第7話
由希が告白宣言をした日から、克則は毎日ドキドキの帰り道を過ごしていた。いつ、どのタイミングで由希が話を切り出すのか分からないので、克則の精神は並の状態ではない。
それこそ毎日生きている心地がしないまであった。
しかし、今日で一学期最後の登校日。由希は最後のチャンスの帰り道でも告白の気配を感じさせず、家に到着してしまった。
結局、告白しないのかい! 俺のドキドキを返せ!
なんてどこか安心している自分と、むかむかする自分が混ざり合う。
由希の様子はというと、たぶん平然を装っているのだろう。普段のように接してくれるが、帰り道になると口数は極端に減っていた。
だが、これで帰り道に告白するという作戦は失敗に終わった。きっと今晩、由希から恋愛相談があるだろうと思い、ひとまず克則も普段通りに過ごしていく。
夕飯を食べる。お風呂に入る。夏休みの課題をやる。ギャルゲーを進める。一応受験生なので、さらに自己学習にも取り組む。ギャルゲーを進める。適当にダラダラと過ごす。ギャルゲーを進める。
とっくに夜中の一時を回っているが、由希が部屋の扉を叩くことはなかった。
***
ああ、今日も結局告白ができなかった。
今日こそは、と毎回思いながらも、いざその時になると緊張で言葉が出なくなる。
きっとお兄ちゃんも意気地なしの妹だって呆れているだろう。
「はぁー……、どうしよ」
ふと机の上のアナログ時計を見た。短針は三時を過ぎている。
きっとお兄ちゃんは今頃寝ているだろう。
特に何か考えての行動ではないが、由希は克則の部屋に向かった。いつも鍵はかけていないので、簡単に中に入れてしまう。
そして予想通り、克則はベッドで横になり眠っていた。
「お兄ちゃん」
「……」
返事は勿論ない。
じゃあ、今なら――。
「お兄ちゃん……好きだよ。私と恋人になってほしいな」
――なんてね。
「……なんで今このタイミングなんだよ」
「え⁉ お、起きてたの⁉」
「寝付けなかっただけだ」
そう言って克則はのそっと体を起こした。
「嘘でしょ! なんで寝てないの! 卑怯者! 詐欺師! 変態! 私、告白しちゃったじゃん……」
「知らんわ! 俺に文句言うな。ったく……」
ぼりぼりと頭を掻いて、リモコンで部屋の明かりをつける。
すると、そこにはまるで既にフラれた後のような表情をする由希の姿を視認できた。
なんとも気まずい空気ではあるが、ここまで聞いてしまったらもう後戻りはできない。この際だから克則はずっと気になっていたことを訊ねる。
「なぁ、訊いてもいいか? なんで俺のことが好きなんだ? 確かに兄貴だし、好かれているのは分かっていたけどさ……その異性としてってのが実感できなくて」
由希は少し迷った様子を見せるが、すぐに首を縦に振った。
「いいよ。教えてあげる」
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