69話 戦士、裸で飛び出す
突如、フラウが光に包まれた。
まさか種族の変化か!?
俺にも起きたことがフラウにも!??
光が収束し、人の形へとなる。
だが、その大きさはフェアリーの何倍もあった。
光が収まりフラウが姿を現わす。
「――なにこれ、なにがおきたのよ」
「フラウ、お前」
フラウは身長はそこまで高くないものの、どこからどう見てもヒューマンの姿をしていた。
だがしかし、その背中にはフェアリーの証である羽がある。
……というか素っ裸なのをまずどうにかしてくれ。目のやり場に困る。
「ダメですご主人様!」
「うわっ」
だから遅いって。
今頃目を隠したって。
モロに見ちゃったよ。
「フラウさん、早く何か着てください!」
「そ、そそ、そうね! 服、服!」
がさごそリュックを漁る。
「フラウちゃん、これなんかいいんじゃない」
「ルーナの服じゃない」
「でもサイズぴったりだよ」
「あ、ほんとだ。ちっ、胸はすかすかだわ」
フラウの舌打ちが聞こえる。
布ズレの音が聞こえてなんだか興奮する。
元々フラウは美少女だったからなぁ、ヒューマンサイズになってよけいにその容姿の良さが分かるようになった。
「いいわよ、主様」
女の子らしい可愛らしい格好をしていた。
しかし、なんでまた急に大きくなったのだろうか。
俺と同じで肉体を維持できないとかで、再構築したのだと思うが。
「今の種族は?」
「ハイフェアリーね。多分だけどレベル300に達したことが原因だと思うわ」
「カエデのレベルは?」
「315です」
ビーストと比べると、ヒューマンやフェアリーの身体能力は数段劣る。
カエデに変化が起きないのは、最初から力を維持するだけの肉体を有しているからなのだろう。
じゃあヒューマンはレベル300になると、漏れなく龍人になるのだろうか?
それともハイエルフやハイフェアリーのように、ハイヒューマンになったりしないのだろうか?
なにか条件があるのか。
うーん、誰か説明してくれ。
「大きくなったのはいいけど、なんだか変な感じね。主様やカエデがフラウサイズだ」
「お前が大きくなったんだ。けど、その大きさだと里には帰れないな」
「なんで? フラウ、大きくなっても気にしない――ぬぐわぁ!?」
しゅるん、とフラウが一気に縮んだ。
着ていた服がぱさりと落ちる。
中から裸のフラウがもそもそ顔を出した。
どうなってんだ、ほんと。
フェアリーは謎が多すぎる。
「あは、あははは! みてよ、自分で大っきくなれる!」
再びフラウのサイズがヒューマンサイズになる。
「だめです!」
「うわっ」
カエデが反応して目を隠す。さすがに二度目となると速い。
ハイフェアリーって大きくなったり縮んだりできるのか。
なんだか羨ましいな。龍人にもそんな力ないのか。
再び服を着たフラウは、ぴょんぴょん跳びはねて嬉しそうだ。
黄緑色のツインテールが踊っている。
彼女はすぐにきりっと表情を引き締めた。
「フラウの時代が来たわね」
「もう行くぞ」
「待って、もっと喜んでよ主様!」
付いてくるフラウはずっとニコニコしていた。
◇
街に戻った俺達はルーナと別れ、服屋へと立ち寄った。
もちろんフラウの新しい服を買う為である。
「これもいいかも。あ、でもこっちもいい」
「フラウさんは可愛いですから、こっちの方がいいんじゃないでしょうか」
「それ、いいわね! カエデセンスいいわ!」
長い。かれこれ一時間以上は店にいるぞ。
別にいくらでも待ってもいいんだが、客の目がなかなか痛い。
女性専門の服屋は男には居心地が悪すぎる。
ヒューマンサイズのフラウが俺の前に立った。
「じゃーん、どう?」
「いいんじゃないか。よく似合ってて可愛いぞ」
「えへぇ」
フラウの新しい服は、可愛らしくも動きやすさを重視した格好だった。
短めのひらひらが付いたスカートが目をひく。
それから武具屋に行って防具を一通り購入。
帰り道に三人揃って大衆浴場へと向かう。
「きゅう!」
刻印からパン太が出てきて宙を舞う。
ダンジョンではずっと仕舞っていたから、少し不機嫌だ。
パン太はすぐに周囲を見回しフラウを探す。
「きゅう?」
「どこ見てるのよ。ここにいるでしょ」
パン太の目が下から上へと移動する。
そして、それがフラウだと分かった瞬間、大きな目がうるうると潤み始めた。
「きゅうぅううう!」
「よしよし」
カエデの胸の中へ飛び込んで泣く。
自分よりも大きくなったことにショックを受けたらしい。
同サイズの友人が消えてしまったと思ったのだろう。
ぱさっ。服が落ちて小さいフラウが出てくる。
「ふっ、白パンには可哀想だけどこれが現実よ。今のフラウは大きくもなれるし小さくもなれるの」
「…………」
それを見たパン太は嬉しそうに寄っていって体を擦り付ける。
「なによあんた、フラウが大きくなれるのはどうでもいいわけね」
「きゅう」
「ま、いっか。白パンで寝られなくなるのはフラウも嫌だし」
「きゅう!」
「なんで怒ってんのよ」
フラウの服を拾ったカエデは、すぐにフェアリーサイズの服を取り出して渡す。
それから脱ぎ捨てた服をリュックにしまった。
いちいち服を替えないといけないのは面倒ではあるが、能力がヒューマン並み、もしくはそれ以上になったのは喜ばしいことだ。贅沢を言えば服も自由にサイズが変わればいいのだが、遺物でもない限りそこらでは手に入らないだろう。
「これは奇遇だな」
「げ」
桶を脇に抱えたグレイフィールド王と出会う。
しかも隣には先ほど別れたルーナがいた。
「はろー、すぐに再会したね」
「どうせ狙って来たんだろ」
「ばれたかー」
二人は俺達を大衆浴場へと誘う。
ほんと、ここの住人は風呂が好きだな。
けど俺もちょうど入りたいと思ってたところなんだよ。
大人しく誘いに乗るか。
「ぶはぁぁあああっ」
湯上がりからの冷たいミルク、最高だ。
これを考えた奴は天才だな。
隣では素っ裸で腰に手を当てる国王が、ミルクを飲み干す。
「くふぅ、湯上がりはこれに限る」
「やけに美味いミルクだが、近くに牧場でもあるのか」
「ある。そして、そこで飼われている乳牛は、ミルクで有名なあのパッタン村で育てられた一級品だ」
「あー、あの村ね」
エルフの里の近くにある村だったよな。
やけにミルクが美味しくて、ついチーズやらヨーグルトやら土産物を購入してしまった観光名所。
そうか、あそこの牛のミルクなら納得だ。
「で、戦力アップは達成できたのか」
「なんとかまともに戦えるくらいにはな。できればダンジョンの最下層まで行きたかったけど、お姫様を長期間連れ歩くのもどうかと思って引き返してきた」
「すまないな。我が娘が足を引っ張ってしまったようだ」
「いやいや、そんなことはない! ルーナはよくやってくれたよ!」
暗い顔をする国王にすかさずフォローを入れた。
実際、ルーナは役立ってくれた。
慣れないダンジョンでも一生懸命に付いてきてくれたし、雑用や見張りも率先してやってくれたんだ。
あの陰鬱としたダンジョンで明るさを保てたのは、ムードを盛り上げてくれるルーナがいたおかげでもある。
カエデやフラウだってそう思っているはずだ。
国王は脱衣所に置いてあった椅子に腰を下ろした。
「言っておかなければならないことがある。昨日だが、正式に漫遊旅団がアルマン所属の勇者として認可された。近いうちにアルマンより使者が来るだろう」
「とうとう決まったのか」
彼は静かに頷き、棚の籠から新しいミルクの入った瓶を取る。
「んぐっ、称号授与はこちらで行う予定だ。簡易の式になるが構わないな?」
「問題ない。むしろ無駄に顔を見せなくて助かるよ」
「ふっ、貴公は変わっているな。普通は派手にしたがるものなのだが」
「そうか?」
タオルで頭を拭きつつ返事をする。
憧れと現実って違うものだろ?
英雄や勇者なんて他人だからカッコいいし憧れるんだよ。
実際は目立ちまくって碌な事がないに決まってる。
死んだ母さんが常々『トール、貴方はできるだけ目立たずに生きなさい』って言ってたしな。
穏便に楽しく生きられるのが一番だ。
俺には重い責任を正面から受け止める強さなんてないんだよ。
ずずん。
突然、建物が激しく揺れる。
「なんだ!?」
「外が騒がしい!」
国王と一緒に外へと飛び出す。
「これは!!」
火の海と化す街。
ばさっ。
上空から黒い塊が飛来し、風を巻き起こして着地する。
「ははははっ! トール! こんなところにいたのか!」
黒いワイバーンにまたがるセインが俺を嗤っていた。
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