108話 戦士達は大陸へ到着する
とある部屋へと訪問する。
「どうぞデス」
ドアを開ければモニカがいた。
すっかりはつらつとした雰囲気である。
栄養不足と脱水状態が改善されたおかげだろう。
「助けていただいたばかりか、自室まで与えていただけるなんて恐縮デース。一族秘伝の感謝術を披露するデース」
「いや、あの、そういうのはいらないかな」
「そうなのデスか。非常に残念デース」
適当な椅子に座りため息をつく。
よく分からん子だ。
未だにどう扱って良いのか悩む。
それはそうと、ここへ来たのは話を聞きたかったからだ。
「モニカのいた場所以外にも、陸地はあるのか」
「あるのは知っていますデース、でも、行って戻ってきた人達はいないのデース。噂では伝説の島があるそうデース」
「伝説の島??」
「有名な話デース。神に等しき種族が初めてこの世界に現れた島、そこには多くの遺跡と遺物が眠っているそうデース。いつか行ってみたいデース」
神に等しき種族、恐らく龍人のことだろう。
伝説の島か、俺も行ってみたい。
そんな話を聞くとワクワクしてしまう。
それはそうと、やはり造船技術はこっちも向こうも同程度のようだ。
外海を渡る術があるなら、とっくに島に来ているはずだからな。
少なくとも大陸では稼働している遺跡船がない、と判断できそうだ。
「国へ返す件なんだが、しばらく俺達と一緒に行動してもらえないだろうか。こちらの都合で悪いんだが、直接この船で送り届けることはできないんだ」
「どのようなことでも従いますデス。私は命を助けていただいた身なのデース」
モニカはにっこり微笑んだ。
◇
ざざざ、船が進む。
甲板に出れば強い潮風が吹いていた。
「とうとう見えましたね」
「航海を始めてもう二週間か」
水平線に陸地のようなものが見える。
あれこそが目的地である大陸。
カエデの故郷があり、母さんが生まれ育った場所だ。
「ぱくぱく」
船と並んでサメ子が泳いでいる。
最近は刻印から出したまま放置しているのだ。
サメ子も満喫しているようで、以前よりも表情が明るい……気がする。
『トール様、管理室までお越しください』
船長からの呼び出しだ。
俺達は彼の元へと向かう。
「沖で船を停泊し、調査団は上陸可能な砂浜から荷物を運び、拠点を作ります。そこでトール様には最初に上陸していただき、危険な生き物が近づかないように、森を警戒していただきたい」
地図を見ながら説明する船長に頷く。
俺達は大陸の端にある、森林に覆われた人のいない場所から上陸する予定だ。
なぜそのようになったのかは簡単だ。
我々だけが知る、安全な侵入ルートを確保する為。
俺達にとって大陸は未知の世界、完全なよそ者だ。
排除の対象になる可能性も、考慮しておかなければならない。
「いよいよ上陸か。まずは水源の確保と食糧調達を最優先にしなければな」
「ルブエ様、この地図によれば、上陸地点の近くには川があるようです。まずはこの辺りから探索を始めるのがよろしいかと」
「なるほど。だとしたら水は思ったよりも早く手に入りそうだ。でかしたぞ副リーダー」
「一週間前にもまったく同じ会話をいたしましたので」
ルブエは顔を赤くしてふるふる震えた。
確かに一週間前にも、同じメンバーで同じ話をした。
彼女は小さな声で「い、いまのは、みんなを試しただけだ」と涙目になる。
たまに思うのだが、副リーダーはルブエに恨みでもあるのだろうか。
甲斐甲斐しく世話を焼いているように見えるが、二人の関係はよくわからん。
「船長、上陸地点に到着いたしました」
船員からの報告のあと、船は航行を停止した。
◇
砂浜に足を下ろす。
沖ではルオリク号が留まっており、船員達が小舟へ荷物を下ろしていた。
「なんだか普通ね」
「きゅう」
パン太に乗ったフラウが、砂浜の先にある森をしげしげと見つめる。
確かに普通だ。
ただ、外の世界の景色と思うと、感慨深くはある。
ロー助には周辺の危険な魔物の排除を、サメ子には、渡ってくる船員を守るように指示を出した。
「どうしたカエデ」
カエデがぼーっとしていることに気が付く。
「いえ、生まれ育ったはずの大地なのに、実感が湧かなくて」
「故郷から出たことがなかったんだろ。そう思うのも仕方がないさ」
「かもしれません。ご主人様はどうですか」
「そうだな、ここから母さんがやってきた、なんて今でも信じられない気分だ」
お?
スライム?
森から数匹のスライムが飛び出した。
生息する魔物は、俺の住んでいた場所とそこまで変わらないようだ。
「ご主人様、ここのスライム、レベルが」
「どうした?」
「レベルが、100です」
俺はカエデが何を言ったのか、すぐには理解できなかった。
「レベル100のスライム!?」
「はい、鑑定にそう出ています」
スライムは子供でも倒せる雑魚だ。
基礎能力は魔物の中でも最底辺。
たとえ100だろうと、警戒には値しない。
問題はスライムすらレベル100、と言う点だ。
他の魔物が低レベル、なんてことはあり得ない。
「どうやらここは高レベル帯のようですね。人がいない土地をあえて選んで上陸しましたが、裏目に出てしまったようです」
「今からでも上陸場所を変更するべきか」
「ですが、他に適した場所に移動するとなると、数日を要しますし、もしそこも同様の場所だとしたら……」
いつまで経っても上陸できないな。
こうなれば仕方がない。
俺の力で調査団をレベルアップさせるか。
調査は長くても一年。
まともに戦えなくてはあっという間に全滅だ。
不測の事態に備えて、力を付けさせておくべきだろう。
決まりだ。
早急にルブエと話をしよう。
「あるじさまー、すごいものをみつけたー」
「きゅうー」
フラウが森から戻ってくる。
なんだ、すごいものって。
というかパン太がやけに薄汚れているのだが。
フラウはパン太から飛び降り、砂浜を走って足下へと来た。
「建物を見つけたわよ!」
「森でか?」
「そう、川の近くに城塞みたいな古びた建物があったのよ。それで、中に入って調べようと思ったんだけど、扉が閉まってて開かないの。たぶんあれ、使えるんじゃない」
フラウは『お手柄でしょ』とばかりに、エヘンと胸を張る。
人が住んでいないのなら、拠点として利用できるかもしれない。
そうなればいちいち切り開いて建設する必要もない。
「よく見つけてくれた」
「えへぇ、もっと褒めて、もっとなでなでして」
頭を撫でれば、フラウはだらしない顔となった。
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