第5話

 七月に入り、じめとじめとした梅雨が明け、いよいよ夏の本番を迎えているようながする今日この頃。

 由希からの恋愛相談は未だに続き、そろそろ一ヶ月が経とうとしていた。


「お兄ちゃん! 今日も恋愛相談聞いて!」


 由希は前よりも躊躇いなく克則に自分の気持ちや悩みを打ち明けるようになっていた。それが果たして良いことなのか、悪いことなのかは分からない。

 だが、こうして由希にとって笑顔で過ごせる日々が送れていることは、少なくとも克則にとって前向きなことであった。

 だから今日もこうして克則は由希の恋愛相談を聞くのだ。


「今日はどうした?」

「最近、私いろいろと頑張ってるでしょ。登下校は一緒だし、お昼も週三で一緒だし、他にも一緒にお出かけもしたし——」


 確かに、由希は克則のアドバイスをそのまま行動に起こしている。

 しかし登下校は小中の延長線だし、お昼も休日の親のいない感じで二人で食べているだけであり、外出も特別に由希を意識しているわけではなく普通のお出かけという印象だ。


「そろそろお兄ちゃんも私のことを女の子として、意識してきたと思うの」

「随分と自信過剰だな」

「でねでね、私、そろそろ……告白しようと思うんだけど」


 おぉおっと? これは随分と予想外な相談が出てしまった。


 克則は神妙な表情で腕を組む。


「私、告白とかしたことないし、どういう感じでしたらいいのかな?」

「まず、ちょっと待て。気が早いとは思わないか? 告白はかなり重要なイベントだぞ? フラれたら立ち直るまでかなり大変だぞ?」

「うん、分かってる。大丈夫」


 本当に大丈夫か? ていうかお前の頭が大丈夫か? お兄ちゃん、割とガチで困ってるぞ?

 なんせその告白相手は目の前で冷や汗をかいている自分なのだから。


「お兄ちゃんもちゃんと考えてね。大事な告白なんだから」


 お、おう……。

 めっちゃ複雑な気持ちだ。これ提案したら自分に返ってくるんだよな……。


 しかし、これまでもそこは深く考えずに由希の相談に乗ってきた。あくまで今は由希にとって唯一の相談相手なのだ。


「で、やっぱり無難に誰もいない場所に呼び出して気持ちを伝えるほうがいいかな? ラブレターとかは古いよね」


 由希はいつも通り真剣に考えている。


「そうだな。やっぱり気持ちは直接言葉で伝えた方がいいと思う」

「だよね。じゃあ、問題は場所とタイミングかな」

「んー」

「誰にも邪魔されなくて、二人きりになれる場所……」


 んー。家じゃね?

 なんて思ってしまう。ここなら親は仕事ですぐ帰ってこないし、二人きりで邪魔されない。しかし、それでは由希はムードがないと言って反対しそうだ。


「帰り道にお前のタイミングで告ればいいんじゃないか?」

「それでいいの?」

「お前だって、その時になったら緊張くらいするだろ。だったら帰り道中に気持ちの整理をして、自分のタイミングで告った方がいいと思うけどな」

「分かった! ありがとっ、お兄ちゃん!」


 これで近々告白されることが決定してしまった克則である。帰り道は要注意だ。

 今日の相談はもう終わりかと思いきや、由希はまだ何かあるようで言葉を続ける。


「あ、お兄ちゃん。少しだけ練習してもいい?」

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