129話 戦士と花園の迷宮2
花園の迷宮を進み、丸一日が経過した。
ここまでの道筋は紙に記してあるので、戻ろうと思えばいつでもできる状態だ。
夜の帳が降りた頃、俺達は焚き火を囲んで本日の収穫を確認する。
「速度上昇の指輪に眠気覚ましのネックレス、それから空腹知らずの腕輪、魔力中回復の指輪、鑑定のスクロールが二つ。あとこの、ぐにぐにした玉はなんだ」
「知らないのかイ。そいつは煙玉、強く握って投げると大量の煙を吐くのサ」
「煙幕として使えそうだな」
どのアイテムも、向こうにはなかったり性能が上だったりする。
島に持ち帰れば良い値段で売れそうだが、まだ帰る方法が船しかない現状ではこっちで売り払う方が賢いだろう。もしくは俺達で使うとかな。
まずはウルティナに欲しい物を選ばせることにする。
これらは俺達だけで得たものじゃない。当然ながら彼女にも取り分は発生する。
「アタシは魔力中回復の指輪だけでいいサ」
「本当にそれだけでいいのか」
「どのアイテムも出現頻度の高い品。使い道もないし、もらっても小遣い程度にしかならないヨ」
ここに何度も来ていると言っていたか。
もう飽きるほどこれらのアイテムを見ているのだろう。
まぁ、俺としても必要に感じる品はほとんどないのだがな。
鑑定のスクロールと煙玉以外は全て売ってしまおう。
「どうぞお水です」
「こくっ、こくっ、はぁぁ生き返る」
「ようやく元気になりましたね」
「反省したわ。もう一生お酒なんて飲まない」
「きゅう」
二日酔いから回復したフラウがそう宣言する。
きっと数日後には、今日のことをすっかり忘れて酒を飲んでいるに違いない。
「そろそろ出発するヨ」
「夜に動くのは危険じゃないか?」
「今夜は月が出ていて明るいだロ。それに幻のエリアは夜じゃないと楽しめないんだヨ」
そう言うことなら仕方がない。
ここまで来て、中途半端に見るのは俺も面白くないからな。
スンッ、カエデが鼻を鳴らした。
「先ほどから良い香りがしませんか?」
俺も鼻を鳴らす。
うっすらとだが、香りを感じ取ることができた。
もしかするとウルティナの言う、幻のエリアが近いのかもしれない。
荷物をまとめ、すぐに出発する。
「もしかしてここが」
「うわぁぁああ!」
「きゅう」
開けた空間に出た俺達は、その光景に思わず見入ってしまう。
噴水の周りに、青く発光する小さな花が数え切れないほどあった。
風が吹く度に光が波のように揺らめいている。
「聞いたとおりの光景だっタ。これが見たかったんダ」
ウルティナはエリアへと踏み入り、手を広げてくるりと回る。
その姿は子供のようだ。
「この花はなんて言うんだ」
「えーっとですね、ヒトクイホタルバナとあります」
ヒトクイ……人食い!?
「きゃぁ!?」
「ぬわぁぁ!??」
「きゅう!」
しゅるるる、蔓が俺や仲間達を縛り付けた。
噴水から顔を出したのは、一メートルもある青い花。
中央にある大きな口ががばり、と獲物を求めて開いた。
「魔物、だったのですね」
縛られたカエデは逆さまで宙づりとなって、白い太ももを露わにしている。
「アタシとしたことが、油断してしまうとハ……」
ウルティナはなんとか縛りから脱そうとするも、蔓はキツく縛り付け、動くほどに胸がぷるんぷるん揺れていた。
フラウとパン太は、特に見所もなく普通だ。
「ほら、主様! どうしてフラウを見てくれないのよ!」
「…………」
「胸か! 胸なんだな! あの二人は胸があるから!」
フラウが血の涙を流しそうなほど、悔しそうな表情となる。
「お前達、騒いでいる場合カ! この状況を見ロ!」
魔物はカエデとウルティナを交互に確認し、どちらからいただくべきか考えているようだった。
「いかがいたしますか」
「もう少しこのままでも」
「ご主人様」
「悪い。俺がやるよ」
ぶちりっ、蔓を引きちぎり着地する。
さて、別れの時間だ。
いいものを見せてくれて感謝しているよ。
魔物を十字に切り捨てた。
「動きが、まるで見えなかっタ……このアタシが」
「ご主人様は、ご主人様ですからね」
ほどけると同時に、カエデはくるんと回転して着地する。
その顔は惚けたようにうっとりとしていた。
反対にフラウは、ウルティナの胸を穴が開くかと思えるほど睨み付ける。
……ん?
噴水に何か浮かんでいる。
拾ってみれば、白色のスクロールだった。
エルフの里で一度だけ見たことがある。
スキルを与えてくれる特殊なスクロール、だったか。
もしかすると今の敵は、このエリアのボスだったのかもしれない。
ボスモンスターは退治するとアイテムを落とすと聞いたことがあるしな。
スクロールの内容は【発光】。
聞いたこともないスキルだ。
逆に考えればレアの可能性が高い。
「それってスキルが手に入るんでしょ。ここはフラウよね」
「使い方も分からないスキルだぞ?」
「でも主様は眷獣とか使えるし、カエデも魔法ができるじゃない。フラウは飛ぶことだけ、フラウももっと役に立ちたいのよ。没個性はいやなの」
お前が没個性とか言うな、と喉元まで出かかったなんとか飲み込む。
俺もカエデも充分過ぎるくらいのスキルを有している。
その点フラウは目立った能力はない。
飛行能力は特筆すべき素晴らしい力だが、それ以外はごく普通だ。
それにフェアリーと発光は相性が良い気がしている。もちろん勘だが。
俺はスクロールをフラウに渡した。
「
スクロールから光が放たれ、フラウの胸に吸い込まれる。
これで彼女は発光スキルの所有者だ。
「フェアリーライトォォオオオオオ!」
「「「「ぎゃぁぁああああ!!」」」」
すさまじい光量がフラウから放出された。
嘘だろ、やるなら前もって言っておいてくれよ。
視界が真っ白になって何も見えない。
あ、何かを掴んだ。
「ん、ご主人様、このような場所でなく、せめて……」
「すまん!」
一体、俺はカエデの何を鷲掴みしたんだ。
逃げるようにして後ろへ走ると、誰かとぶつかって倒れ込んだ。
「誰だ」
「ウルティナだヨ。その声はトールだネ」
軽く謝罪して立ち上がろうとする。
手を移動させると、ふにょんと柔らかい感触があった。
「どこに手を入れているのサ!? やめ、んんっ……」
「すまない! でも何も見えなくて」
「バカ、足を動かすナ! あひっ」
「ご主人様、何をなさっているのですか!? 私はここですよ!」
「フラウ、俺を安全な場所に移動してくれ」
フラウに掴まれ、俺はふわふわと空中を移動する。
下ろされた場所は壁際のようだった。
「きゅう! きゅ、きゅう!?」
「ちょっと、じっとしてなさいよ。見えないのに飛んでも、ほら壁にぶつかった」
「きゅ~」
混乱状態だったパン太が、壁にぶつかり落下したらしい。
視力が戻るまで各々回復を待つしかない。
「フラウ、後で話がある」
「はい……」
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