107話 戦士の航海4
正統種中位ディープドラゴン。
下位のブルードラゴンが、さらに成長した姿だと言われている。
ブルードラゴンは下位の中で上から三番目程度の力しかない。
だがしかし、このディープドラゴンにまで成長を遂げると、格段に強くなり中位の中でもダントツの力を誇るようになるのだ。
そして、恐ろしいのは下位と中位では、すさまじい力の差があると言うこと。
正直、今の俺でも勝てるかどうか。
「トール様、いかがいたしますかな」
「やるしかないだろう。見逃してくれる雰囲気でもないしな」
「了解いたしました」
ディープドラゴンはこちらを睨んでいる。
さすがは外海、小石に当たるように化け物と遭遇する。
「船長、魔力タンクは?」
「九割以上です」
「ブレス攻撃は防げそうか」
「恐らく」
俺は船長に指示を出したあと、カエデとフラウを連れてデッキへと向かう。
「トール!」
「ああ、モニカ」
通路でモニカと遭遇する。
どうやら船内の騒がしさに、医務室から出てきたらしい。
「何事デース!? まさかクラーケンが!?」
「いや、ディープドラゴンだ」
「ひぃ!?」
腰が抜けたように座り込む。
やっぱり大陸でも、正統種ドラゴンは恐れおののく存在なのか。
しかしながら、クラーケンに船をやられるくらいだ、俺達と彼女達でそこまで違いはないのかもしれない。
カエデが手を貸して立たせた。
「心配は無用です。ここにはご主人様がいます。ご主人様がいれば、万事解決、ディープドラゴンもすぐに片付けてくださります」
「そ、そうなのデスか? でも中位の正統種を人が……」
「信じてください。ご主人様はご主人様ですから」
それ、励ましになってないぞ。
モニカが首を傾げているんだが。
しかし、カエデの俺に向ける期待値が、日に日に大きくなっているような気がして、少し心配だ。
俺だって無敵な訳ではないのだが。
「そろそろ行かないと不味いわよ」
「そうだったな。モニカ、部屋に戻って大人しくしていろ」
「はい、デース」
モニカと別れ、デッキヘと出る。
「まだ警戒しているみたいだな」
「このまま逃げてくれればいいのですが」
ディープドラゴンは未だ、動かず船を睨んでいた。
船は俺の指示通り、一度コースを変えて離脱を試みる。
もしかしたら、見逃してくれるかもしれないと考えたからだ。
ドラゴンの気が変わり興味を失うかもしれない。
ズバァァアアアア。
だが、船の数百メートル先を、ドラゴンの水圧ブレスが通り過ぎた。
逃げるな。
戦え。
言葉は発しないが、行動がそう言っていた。
「やる気満々じゃない」
「船を生き物と勘違いしているのかもな」
「なるほど、縄張りに入った魔物と認識しているのですね」
「どちらにしろやるしかない」
俺達は聖武具の能力を解放する。
レベル3000→4200
さらに竜騎士とグランドシーフを発動。
サポートとしてロー助、サメ子、チュピ美を出す。
それと、間違ってクラたんも出してしまう。
戻すのは面倒なので、司令塔のチュピ美に任せることにした。
『シールドを張ります。各員衝撃に備えてください』
管理室から知らせが発せられる。
ドラゴンはブレスの予備動作に移っていた。
船を薄いピンクの膜が覆う。
これも船の機能の一つだ。
ズシャァアアアアア。
水圧ブレスが走り抜け、船に直撃する。
だが、シールドがあったおかげで、ダメージはほぼない。
さすがは古代種が建造した船。
性能は並大抵ではない。
『砲撃開始』
砲門から閃光を射出、ディープドラゴンに命中する。
爆発が起こり、ドラゴンは痛みに叫び声を上げる。
ダメージはあるようだ。
「ちゅぴ、ちゅぴぴ」
「しゃあ!」
「ぱくぱく!」
チュピ美が指示を出し、ロー助とサメ子が空と海から攻撃を開始する。
ロー助がすれ違うたびにドラゴンの体に刃をぶつける。
さらにサメ子が海中から閃光を放ち、体を貫通して見せた。
しかし、倒すにはほど遠い微々たるダメージ。
俺は使役メガブーストを使用する。
強化されたロー助とサメ子の攻撃は、ドラゴンを動揺させたようだった。
ディープドラゴンは二匹を先に倒すべき敵だと認識したらしく、かみつきとブレス攻撃を多用し排除しようとする。
「ちゅぴぴ!」
上空からチュピ美の指示が飛ぶ、二匹は前もって訓練をしていたかのように、緻密な連係攻撃を繰り返した。
「チュピ美さんが加わったおかげで、無駄な攻撃がなくなったように思います」
「だが、そのせいでチュピ美が弱点になっている。ロー助かサメ子のどちらかが、守りに入らないと不味いな」
「あれ、直撃するんじゃない?」
ドラゴンの口がチュピ美に向いていた。
「ちゅぴ」
「くら~」
ブレスを放たれる直前、クラたんが現れ間に入った。
ずしゃああああ。
水圧ブレスをモロに受けたクラたん。
いや違う。六角形のシールドが攻撃を防いでいる。
そうか、クラたんは防御ができるのか。
その間にもロー助とサメ子が確実にダメージを負わせ、体力を削り続ける。
「ちゅぴ、ちゅぴぴ」
チュピ美の指示により、二匹が下がり始める。
どうやら俺の出番のようだ。
大剣を抜き、海へと飛び降りる。
グランドシーフの身軽さにより俺は海面を走った。
ざしゅ。
すれ違い様に、ドラゴンの首を切り落とした。
◇
「とんでもない大きさですね」
「これ、食料にしても食べきれないわよ」
「倉庫にできるだけ詰めて、残りは魔物の餌にするしかないか」
海に浮かぶ巨体。
その上では船員が解体作業を進めていた。
その様子を俺達は、デッキからじっと眺める。
「ひ、ひぇぇ、ディープドラゴン、デース!?」
振り返ればモニカがいた。
彼女は俺達の横に来て、身を乗り出して死体を見る。
「すごいでしょ、主様が倒したのよ」
「トールさんがデスか!?」
モニカは俺を見て目を輝かせる。
いきなり手を握ってぐっと近づいてきた。
「トールさんはヒューマンなのに、素晴らしいお力をお持ちなのデース。感激しましたデース」
「たまたまだ」
「まぐれでこのようなことは成し遂げられないデース」
「ご主人様に近いです。はなれてください」
カエデが間に入り、モニカをぐっと押し下げる。
心なしか唸っているようにも聞こえた。
尻尾も立っている。
それからカエデは、俺を少し引っ張って、モニカから三メートル以上の距離を作る。
「さ、どうぞお話しください」
「この距離で、デスか!?」
「はい。これが適正の距離です」
「そんな――うっ」
突然彼女は、青ざめた顔で座り込んだ。
「まだ体調が万全じゃないんだ。詳しい話は後日にして、今はきちんと休め」
「ごめんなさいデース」
手を貸してモニカを立たせる。
モニカはカエデに肩を借り、医務室へと戻っていった。
「ねぇ、主様!」
目の前にフラウが飛んでくる。
「みて、レベルが上がったわよ」
「そうなのか。で、いくつだ」
「1300よ。思わず自分の目を疑ったわ」
さすがはディープドラゴン、得られる経験値も並じゃなかったか。
恐らくカエデも上がっているはず、あとで聞くとしよう。
一応、自身のステータスを確認すると、レベルが3300になっていた。
「ちゅぴぴ」
チュピ美が飛んできて俺の足下に降りる。
しゃがんで木の実を転がすと、チュピ美はついばむ。
「よく頑張ったな」
「ちゅぴ!」
右手を向ければ、寄ってきて頭や体をこすりつけてきた。
指で輪っかを作ってみる。
すると、チュピ美は自ら輪っかの中に入ろうとくちばしを差し込んだ。
なかなか可愛い。
さてと、いつ出発できるのか船長に聞きに行くか。
デッキを離れた直後、後方から声が聞こえた。
「トール殿が倒したドラゴンはどこだ」
「ルブエ様、よく御覧ください目の前にあります」
「おおおっ! アンビリバボー! これが正統種の中位なのか! 副リーダー、あとで調査日誌に今日の出来事を記載しておけ!」
「何度も申し上げますが、個人的な出来事は日記に……失敬、これは珍しくルブエ様が正解でした」
「なにをブツブツ言っている」
その後、ルブエはドラゴンの死体の上に乗り、はしゃいでいた。
大陸まであと数日。
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