88話 戦士、お肉を食べてご満悦
《報告:経験値貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》
《報告:スキル効果UPの効果によって支払いが五十倍となりました》
《報告:Lvが3000となりました》
れべる……3000?
頭がおかしくなったのか。
それとも単なる見間違えか。
うん、何度数えても3000。
「どうされましたか?」
「あのさ、レベルが3000になったんだけど」
「さすがはご主人様、またもや成長を遂げられたのですね」
「ちょっとカエデ! 少しは驚きなさいよ! 3000よ、3000!」
「でも、ご主人様ですから」
フラウのツッコみなど意に介した様子もなく、カエデは純粋に喜んでいるようだった。
一方、他のメンバーは唖然としている。
大口のまま固まっているネイの手元からサンドイッチが落ちた。
「トール君、3000とかやばいよ! 普通じゃないって!」
「やったなトール殿! 森の神に愛されているぞ!」
「レベル3000とか、聞いたことないにゃ! 保険どころじゃなくて大本命にゃ!」
大騒ぎし始めたのはルーナ、アリューシャ、リン。
他のメンバーは呆れているようだった。
「トール様ですものね」
「トールだからなぁ」
「トールですし」
「トールだからしょうがないよ」
なんだよその、諦めは。
まるで俺に常識がないみたいじゃないか。
やめろ、ジト目で見るな。
とりあえずステータスを開いてみる。
Lv 3000
名前 トール・エイバン
年齢 25歳
性別 男
種族 龍人
ジョブ
戦士
竜騎士
テイムマスター
模倣師
グランドシーフ
コピー・勇者
スキル
ダメージ軽減【Lv50】
肉体強化【Lv50】
経験値貯蓄【修復中】
魔力貯蓄【Lv48】
スキル経験値貯蓄【Lv41】
ジョブ貯蓄【Lv41】
スキル貯蓄【Lv1】
スキル効果UP【Lv50】
経験値倍加・全体【Lv50】
魔力貸借【Lv50】
スキル経験値倍加・全体【Lv38】
竜眼【Lv38】
使役メガブースト【Lv38】
ジョブコピー【Lv31】
超万能キー【Lv-】
権限
Lv5ダンジョン×1 使用中
うーん、どんどん化け物じみてくるな。
本気で気軽に力を振るえなくなってきた。
少なくとも、まともに扱えるまで慣らしは必要だな。
というか、できればリサとの戦いの前に壊れてもらいたかった。
そうすればもっと余裕で倒せたのに。
まぁ、スキルに文句を言っても仕方ないのだが。
「ご主人様」
カエデにフォークで肉を差し出される。
彼女はなぜか恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。
「あの、ですね……あ~ん、をしてください」
「な、んだと?」
「奴隷として、お世話がしたくて」
ごくり、唾を飲み込む。
正直に言おう。あ~んはやったことがない。
ある程度の経験がある俺だが、これは初体験だ。
緊張して心臓が激しく鼓動する。
「あ、あ~んむっ」
「ご主人様が私の手から!」
ジューシーな鶏肉が美味。
心なしかその味はより一層、価値のあるものに感じられた。
なんだろう、このこみ上げてくる喜びは。
そこで、はっとする。
ずらりと並んだ鶏肉。
メンバー全員が笑顔で肉を俺に差し出していた。
「カエデさんだけ特別扱いはよろしくないですわよ? トール様?」
「……はい」
その後、俺はひたすら肉を食べ続けた。
「サンキューな、みんな。すごく楽できたよ」
「いえ、その分お野菜を沢山いただきましたので」
畑からの帰り道。
俺達は大量の野菜を抱えていた。
これだけあればしばらくは食材に困らないだろう。
「ぱくぱくー!」
塩を振りかけたキュウリなんて最高だ。
トマトも新鮮でサラダにすると美味いだろうな。
「ぱくぱくー!」
どこからか聞き覚えのある声がする。
「あの声は、サメ子さんではないでしょうか」
「やけに声が切ないわね」
小川に寄って見れば、サメ子は網に入れられ子供達に捕まっていた。
好奇心旺盛な子供達には、ピンクのサメは遊び道具にしか見えなかったようだ。
ルーナが駆け寄り解放するように声をかける。
だが、まだ遊び足りないのか子供達は首を横に振った。
ルーナは子供達に銅貨を渡し、無事サメ子の身柄は引き渡される。
「ぱくぱく~」
「よしよし、怖かったな」
サメ子は俺の腕の中で服をはむはむした。
相手が子供なので抵抗しなかったのだろう。
小川と言ってもそこそこ水深はあるし、大丈夫だろうと考えたのだが、子供達の好奇心と行動力を舐めていたようだ。
今日は桶に入れて、近くに置くとしよう。
◇
翌日、アリューシャが妙なことを言い出した。
「森へ精霊を探しに行きたい。同行してくれ」
「精霊ねぇ、ふわぁ」
「あくびをするな! 真剣に話をしているのだぞ!」
そうはいってもまだ日が昇ったばかりだ。
昨夜はメンバーと夜遅くまで話をしていたし、それから筋トレに剣の訓練なんかして、結局寝たのは朝方なんだ。
たたき起こされなければ昼近くまで寝ていたはずだ。
カエデが淹れてくれたコーヒーをすする。
「落ち着いてくださいアリューシャさん、ご主人様はまだ断るとはおっしゃっていませんよ。それよりもきちんとした説明をしていただかないと」
「ぐぅう、ぐぅうう」
「それもそうだな。つい返事を急いでしまった」
アリューシャは再び椅子に腰を下ろす。
テーブルの上では、パン太を布団代わりにして眠るフラウがいた。
涎をたらされてパン太は迷惑そうだ。
クッキーを持ってきたカエデが席に着く。
「で、なんで精霊を探しているんだ」
「実はだな……この機会に新しい精霊と契約を結びたいと考えているのだ。知らないと思うので言うが、精霊に力を借りるには相性が重要だ。この相性で力をどこまで引き出せるかが決まる」
彼女が言うには、精霊とは取引をして協力をしてもらっているそうだ。
精霊からは魔法を。
アリューシャからは生命力を。
そして、ここに相性が加わるらしい。
相性が良ければ精霊はより大きな力を行使できるそうだ。
さらに言えば成長速度も上がるのだとか。
精霊がエルフに力を貸すのは、つまりは生命力と成長を目的としているからである。
「今のわたしなら、他の精霊でも使役することができる。しかし里には、契約を結ぶほど相性の良い精霊がいなかった。だからここでその精霊を見つけたいのだ」
「話は分かった。いいさ、付き合ってやるよ」
「トール殿! そう言ってくれると信じていた!」
アリューシャは喜びの表情で長い耳をぴこぴこさせる。
森に行くなら、ちょうど良かった。
実はネイの親父さんに、この辺りを荒らしている魔物を、退治してもらいたいとお願いされていたんだ。
ついでにはなるが、彼女の精霊探しもできるだろう。
「ちなみになんで俺なんだ。一人でも行けただろう」
「エルフと言えど、見知らぬ森に入るのは危険だ。それとトール殿は、精霊を見ることができる竜眼を有している。感じることしかできないわたしでは、その精霊がどのような属性なのか使うまで分からない」
「へぇ、エルフでも森で迷うんだな」
「馬鹿にするな。エルフだって遭難はする」
アリューシャの大きな声に、フラウが「ふぇ?」と目を覚ました。
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