9話 戦士は本能と戦う
光を反射するほどの艶やかな白髪とぴんと立った狐耳。
凹凸のはっきりしたボディには真っ白なシーツが巻かれている。
引き締まったウェストと形の良いお尻からは、長く柔らかそうな白い尻尾が生えていた。
瞬きをする度に白く長いまつげが揺れ、金色の眼が不安そうに俺を見ている。
「カエデ……だよな?」
「はい」
「その姿はどうした」
「起きたらこうなってました」
ひとまず状況を整理しよう。
間違いなく昨日までは小さくて可愛い少女だった。
次の日の朝になると絶世の美女になっていたと。
だめだ。さっぱり理解ができない。
どう考えても普通じゃないだろ。
「あの、もしかしたら急激なレベルアップが原因なのかも」
「どういうことだ」
「子供が二十を超えるレベルアップを果たすと、肉体のバランスを取る為に、一夜の内に急激に成長すると聞いたことがあります」
肉体のバランスか……あり得なくはない。
それに俺も急激なレベルアップで種族が変わったくらいだしな。
力を最大限発揮する為に、肉体が最適化したと考えるのは充分ありえる。
しかし、まさか一夜で大人になってしまうとは想定外だった。
おまけにヤバいくらいの美人だし。
もう子供だからとか、なんて笑いながらあしらえない気がする。
間違いなく本気で迫られたら落ちる自信がある。
「とりあえず服を着ろ! なんで裸なんだよ!」
「それが……」
彼女はびりびりに破けた服をつまみ上げる。
あー。そうですよね。
そうなるのが普通ですよね。
仕方がない。すぐに服屋に行って購入するか。
俺はベッドから下りてリュックから服を取り出す。
「これを着ろ」
「ご主人様の服を!?」
「驚くことはないだろ」
「ごくり」
喉を鳴らして彼女は受け取る。
それから顔を埋めて匂いを嗅いだ。
「ごひゅひんひゃまのひおい」
「大丈夫か?」
惚けた顔で尻尾を揺らす。
そんなに嗅がれると恥ずかしいな。
できれば早く着てもらいたいのだが。
俺は後ろを向いて彼女が服を着るのを待つ。
「こちらを向いても構いませんよ」
振り返ると、袖から手が出ないぶかぶか状態のカエデがいた。
しかも形の良い大きな胸が服を押し上げていて、視覚的破壊力は抜群だ。
走り出そうとする本能と押さえ込もうとする理性が、激しい取っ組み合いの喧嘩を始める。
見事勝利を収めたのは理性だった。危ない危ない。
視覚的興奮を少しでも抑える為に、彼女にはしっかりズボンを穿かせ、上からフード付きの外套を羽織ってもらった。
そして、カエデを連れて宿を出た。
◇
結果を言えば無事にカエデは、身の丈に合った服を手に入れた。
ただし、店のおばさんにめちゃくちゃ怒られたが。
なんせ早朝のまだ開いていない時間に店の入り口を叩いたのだ。
おばさんをたたき起こす形となり、事情を説明してなんとか下着と服などに手を入れてもらい購入したのである。
ほら、尻尾があるから穴を開けてもらわないといけないし。
装備を一新させたカエデが俺の前でくるりと回る。
どこからどう見ても大人の女性冒険者だ。
短いスカートがふわりと浮き上がる度に目をひかれてしまう。
「どうでしょうかご主人様!」
「よく似合っている」
「えへへ」
恥ずかしそうに顔を赤くする姿は、以前のカエデを思い出させてくれる。
成長しても中身は変わってないんだよな。
ちなみにカエデには新たな鉄扇を与えている。
昨日の戦い振りを見た限り、二つでも扱えそうな気がしたのだ。
これで彼女の攻撃回数は二回となる。
ますます強力な魔法使いとなったカエデに隙はない。
「あんな美人この街にいたか?」
「すごく綺麗な人」
「俺もあんな奴隷が欲しい」
周囲からはカエデの美貌を称える声が聞こえる。
道行く男性は揃って振り返り、女性でさえも羨望のまなざしで視線を注ぐ。
彼女の首には奴隷の証である首輪がはめられているのだが、それすらもカエデの美しさを引き立てる道具と化している。
もし傾国の美女がいるとしたら彼女のことだろう。
「ご主人様の為に今日も沢山稼ぎますね!」
「いや、稼ぎの方は気にしなくていい。ドラゴン討伐で金はあるからな。それよりお前のレベルアップを優先しよう。その為に食料と水を買い込んだんだ」
「ごしゅじんさまぁ~」
カエデは眼を潤ませた。
昨日は我慢をさせてしまったからな、今日はめいいっぱい暴れさせてやりたい。
彼女が強くなればその分、俺が楽できるんだ。
好きなだけレベルアップさせてやろう。
◇
四階層に到達、ここからは少し難易度が上がる。
出現する魔物が格段に強くなったのだ。
だが、成長したカエデの前では雑魚も同然だった。
「エアリアルバースト!」
二枚の鉄扇によって発生した突風が敵を吹き飛ばす。
すかさず彼女は氷結魔法で仕留めてしまう。
現在のレベルは五十。
四階層の適正レベルは十五なのでまったくもって苦戦しない。
暇すぎて思わずあくびをしてしまうほどだ。
「お疲れになりましたか?」
「あ、いや、今朝はどたばたしていつもの時間まで寝られなかったからさ。少しだけ眠いんだ」
「それでは私が膝枕をいたしますので、どうぞお休みなってください!」
先ほど倒したスケルトンの残骸を、魔法でまとめて吹き飛ばし通路に空間を作る。
それから適当な布を敷くと、彼女は座って俺を待っていた。
嬉しそうな顔を見ると断りづらい。
「じゃあ少しだけ」
「はい」
横になって彼女の太ももに頭を乗せる。
甘い香りと後頭部の柔らかい感触ですぐに瞼が重くなる。
ヤバい、いつもより眠れそうだ……。
ぱちっと目が覚める。
恐ろしく目覚めは爽快だ。
どれくらい眠っていたのだろうか。
「お目覚めになりましたかご主人様」
「ありがと、よく眠れ――へ?」
俺達のいる周囲にスケルトンの残骸が山積みとなっていた。
総数は分からないが、二十やそこらではないはず。
カエデを見れば幸せそうにニコニコしている。
「あれは?」
「ご主人様が寝ている間に襲ってきたので片付けました」
「そ、そうか」
彼女は立ち上がって尻尾で俺の体を軽く払う。
体に当たるとふわふわして気持ちよかった。
なんだろう、この妙なすっきり感は。
彼女の膝で寝ると心が洗濯されたような気がする。
賢者モードとは似て非なる、聖人モードと言うべき心の穏やかさだ。
もしかすると彼女にはなにか特別な力でもあるのだろうか。
考えてみればステータスもまともに聞いていない。
「え? ステータスですか?」
「見せたくないのなら構わない。少し気になってな」
「私はご主人様の所有物です。喜んでお見せいたします」
カエデはステータス画面を出現させ、俺へと向けた。
Lv 50
名前 カエデ・タマモ
年齢 15歳
性別 女
種族 白狐
ジョブ 魔法使い(奴隷)
スキル
鑑定【Lv7】
詠唱省略【Lv4】
命中補正【Lv6】
威力増大【Lv3】
癒やしの波動【Lv9】
たぶん【癒やしの波動】ってスキルが原因だろう。
しかし、なかなか規格外のスキルだな。
魔法使いなら喉から手が出るほど欲しがるスキルばかりだ。
特にこの【威力増大】は、歴史に残るような有名な魔法使いなら、持ってて当たり前のレアスキルだ。
この子は大物になるに違いない。
「鑑定ってのは他人のスキルも見られるのか?」
「レベルによります。まだレアスキルは見られないですね」
ふむ、だとすると貯蓄系スキルはまだ正体不明のままか。
できれば確認したかったんだが。
まぁ、効果は大体把握しているので、わざわざ調べなくてもいいのかもしれないが。
「まだ潜るだろ?」
「はい。ご主人様がよろしいのなら」
「物資はまだ充分にある。心配するな」
俺達は五階層を目指した。
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