第2話

「私、お兄ちゃんのことが好き、なんだけど……どうすればいいかな?」


 そんな恋愛相談を受けたのは初めてのことだった。

 この件を一旦持ち帰りにしたい気持ちだったが、ここは家であり克則の自室である。逃げようにも逃げられない状況に早くも詰みを確信した。


「お兄ちゃん? 聞いてる?」

「ああ、聞いてるとも」

「私、お兄ちゃんが好きなの!」


 もう一度はっきりと告白する。しかしそう簡単に言葉を呑み込めない。


「っていう漫画を読んだのか?」

「ちがーう!」

「そういう罰ゲームがクラスで流行っているとか?」

「バカにしないでよ。私だって真剣に相談してるんだから!」


 確かに由希の眼は超本気だった。


「いや、どう考えても相談する相手、間違ってるだろ!」


 どこに好きな相手に恋愛相談する奴がいるんだよ……。


「じゃあ、友達にお兄ちゃんが好きなんだって相談できると思う? できるわけないじゃん!」


 こいつ、開き直りやがった。もはや、堂々としてやがる。


「だからお兄ちゃんに、お兄ちゃんが好きだって相談してるの!」

「なら、俺はどう答えりゃいいんだ?」

「……そ、そんなの私に訊かないでよ! 私が相談してるんだから」


 ふむ、確かにそうだな。

 では、ここは兄として、相談相手として、冷静に向き合わなくてはならない。

 一度、深呼吸を挟む。


「んで、まず、お前は兄が好きだと言ったな。お前自身は、どうしたいんだ? まずは最終目標を聞きたい」

「それは……もちろん付き合って、恋人になりたい」


 これは大きく出たな。兄妹で禁断の恋愛をしようってか?


「ゴールはわかった。じゃあ、その為に行動を起こさないといけない。ちゃんと相手の気を引くようなことだ。きっかけ作りでもいい」

「うん。何をすればお兄ちゃんを意識させられるかな?」

「うーん、そうだな……」


 なんで俺は俺の気を引くことを真剣考えているのだろうか、とツッコミたくなるが、それをしたら負けである。深くは考えないようにしよう。


「まずはきっかけからにしよう。登下校を一緒にしようって誘うのはどうだ?」

「わかった! ……お兄ちゃん、明日から一緒に学校行って、一緒に帰ろ?」


 ああ、そうだった。俺のことだったわ。深く考えなかったら、他人事のように相談に乗ってしまった。

 だが、中学の頃まではよく一緒に登校したものだ。別に高校生になっても構わないと思えた。


「まぁ、いいぞ」

「やったぁ!」


 素直に喜んでいる由希を見て、素直に喜べない克則。

 そうして一旦、由希の恋愛相談はお開きになり、翌朝を迎えることになった。

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