109話 戦士、調査団をレベルアップさせる


 フラウに案内され、森にあると言う建築物を訪れる。


 それは木々に囲まれひっそりとあった。


 蔦に覆われた石造りの建物。

 それでいて周囲を外壁が囲んでいる。


 確かに城塞だ。


 外壁を飛び越え中に。


「グルゥ?」


 壁を越えたすぐ向こうでは、魔物達がうろついていた。

 どうやらここは魔物達の巣になっているようだ。


 最初は俺を威嚇していたが、一歩前に出れば蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


 野生の勘と言う奴だろう、敵わないと悟ったらしい。


「どう? ここを拠点にできれば調査もはかどるでしょ」

「今のところは良さそうに見える。問題は中だな」


 建物の入り口は施錠され、びくともしない。


 針金を取り出す。


「開けられそう?」

「たぶん……開いた」


 さすがは超万能キースキル。


 さっそく扉を開く。


「ふーん、中は思ったよりシンプルね」

「きゅう」


 フラウとパン太がエントランスを観察する。


 建物の中はがらんとしていて、物が一切なかった。

 少なくとも遺跡ではない。


 比較的最近に作られた、そんな印象を受ける。


 扉を開けて各部屋を見てみるが、やはり物などは一切ない。


「見てきたわよ」

「どうだった」

「危険な物も生き物も見当たらなかったわ」


 ひとまず安全は確認できたので、俺達は浜辺へと戻ることにした。



 ◇



「ここが我らの拠点か! さすがトール殿、感激で泣きそうだ! 副リーダー、このことを調査日誌に記載しておけ! トール殿の手柄だとな!」

「承知いたしました」

「ふふん、やっぱり勇者であるトール殿はなすことがちが――ひぃっ!? 木が揺れた! 魔物じゃないのか!?」

「ルブエ様、恐れながらあれは風で揺れただけです」

「そうか、少し取り乱してしまった」


 現在も物資の搬入が団員によって行われている。


 数日で立派な拠点になることだろう。


「トール殿、少しお話しが」


 珍しくルブエから声をかけられる。


 真剣な顔から、任務に関してのことだと思われる。


「実は漫遊旅団に、レベルアップのお手伝いをしていただきたいと考えているのです。なにぶん、ここは高レベル帯、我らだけで過ごすにはいささか厳しい環境かと」

「俺も同じことを考えていた。明日からさっそく始めるとしよう」

「感謝いたします」


 握手をすると、ルブエは興奮したように鼻息を荒くする。


 すぐに副リーダーの元へと戻っていった。


「トール殿と握手をしたぞ! これで子供ができたな!」

「ルブエ様、はっきり申し上げますと、握手で身ごもることはありません。そもそもその発想はどこから来たのでしょうか。甚だ疑問です」


 副リーダーは眼鏡を中指で上げながら注意をした。






「またレベルが上がった。これで300だぞ」

「さすがですルブエ様」


 翌日、漫遊旅団のサポートのもと、調査団のレベルアップが開始された。


 やることは簡単で、俺やカエデ、フラウ、ロー助が魔物を弱らせ、最後は団員がとどめを刺す、それだけだ。


 さらに経験値倍加・全体スキルがあるおかげで、彼らの成長スピードは桁外れに早かった。


「えいっ!」


 モニカが細剣で敵を斬る。


 か弱いお嬢様かと思いきや、戦わせてみればこれがなかなかできる子だったのだ。

 元々のレベルも120と高めで、大陸では全体的にレベルが高い傾向にあるようだった。


 ちなみに現在のレベルは320。


 速度特化の剣士タイプらしい。


「一日で300台なんて、まるで夢を見ているみたいデース。死の森は高レベル帯で、とても恐ろしい所と聞いていたのデース」

「死の森?」

「ここは帰らずの森として有名な場所デース」


 大陸では、このような高レベル帯が複数存在するそうだ。

 まぁ、島でもあったので、今さら驚くようなことではないが。


 ただ、出現する魔物のレベルが尋常じゃない、というだけ。


「モニカの国では、300台は強い方なのか」

「中の上くらいデス。上にはごく少数ですが700台や800台の方もいるのデース」

「800……そっか、800か」

「?」


 ここでも俺は強すぎるんだな。


 もう本気で戦える日はこないかもしれない。

 戦士として、本気で戦えないのはちょっとした悩みだ。


 まさかこんなことで頭を痛める日が来るとは。



 ◇



 大きな浴槽。

 立ち昇る湯気。


「はぁ」


 俺は湯に浸かり、至福の息を吐く。


 拠点には風呂があったのだ。


 どうやら地下から水をくみ上げているらしく、この建物には水道が通っていた。

 おまけに部屋数もかなりのもので、調査団と船員達が生活するだけの場所を、余裕で確保できていた。


 沖に停泊中のルオリク号は、少数の船員によって管理維持されている。


 一ヶ月ほどこちらに滞在したあと、一度報告の為に、ラストリアへと帰還するらしい。


 足りない物資や人材の補給とかあるそうだ。


「ぱくぱく」

「しゃ」

「ちゅぴ」

「くら~」


 眷獣が各々風呂を楽しんでいる。


 サメ子は湯船をチャプチャプ泳ぎ、熱くなったら外に出て水の張ってある桶に飛び込む。


 ロー助は楽しむと言うよりは、水に慣れる訓練をしているらしく、風呂に潜って顔をだすを繰り返していた。


 チュピ美は湯には興味がなく、桶にある水で水浴びをしている。


 クラたんは……ふわふわ空中を漂っているだけだ。


 こうしてみると、ウチも賑やかになったものだ。

 すっかり大所帯。


「ご、ごしゅじんさま」

「カエデ!?」


 バスタオルを巻いたカエデが浴室に入ってくる。


 恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。


「ふふん、フラウもいるわよ」

「きゅう!」


 遅れてフラウとパン太が入室。


 一人と一匹は、かけ湯もせず浴槽に飛び込んだ。


「おせ、おせなかをおながしいたします」

「そうだな、たのむ」


 恥ずかしがるカエデを見ると、こちらまで恥ずかしくなる。


 白い肩や胸元から視線を逸らしつつ、風呂用の椅子に座る。


 石鹸で泡立てたタオルで、カエデは背中を擦り始めた。


「気持ち良いですか。ご主人様」

「ちょうどいい」

「ふふ、喜んでもらえて嬉しいです」


 カエデの機嫌の良い声に、俺も気分が良くなる。


 ふにっ、やけに柔らかい物が当たる。


「カエデ、当たって、いるんだが」

「へ?」

「その、おっ、おっ」

「お?」


 ほら、また当たった。

 まさかわざと当てているのか。


 ばしゃばしゃ風呂で泳いでいたフラウが、何かに気が付いたらしい。


「カエデ、胸が主様に当たってるわよ」

「えぇっ!?」


 カエデは「ひゃぁああああっ!」と、顔を真っ赤にして風呂場から出て行ってしまった。


「カエデってチャンスを棒に振るタイプよね」

「きゅう~」


 フラウとパン太はタオルを頭に乗せて、呆れた様子だった。


 ぱきっ。


 あれ?

 この音??


 ぱきぱきぱき。


 不意に聞き覚えのある音が、俺の中から響いた。


《報告:魔力貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが十倍となりました》

《報告:スキル経験値貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》

《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが十倍となりました》

《報告:魔力貯蓄・スキル経験値貯蓄が破損しました。修復にしばらくかかります》


《報告:スキルのLv限界値が破壊されました。新たな限界値が設定されます》



 Lv 3300

 名前 トール・エイバン

 年齢 25歳

 性別 男

 種族 龍人


 ジョブ 

 戦士

 竜騎士

 テイムマスター

 模倣師

 グランドシーフ

 コピー・勇者


 スキル 

 ダメージ軽減【Lv200】 

 肉体強化【Lv200】 

 経験値貯蓄【修復中】  

 魔力貯蓄【修復中】

 スキル経験値貯蓄【修復中】

 ジョブ貯蓄【Lv180】

 スキル貯蓄【Lv175】

 スキル効果UP【Lv200】

 経験値倍加・全体【Lv200】

 魔力貸借【Lv200】

 スキル経験値倍加・全体【Lv200】

 竜眼【Lv200】

 使役メガブースト【Lv200】

 ジョブコピー【Lv200】

 超万能キー【Lv-】


 権限

 Lv5ダンジョン×1 使用中



 はぁぁ。

 またかよ。




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