妹がバカ正直に兄が好きだと恋愛相談してきた
花枯
第1話
高校生活も三年目に突入した
毎日、学校へと通い、勉学に真面目に取り組み、部活動にも一生懸命、励む。家に帰れば、両親が用意してくれた温かいお風呂とご飯が待っている。
良く言えば、平穏な毎日。悪く言えば、普通過ぎる退屈な毎日。
しかし、最近になって少し気になることが生まれた。それが妹の
由希は二つ離れた妹で、今年から高校生になった。真新しく硬い制服に袖を通して通う姿には、期待と不安とが感じられたが、それも入学して一ヶ月ほどで慣れを漂わせる雰囲気に変わっていった。
きっと学校でも人間関係や勉学共に上手くやっているのだろう。
兄としては、そう安堵に心を緩めていたのだが……。異変は唐突にやってきたのだ。
家で由希と顔を合わせても浮かない表情を浮かべて目を逸らす。年頃なのか克則とも言葉を交わす頻度も減り、夕食時でも一人先に片付けて溜息を残して自室に去っていく。
そんな由希の姿をしばしば見かけることが多くなると、兄としては心配にならないわけがない。
グチグチと喧嘩はよくするものの、仲の良さで言えばかなり自信のある兄妹として、可愛い妹の悩みならば是非とも力になってあげたいものだが、由希も思春期の女の子だ。きっと家族とは言え、兄である俺でも言いづらい事もあるのだろう。
なんて一人で自己解釈していた克則は陰ながら「頑張れ」と声援を送り、今日も今日とて課題を済ませて、ギャルゲーに勤しんでいた。
ヘッドホンを伝って目の前の推しキャラが台詞を発する。
『にぃに、好き……。大好きだよ!』
「……ッ⁉︎」
思わず目を瞑って、ゲーム世界に自分を投影させる。
これだよ、これ! この台詞を聞くために俺は今日という日を生きてきたのだ!
幸福感と満足感に浸る克則は、何度もリピートでボイスを再生させる。良きストーリーに、最高のイラスト。内容のボリュームも登場するキャラたちも文句なし。これは間違いなく神ゲーと言えるだろう。
久しぶりに大当たりを引いたと実感した。
しかし、タイミング悪く扉をノックする音がヘッドホン越しに薄ら響いた。これが親だったら、悪いが無視するか、勉強中だから後にしてと言って追い返すかの二択だったのだが、意外なことに飛んできた声は妹の由希のものだった。
「お兄ちゃん……今、ちょっとだけいい?」
ギャルゲーの妹か、リアル妹かで少し迷いはしたが、ここはしっかりと後者を選択していく。
「どうした?」
扉を開けると、そこには部屋着姿の由希が佇んでいる。何か言いづらそうに言葉を探しながら、その口で綴る。
「えっと……その、お兄ちゃんに相談があって——」
「そっか。じゃあ、中でゆっくりと聞くよ」
と部屋の中へと通す。しっかりノートPCは閉じているので、ギャルゲーのプレイ歴は無に葬り去っている。
「んで、相談って?」
思い当たる節はいくつもある克則は、悩み相談どーんと来いと構える。
「その、言いづらいんだけど……恋愛、相談みたいな」
由希は耳まで真っ赤にして口にすると、ギリッと睨みつけるようにして克則の表情を窺う。
なるほど、恋の相談か。これは確かに恥ずかしい相談だ。その眼光は怖いが、ここで真剣に妹の重荷を背負ってやるのが俺の理想の兄貴像ってやつである。
「恋愛相談なら任せろ!」
なんせ人の心情はギャルゲーで常に理解と把握をしている。これまでどれだけ女の子を堕としてきたと思っているんだ?
「相手は同級生か?」
由希は首を横に振る。
「……年上」
聞き逃してしまいそうなほどの声でボソッと言う。
「二年か? それとも三年?」
「三年生」
ふむ、誰だろうか……。
克則が知る限りのモテそうな男子を脳内に絞る。
「名前は分かるか?」
コクッと小さく頷く。
そして次の瞬間、由希が克則を指差しながら続けた。
「私、お兄ちゃんのことが好き、なんだけど……どうすればいいかな?」
「……」
由希が俺のことを好き? んー、これはどうすればいいんだ?
思考が止まり、ゲームのロード中のように固まった克則は暫し現実逃避を図った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます