【経験値貯蓄①巻発売記念SS】


 カエデがコーヒーの入ったカップを置いてくれる。

 程よい温かさに自然と顔が緩む。


「ご主人様はコーヒーお好きですよね」

「まぁな、昔は苦手だったんだが徹夜の多い仕事だしな。気が付けば愛飲するようになっていたよ。ところでフラウは?」

「まだ寝ているみたいです」


 カエデは台所へと向かう。

 ここ最近はホットミルクにハマっているらしく、飲んでいる姿をしょっちゅう見かける。


「どうして起こしてくれなかったのよ!」

「きゅう」

「声をかけたけど起きなかったって? そんなの聞こえなかったわよ。なによその目、ぜんぶフラウのせいだって言うつもりなの」

「きゅうきゅう」

「良い度胸ね白パン。毎日毛繕いしてあげてるのは誰なの」


 二階からふよふよ飛びながら降りてきたフラウとパン太。


 フラウは前方を見ておらず、そこへ台所から出てきたカエデとぶつかった。


「きゃ!?」

「ぬへっ!?」


 びしゃ、がしゃん。


 カップが割れ、カエデは頭からミルクをかぶってしまった。


「ぬるめに作っておいてよかった……フラウさん大丈夫ですか」

「う、うん、ごめんねカエデ」


 カエデの服は濡れ透けており、胸の谷間には白いミルクが溜まり、顔にも滴っていた。


 俺は思わずごくりと喉を鳴らす。


 太ももにもミルクがかかっていて、ぽたぽた水滴が落ちる。


 カエデは俺の視線に気が付かぬまま、立ち上がって困り顔となった。


「着替えてこないといけませんね」

「じゃあフラウがその服、洗ってあげるわ」

「ありがとうございます。ではご主人様、ここを少し離れます」

「あ、ああ」


 カエデはぱたぱたと二階へと上がっていった。




 ◇



「……なぁ、どうしてそんな格好なんだ」

「あの、その」


 戻ってきたカエデは、シャツを身につけただけの姿だった。

 下着も付けていないようで、薄地のシャツが身体にぴったり張り付いている。


 カエデは顔を真っ赤にしてシャツの裾を下へと引っ張った。


 そっちを隠すのもいいが、できれば胸の辺りも隠してくれないか。


 色々と目に毒なんだが。


「その、ちょうどほとんどの服を洗って干したばかりだったので……」

「そう言えば朝から洗っていたな」

「はい。なのでこれしかなくて」


 カエデはモジモジしながら、太ももをすり合わせる。

 恐らく尻尾があるから後ろは丸見えのはずだ。


 良くないとは思いつつ見てみたくなる。


「もうちょっと待ってねカエデ。超高速で洗って干すから」

「お願いします」


 水着姿のフラウが桶でカエデの服を洗濯している。

 サイズからほとんど遊んでいるようにしか見えないが。


 そして、なぜか一緒にパン太も洗われている。


「フラウさん、やっぱり私が洗った方が」

「いいのよ。不注意でカエデに迷惑かけたんだから」

「ですが前をよく見ていなかったのは私も同じですし」

「だからいいって言ってるのに」


 カエデは桶の前で腰を下ろしてしまう。


 俺は見えてはいけないところが見えて目をそらした。


 くっ、冷静になれトール。

 こんなことで熱く固くなるな。


 今必要なのは柔軟性だ。穏やかな心。


「あ、ごめん。かかっちゃった」

「かまいません。洗濯ですからよくあることです」


 水がかかったせいでシャツが透けていた。

 しかも動く度に、形の良い胸がふるんと揺れる。


 肉感的で官能的な雰囲気に、俺は再び喉を鳴らす。


 おぱ、おぱぱぱ。


 いかんいかん。


「カエデ、あんたスケスケじゃない」

「え?」


 自分の姿に気が付き、カエデはみるみる顔を湯気が出そうなほど真っ赤に染めた。

 そして、俺は急いでその場から退散する。


 しばらくカエデは俺を見るだけで顔を赤くしていた。




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