第6話
「あ、お兄ちゃん。少しだけ練習してもいい?」
「は?」
練習をするだと? 果たしてそれは意味があるのだろうか?
だってそれでは、もはや練習ではなく本番になってしまう。
しかし由希は既に切り替えて、相談者から兄に恋する乙女へと変身する。
「じゃあ、いくね?」
小さな咳払いを挟んで、由希は真っ直ぐに克則を見つめる。
くりんとした大きな瞳だ。こうしてしっかりと由希の眼を見たことはない。ほのかに頬も紅潮しているのがわかる。
「……ッン」
克則の方も変に緊張してしまい、ゴクリと唾を飲む。
そういえば、俺も女子に告白されるとか今までなかったな。ゲームでは何百回とされているが、まさか練習とは言え、初めてが妹になるとは……これなんていうギャルゲー?
由希は何度も口をパクパクと動かすが、肝心の声が出ていない。喉の奥で詰まっているようで、最初の一文字が出るまでがすごく遠い。
そして次第に由希の瞳は潤んでいき、目尻に涙が溜まっていく。
「由希?」
心配になって声をかけた瞬間だった。バッと勢いよく立ち上がると、由希は克則の部屋を出ていき、自分の部屋に逃げていった。
「えーー……」
なに今の。まるで俺がフラれたみたいじゃん。
だが、克則の脳裏にも涙目の由希の顔が強く焼き付いている。
あんな表情をして逃げるなんて反則だろ!
だって、だって——不覚にも一瞬、ドキッと胸が高鳴ってしまった。
動揺が隠せない克則はそのままベッドの上に倒れて、目を閉じる。
嘘だろ? 俺が由希に……なんてありえないよな?
***
由希は自室に駆け込むと、そのままベッドにダイブした。
そして数秒前までの出来事を脳内で再生して、恥ずかしさに身悶える。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
枕を抱きしめて、言葉にならない声を洩らす。
あれが告白する時の、緊張と羞恥心。それを改めて実感して、分かった。告白は難しい。でも同時に、お兄ちゃんのことが本当に好きなんだとも思い知った。
私はお兄ちゃんが好き。愛してる。だから告白もきちんとする。
本番では絶対に気持ちを伝える。
たとえそれが叶うことのない恋の結末になっても。
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