102話 戦士の呼び声に応える遺跡船


 ――港に奇妙な船が流れ着いた。


 ケイオスはそう言って俺達を呼んだ。


 ただちに服を着て港に向かった俺は、その意味をすぐに理解した。


「あれが流れ着いた船か」

「そうだ」


 港には多くの人が集まっており、俺達と同様にじっと眺めている。


 船は遙か沖にあり、大きさはかなりのものだと推測できる。


 表面は金属製なのか鈍く光を反射し、マストや帆はなかった。


 どうやって動くのかまるで分からない。

 ケイオスが奇妙と言ったのは動力が不明だからだ。


 ラストリアの船は全てが木造船、動力は風かオールである。


 それらと比べるとあまりにも異質に感じた。

 あえて言うなら、オリジナルゴーレムに似た感じがする。


「中に人は?」

「動きがないことから恐らく人はいないだろう」

「もしかして、俺に頼みたいことって」

「君に調査をしてきてもらいたい。凶暴な魔物がいる可能性もあるからな」


 十中八九、あれは船型の遺跡だろう。


 たまたま海流に乗って流れ着いた、と考えるのが妥当だ。


 しかし、よく今まで沈まずにあったものだ。

 もしかして相当に頑丈なのか。


「もう一点、できれば今も動くかどうか調べてもらいたい」

「あんたも俺と同じことを考えているんだな」

「ああ、あれで外海を渡れるか知りたい」


 ケイオスは「陛下に報告に行く、あとは頼んだぞ」と港を去った。


 さて、調査に行くとするか。


「フラウ、頼む」

「言われなくても分かってるわよ!」


 妖精の粉をふりかけ、俺達は空へ一気に舞い上がる。


 海面すれすれを飛びつつ目的の船へと近づいた。


「ずいぶんと汚れていますね。人の気配もなく不気味です」

「ざっと見て百メートル以上はありそうだな」


 大型船はぎぎぎぎ、ときしむような音を立てて海の上に漂っていた。


 中央辺りには小さな塔のような物があり、窓らしきものが上と下に並んでいる。

 ただし、窓部分は酷く汚れていて中を覗くことはできなかった。


「鑑定スキルに反応はあったか?」

「やはり人はいないようです。それと魔物を数匹確認できました」

「奥に人がいるかもしれない。入って捜索しよう」

 

 甲板へと足を付ける。


 鳥の糞や海藻や魚の死骸などが靴に付着した。


 とてもではないが人がいる雰囲気ではない。

 どれほど海を彷徨っていたのだろうか。


 刻印からパン太とロー助を出す。


「手分けして探索を行う。フラウとパン太、ロー助は船上の敵を排除、カエデと俺は中を調べる」

「了解よ」「きゅう!」「しゃあ!」


 がこん。


 ドアを開けて船の中へと入る。


 中は密閉されていたようでかなり綺麗だ。

 金属製の通路が奥へと続いていた。


「明かりを」


 カエデが魔法で照明を創る。


 通路の壁には複数の扉があった。


「魔物の反応は?」

「ありません。中にはいないようですね」


 がちゃり。ドアを開ける。


 何もない個室、突然放置された……と言うわけではなさそうだ。


 他のドアを開けてみるが、やはりそこには何もなく空っぽだった。


「ご主人様、こっちに物が!」

「どれどれ」


 カエデが入った部屋には、金属製の箱が積み重なっていた。

 一つを下ろして蓋を開けてみる。


「……小瓶?」

「全てハイポーションのようですね」

「まじかよ」


 ハイポーションが十二本も入った箱なんて、聞いたこともないぞ。


 さらに下の箱を開けてみると、同様に最上級解毒薬十二本、最上級解呪薬十二本、それと酒らしき瓶が数本。


 開けて飲んでみると、芳醇な味わいにほわほわする。


 今まで飲んだどんな酒よりも美味い酒だ。

 これ一本でどれほどの値段が付くのか考えるだけで恐ろしくなる。

 なんせどれほど彷徨っていたか分からない船なのだ。


 とりあえずマジックストレージに入れておく。


 廊下に出て再び進めば、上に通じる階段を見つけた。





「ここは何をする部屋でしょうか」


 塔のような建物の最上部へと上がる。


 そこには石版のような物が二列に並び、まるで斜めに傾いたテーブルのようだった。


 石版の表面に触れれば、突然ピコンと音を発する。


 ピコン。ピコン。ピコン。ピコン。


 一斉に全ての石版から音が発せられ、表面に薄緑色の絵のような物が表示された。


「これは……現在地を示しているのでしょうか」

「おいおいまさか、動くのか、これ」

「大きなゴーレムと思えば納得できなくもないかと」


 カエデの言葉にハッとする。


 そうだよ、これはきっと船型のゴーレムなんだ。

 動力は良く分からんが、古代の技術で風なんかなくとも動いていたに違いない。


「ですがなぜ急に反応したのでしょうか」

「俺が龍人だからか? ゴーレムの時も反応してたしな」

「だとしたらこの船がここへ来たのも、ご主人様に引き寄せられてでしょうか」

「それは……考えすぎだろ」


 石版に文字が表示されていることに気が付く。


『この場所に停泊いたしますか?』


 YESとNOが出ていたので、YESを押す。


 すると、船が少し揺れた。


 いかりを下ろしたのだろうか。

 しかし、これで船が流される心配はなくなったと考えて良さそうだ。


「壊れている感じはありませんし、どうして放置されていたのでしょうか」

「さぁな、おおかた眠らせていたのが、何かの拍子で流されたとかじゃないのか」

「なるほど。その可能性もありますね」


 船内が綺麗すぎるのもそう考えれば説明できそうだ。


 ただ、この船で外海に出るには掃除をしないとダメだろうな。

 船内はともかく外は汚すぎて、とてもではないがこのまま使う気にはなれない。


 カエデの魔法で高圧洗浄するとすっきりするはずだ。


 とりあえず部屋を後にして、俺達は下へと行くことにした。





「真っ暗ですね」


 階段を下りた先は真っ暗。

 カエデの魔法で周囲を照らすが、闇が濃すぎて光が広がらない。


 この感じ、覚えがある。


 あれはアンデッドの巣窟だった狂戦士の谷のダンジョンだ。


 すぐに竜眼を発動させ警戒する。


 おおおおおおっ。


 地の底から響くような声。

 通路の奥には黒い靄のような人型がいた。


 上位のアンデッド、シャドウだ。


 混乱や麻痺などを引き起こす魔法を使用し、主に闇や氷の魔法を操る。

 さらに物理的な障害物をすり抜け、取り憑いた相手を廃人化させる厄介な魔物だ。


 だが、今の俺には敵ではない。


 瞬時に距離を詰め、シャドウの頭部を拳で打ち抜く。


 闇は霧散し、船内が僅かに明るくなった。


「まだ複数いるようですね」

「だったら目先の掃除をしておくか」


 カエデの鑑定スキルを頼りに、シャドウを始末する。


 十五匹ほど退治したところで船内から闇は完全に消失した。





「――また酒か」

「こっちはガラクタばかりですね。鑑定スキルで用途は分かるのですが、肝心の使用方法が不明なのでなんとも」


 俺達は部屋に入り、再び金属製の箱を見つけた。


 カエデが漁っている箱を覗くと、確かによく分からない物がごっちゃりと詰め込まれていた。


 お、これはもしかして双眼鏡か。


 部屋の中にある丸い窓から外を覗いてみる。

 うぃーん、小さな音が聞こえたかと思えば、遠くにあった港がすぐ近くにまで迫る。


 酔っ払いの顔の皺まで見えるじゃないか。


 こいつはすごい、今までの望遠鏡なんて玩具のようだ。


「他は」

「これなんかどうですか」


 差し出されたのは、目玉を半分にしたような物体。

 どこかにくっつけるようで、後ろの面の部分はベタベタしていた。


 おでこに貼り付けてみる。


 うわっ、視界が広がってぐるぐるする。

 気持ち悪っ、うえぇ。


 すぐに目玉を剥がす。


「あと使えそうなのは……急速湯沸かし器とか虫除けライトとかですね」

「遺物にも色々あるんだな」


 部屋を出てさらに下へと向かう。


 一応、寝室もあるらしく三段ベッドや二段ベッドがあった。


 それと動力室と記載された部屋には、心臓のような馬鹿でかい臓器が動いていて、すぐに退室した。

 あそこには誰も入らせない方がいいな。


 そして、施錠されたドアへと至る。


「今までのドアとは雰囲気が違いますね」

「いかにも何かありそうだな。もしかするとここは貴重品を納める部屋なのかもしれない」


 てことで早速針金を取り出す。


 鍵穴に突っ込み、グランドシーフを発動。


 数秒で施錠は解かれドアは開いた。


「これは……」

「大発見ですよ、ご主人様!」


 抱きついて喜ぶカエデに俺も表情を緩める。


 そこには、二つの眷獣の卵が収められていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る