126話 穴に落ちた奴を戦士は覗く


 首都を出て数日が経過。

 国境を目指しのんびり先を行く。


 陽光が照らす草原はぽかぽかして温かい。


 フラウとパン太なんかは草原の上を飛び回っていた。


「お昼寝したくなる天気ですね」

「だな。ふわぁ」


 ついあくびが出る。

 カエデも白いふわふわの尻尾を揺らし、俺を見て微笑んでいた。


 後ろから付いてくるベヒーモス達も気の抜けた表情だ。


《報告:魔力貯蓄の修復が完了しました》

《報告:スキル経験値貯蓄の修復が完了しました》


 視界に表示された文字にため息を漏らす。


 頼むからもう壊れないでくれよ。

 ただでさえ人外レベル、これ以上のパワーアップは望んじゃいない。


 ちなみに現在の俺達のステータスはこうだ。


 Lv 3455

 名前 トール・エイバン

 年齢 25歳

 性別 男

 種族 龍人


 ジョブ 

 戦士

 竜騎士

 テイムマスター

 模倣師

 グランドシーフ

 コピー・勇者


 スキル 

 ダメージ軽減【Lv200】 

 肉体強化【Lv200】 

 経験値貯蓄【Lv122】  

 魔力貯蓄【Lv1】

 スキル経験値貯蓄【Lv1】

 ジョブ貯蓄【Lv200】

 スキル貯蓄【Lv189】

 スキル効果UP【Lv200】

 経験値倍加・全体【Lv200】

 魔力貸借【Lv200】

 スキル経験値倍加・全体【Lv200】

 竜眼【Lv200】

 使役メガブースト【Lv200】

 ジョブコピー【Lv200】

 超万能キー【Lv-】


 権限

 Lv5ダンジョン×1 使用中


 *


 Lv 2085

 名前 カエデ・タマモ

 年齢 15歳

 性別 女

 種族 白狐

 ジョブ 魔法使い(奴隷)


 スキル 

 鑑定【Lv100】

 詠唱省略【Lv100】

 命中補正【Lv100】

 威力増大【Lv100】

 癒やしの波動【Lv100】


 *


 Lv 2055

 名前 フラウ

 年齢 28歳

 性別 女

 種族 フェアリー

 ジョブ 

 鍛冶師

 巫女(奴隷)


 スキル 

 攻撃力増大【Lv100】

 俊敏力増大【Lv100】

 看破【Lv100】

 成長の祈り【Lv100】


 ずいぶん成長したように思う。

 否、成長しすぎた。


 300で喜んでいた日々が懐かしい。


「ご主人様、あの、その」

「どうした?」


 カエデが恥ずかしそうに、こちらを伏せ目がちに見る。

 妙にそわそわしていて落ち着きがない。


 それにフラウが離れているのをしきりに確認していた。


「頭にある耳を、撫でていただけないでしょうか」

「それくらいお安い御用だ」


 考えてみれば、狐耳だけを撫でるのは初めてだな。

 いつもは頭全体を撫でていたしさ。


 しかし、耳だけを撫でるってどうやるんだ?


 こうか?

 いや、こう??


「んっ、そこはくすぐったいです。あ、中はだめです」

「難しいな……じゃあ根元の辺りを」

「ふわぁ、とてもきもちいいです」


 途端にカエデはふにゃあと緩んだ表情になった。

 ここが気持ちいいらしい。


 ふわふわの尻尾もぱたぱた揺れ、見ているこちらも嬉しい気分となる。


「あー! ずるいカエデだけ!」

「きゅう!」


 戻ってきたフラウとパン太がぷんぷん怒る。

 しかし、今のカエデには全く聞こえていない様子だ。


 そ、そんなに気持ちいいのか……俺にも獣耳があれば。


「気になってたんだけど、なんだかあの三頭――大きくなってない??」


 フラウの指摘に振り返る。


 そうか?

 でも、確かに一回り、違うな、二回りくらいデカくなった気もする。


 邪竜を一緒に倒したことが原因だろうか。


 こうなると大きな牛と言い張るのも限界、かもしれん。


 モニカに聞いた話だと、ベヒーモスはドラゴン並に人々に恐れられている魔物だそうだ。

 以前のサイズならまだカワイイで収まった(?)が、ここまでデカくなると連れて歩くのは不味い気がする。


 はっきり言って誤魔化しきる自信がない。


「ここから先は徒歩で進むか」

「「「がるっ!?」」」


 三頭が慌てて俺を取り囲んで顔を舐める。

 どうにか連れて行ってもらいたいと懇願しているようだ。


 もちろん捨てるとか、そういうことではない。


 一足早く調査隊のいる死の森に戻ってもらいたいだけだ。


 まぁルブエ達のことも気掛かりではあったんだ。

 ここで三頭を戻すのは逆にいい判断かもしれない。


「必ず戻る。それまでルブエ達を守ってやってくれ」

「ぐるぅ」

「きゅぅん」

「くぅん」


 三頭の顔を撫でてやる。

 次会った時は、腹一杯に肉を食わせてやるからな。


「いくわよ」


 フラウが妖精の粉を振りかけ、三頭はふわりと浮き上がった。


 空飛ぶベヒーモス。

 うーん、カッコイイ。ある意味ロマンだな。


 別れを惜しみつつ森のある方角へと飛んでいった。



 ◇



 国境を越え、隣国ヨーネルンへと入る。

 事前に聞いた話では、ダークエルフと呼ばれる種族が多く暮らしているそうだ。


 むこうにはいなかっただけに、非常にワクワクしている。


 ダークエルフとはどのような種族なのだろうか。


 ちなみにペタダウスとヨーネルンは交易も盛んで、仲が良いそうだ。

 種族的に近いということも理由の一つなのだろう。


 辺境の街に入った俺達は、その光景に衝撃を受ける。


「街の住人全員が、アイマスクをしている……」


 エルフと似た整った容姿に、特徴的な長い耳、それから褐色の肌。

 さらに彼らの額には、アイマスクがあった。


 おまけにどのダークエルフも、宙を漂う黒いボールのような物体を連れている。


 なんだあれ。

 生き物、なのか?


「ご主人様、見てください」

「マジかよ」


 ちらほら屋根で寝ているダークエルフを見かける。

 しっかりアイマスクを装着し、枕まで頭に敷いてあった。


 並ぶ店も睡眠に関係したものが多い。


 どんだけ寝たいんだここの住人は。


「うへぇ、あんなところに寝て物盗りとか心配しないのかしら」

「きゅう」


 パン太に乗ったフラウは、くるくる回って街を観察する。


 寝ているダークエルフの球体は、鋭い牙が生えた口を開けて周囲を威嚇しているようだった。もしやあれは睡眠中の主人を守る生き物なのだろうか。


 ひとまず眷獣、のようなものと認識しておくか。


「ダークエルフはヒューマンに対して友好的のようですね」

「止められることもなく街に入れたしな。もしかすると差別的なのは、エルフだけなのかもしれない」

「友好的、っていうより単に興味がないだけじゃない?」

「きゅう」


 フラウとパン太はダークエルフの目の前に飛んで行くが、蝿を追い払うように軽く手で払われてしまう。


 そうかもしれん。

 単純に他種族に興味がないのかもな。





「嘘だろ」

「皆さん、お昼寝中ですね」


 ギルドへ顔を出せば、全ての冒険者が昼寝をしていた。

 辛うじて職員は起きているが、今にも寝そうなくらいうとうとしている。


 どうなってんだこの国。


 とにかく職員の元へと行く。


「この辺りで報酬の大きい依頼はないか」

「はい、お昼寝用の、枕の貸し出しは……ふわぁ~」

「頼む真面目にやってくれ。依頼のことを聞いているんだ」

「あー、はいはい。外から来られた方ですね」


 職員はとろーんとした目で俺を確認する。


 ダークエルフを見ていると、こっちまで眠くなってくる。


「依頼は……ぐぅ」

「寝てしまいましたね」


 仕事中に、それも対応中に寝るかよ普通。


 どこからか、くすくすと笑い声が聞こえた。


「来るタイミングが悪いのサ。ダークエルフの大部分は昼夜逆転してるからネ」


 二階から一人の女性が階段を降りて来た。


 大きな胸にへそを出した大胆な服装。

 自信に満ちあふれた男らしくもあるダークエルフの女性は、灰色のセミロングヘアーを風で揺らす。


 装備から推測するに、どうやら斧使いのようだ。


「アタシはウルティナ。これでもダークエルフの中では、よく知られたソロ冒険者――」


 彼女は床を踏み抜き、姿を消した。


 数秒遅れて寝ていた職員が目を覚ます。


「そこの床、修理中なんで気をつけてくださいね」

「人が落ちたんだが」

「どうせウルティナさんでしょ。あの人、よく落ちるから。大丈夫です、無駄に頑丈ですから死んでませんよ」


 穴の底からシクシクと泣く声が聞こえた。

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