんを正妻として扱いますわ。第一、ここで大切なのは形式的なものではなく、精神的な関係性ですの」
「マリアンヌさんの言う通りです。あの鈍感戦士は、身分や立場で扱いを変えるほど器用ではありません。いくら外堀を埋めたところで、肝心の気持ちがなければ真に愛してもらうのは難しいでしょう」
ボクは、トールにちゃんと好意をもってもらえてるのかな。
好きだって言葉ももらってないし。
手を繋いでも、それがラブではなくライクだったとしたらどうするの。
ボクはそれに耐えられる?
ネイさんが手を上げる。
「アタシは遠慮するよ。トールは優しいからこんなアタシでも、嫌とは言わないと思うけど、なんだか申し訳ないっていうかさ。考えてみれば愛される資格なんて、ない気がするんだ」
「ネイさん……」
ごんっ。直後にネイさんの頭をソアラさんが殴った。
「いたぁぁああああっ! なにすんだよ!」
「くだらないことを言っている貴方にお仕置きしたのです。私も貴方も、消してしまいたい過去ができました。ですが、これからの幸せを諦める理由にはならないのです。一度は不幸になりました。だからこそ次は本当の意味で幸せにならないといけないのです」
「ソアラ、あでっ!?」
「なんだかもう一発叩きたくなりました」
相変わらずソアラさんは理不尽だ。
けどさ、ボクも意見は一緒だ。
諦めるだけじゃ何も手に入られない。
乙女なら立ち上がれ。そうだよ、ボクだってやればできるんだ。
トールと既成事実を作るんだ。
「しかし、カエデを打倒するとは具体的にどうするのだ」
「子作りですわ」
「なっ、なんだとっ!?」
椅子からアリューシャさんが転げ落ちた。
あ、すぐに起き上がった。
「それは、いくらなんでも急ぎすぎる気が、まだ手も繋いでいないのに、あああああああああああああ、しかし!」
「わたくしも、同じですけど、やるならそれくらいしなければ!」
アリューシャさんもマリアンヌさんも顔を真っ赤にしている。
よく見ると、全員が顔を赤くしてもじもじしていた。
やっ、やっぱり、みんな考えることは同じだったんだね。
「あ、でもさー、どうやってトール君と関係を深めるのさー。彼は別の大陸に行っちゃったけど」
「ご帰還を待つしかありませんわね。もしくは戻ってきた遺跡船に乗って、わたくし達も後を追いかけるか。後者は得策とは言えませんけど」
「作戦を考えても、肝心のトールがいないんじゃどうしようもないにゃ。手っ取り早く会いに行ける方法があれば、万事解決なのににゃ」
だよね。別の大陸に通じる転移魔方陣でもあれば。
そろそろトールの顔を見たくてボクは寂しいよ。
今頃どこでなにをしているのかな。
ミシッ。
ミシミシミシ。
妙に床が鳴る。
古い屋敷のようだから、ガタがきているのかな?
「くっ、我が里の転移魔方陣が異大陸に通じていれば! 偉大なる種族よ、どうしてそのような魔方陣を残してくださらなかったのだ!!」
ダンッ。アリューシャさんが強く床を踏んだ。
メキメキ。バリバリバリ。
え?
床に亀裂が走る。
するとボクの身体は斜めになった。
違う。床が沈んでいるんだ。
「きゃぁぁああああ!」
「なんなのこれ!?」
「ぬぐわぁぁああ!!」
床が抜け落ち、次々に皆が落ちて行く。
ボクは辛うじて敷いてあって絨毯を掴んで難を逃れる。
「ああ、ああああ」
マリアンヌさんは巻き込まれなかったようで、座り込んで呆然としていた。
「マリアンヌさん、助けて!」
「あ! そうですわね!」
びりっ。
尖った木材が絨毯を少しずつ裂く。
身体は確実に下がっていた。
早く。
「手を!」
「うん」
伸ばされた彼女の手を掴もうとするが、ギリギリのところで届かない。
びりっ。びりり。
もう無理だ。
落ちる。
あ。
絨毯は引きちぎれ、ボクは真下へと落下した。
すぐにボクは気が付く。
底で魔方陣が輝いていることに。
地面にぶつかる瞬間、意識が途絶えた。
「あ、あああああ、どうしましょう! みなさんが!」
底に見えていた転移魔方陣は、ピオーネさんを転移させたあと機能を停止した。
この屋敷は遺跡の上に建てられている。
けれど、まさか真下に転移魔方陣があったなんて知らなかった。
わたくしは彼女達の行く先を調べるべく、まずは魔法陣の専門家の元へと駆けだした。
みなさま、どうか無事で。
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