第4話
克則のお昼は大抵、購買で適当な弁当やパンを買って教室で食べるか、数少ない友人がいないときは誰もいない部室で食べたりする。
しかし、今日は友の誘いを断り、先約である由希とのランチを優先させた。
場所は克則の所属する新聞部である。新聞部はその名の通り、校内新聞の作成を日々の活動としている超絶不人気の部活である。その為、部員も克則を含め、後輩一人の計二人しかない。だが、学校側も貴重な掲示物である校内新聞を無くすことは出来ず、廃部にもならない珍しい部でもあった。
鍵は部長である克則が所持しているので、一足先に部室を開ける。そして酷く散らかった机上に目を移す。
普段なら気にはしないのだが、これから由希も来るので多少は片づけた方がいいだろう、とせっせと大雑把に整理し始めるが、間もなくして予定よりかなり早く由希がやって来てしまった。
「お兄ちゃん、入ってもいい?」
「おう、汚いけど好きに使っていいぞ」
由希はちょこんと空いている椅子に座ると、未だに片付けをしている克則と部室全体を見渡す。
実は新聞部の部室に来たのは初めてなのである。もちろん好意を持つ兄の作る新聞を毎回チェックしている由希だったが、ここでいつも頑張って作っているのだと思うと少し緊張すら覚える。
「わりぃ、待たせたな」
「ううん。じゃ、食べよ」
そう言って由希は家で作ってきた弁当を広げた。数は二つ。克則の分でもある。初めから二人で食べようと思って、朝から早起きして作っていたらしい。
「手作り弁当を二人で食べるのって、なんかいいよね」
「そうか? 家じゃ時々二人で食べるじゃねーか」
「家と学校じゃ違うの! それぐらい分かってよね、バカお兄ちゃん!」
分かってたまるか、と思ってしまう。
「恋愛相談、いい?」
「モグモグ……なに?」
「付き合ってもいないのに、こうやってお兄ちゃんの分のご飯作って、一緒に食べたりするのは……キモい?」
「別にキモいとは思わねーよ。でも、親切心じゃなくて、お前からの好意ってのが、なんともむず痒い感じはするがな」
「やっぱりお兄ちゃんが好きっておかしいのかな……」
そりゃ、おかしいわな。
でもそれを言ったら俺はここで殺される気しかしない。
「俺にも分からんが、よく考えてみろ? もしだ、もし仮に付き合えたとして、その後はどうするつもりなんだ?」
「うーんと……結婚する?」
「できるか!」
由希は俺より賢いと思っていたが、そうでもなかったらしい。
小さく嘆息する姿はまさに恋する乙女と言った感じに見える。その正体はただのブラコンがいきすぎた残念妹なのだが。
「はぁー。私、お兄ちゃんと付き合えるのかな」
おい、本人がいるのにそんなことを呟くな。
「さぁな。まぁ、でもお前の頑張りや悩んでいる姿は見てきてるから、そこはしっかり考慮してやるよ」
「じゃあ、付き合える可能性あり?」
「現状はほぼほぼ、なしだ」
「むぅーっ! じゃあ、お兄ちゃん。今夜もどうやったらお兄ちゃんが私を女の子として好きになるか恋愛相談だからね!」
「……はいはい」
果たしてその答えが見つかるか分からないが、それでも由希の頼みを断らないのが克則という兄である。
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