神様と魔王様(side:リュー)
賑やかな大通り。大半が身に付けているのは紐飾りが多く用いられた襟の広い、鮮やかな色のチュニックに、緩い短めの生成りのパンツ。背や腰に備え付けた武具は珍しくなくて、中には鎧姿まで見受けられる、異国情緒溢れる商店街。
というか、ここは本当に異国だったりする。
なぜこんなところにいるのかって?
リドルとクロノと約束したダンジョン探索のために、仲間を探しにきたからだ。
エリストラーダ王国から遠く海を挟んだ別大陸にあるこの国には魔窟が多く、冒険者もメジャーな職業らしい。特に大きな魔窟の近くのこの町は、多くの旅人で賑わっている。まさに、ハイファンタジーの世界だ。
そんな町に出かけるのももう数度目、なかなか仲間は見つからない。
なぜかというと、ついつい物珍しくて気づけば観光に変わってしまうから。同行者はリドルとクロノである。真面目に目的を達成しようというよりは、この冒険ごっこを楽しんでいる奴らだ。俺が流されてしまえば誰も軌道修正しようとしない。
でもさ、こんなの流されるに決まってるだろ!!
今日もこの地方の食べ物らしい、ナンみたいなパンに色々な具材が挟まったもの珍しい食べ物を屋台で買って食べ歩きながら、冒険者が集うような場所をふらふらと見て歩いている。このRPGの世界に入り込んだような光景を見ているだけで楽しい。
「このパンおいしー。なんだろ、サルサソースっぽい?ジャンクフードの味がする!ハンバーガーチェーン店の新作でもいけるねっ。」
今日は少女の格好のリドルは、もごもごと咀嚼に忙しい頬袋を携えて器用に喋る。ジャンクフード好きの妖精もどうかと思うけど、知ってしまうと忘れられないよな、ファストフードって。
クロノはこんな風に一緒に出かけて遊ぶ(本当は仲間探しだけど)のが楽しいらしく、にこにこしながらパンをかじっている。
日照りの中で随分と歩いたし、食べながら歩くのもなんだからと、少し休憩して広い公園の噴水の脇のベンチに座る。
気分は休日の午後。ぽかぽかと明るい陽光の中で涼しげにしぶきをあげる噴水。陰を作る木々が風にざわめき、地面に映る枝や葉っぱが揺れる。
「なかなか見つからないよな。」
パンを食べ終えて伸びをしながら、開放的な気分のまま呟く。
「そうだね。ここら辺の冒険者は、生活の元手を稼ぐような専門的な人ばかりだから、僕たちみたいに、たまに一緒にっていうのが難しそうだね。」
今日は少年の姿のクロノが、ベンチに後ろ手をついて空を仰ぎながら答える。さらさらと銀の髪が風になびいて揺れる。
友達と学校帰りに寄り道してだべっている、あの緩い感覚。懐かしいそんな雰囲気を思い出した。
「なあ、クロノ。この世界にも魔王っているのか?」
目の前の町並みはファンタジーで、ダンジョン目当ての冒険者であふれている
。エリストラーダとはまた違った世界が広がっていて、ここはまた別のゲームなんじゃないかとすら思えて、俺はクロノに尋ねた。ほんの軽い気持ちで、友達とどうでもいいことを話している感じで。
クロノはなんの気概もなさそうに答える。
「うん、いるよ。今代の魔王は世界征服とかする気がなさそうだけどね。ほら、さっきパンの屋台ですれ違ったけれどね。」
…………………。
俺たちは、魔王とすれ違っていたらしい。
神様視点って凡人には理解できないよな。
「えー、あのこっわい二人?ヤバい魔力が渦巻いてたよねー。」
妖精は、気づいていたらしい。
「うん、でも人間が何もしなかったら、多分敵対はしないよ。一緒にいたのは竜神だけれど、お互い以外は興味がないみたい。でも、どちらかに何かあれば、世界を破壊する勢いで敵対しちゃうだろうから、誰も手を出さないといいね。」
クロノ……なんだそれ、悠長に言ってていいのか?いいねじゃなくてそこはなんとかしないのか?ってか、ヤバすぎだろそれ。
「魔王と竜神のカップル?それ既に人間じゃ勝てなくない?」
なんか色々理解が追い付かないけど、口元が引きつったままとりあえずツッコんでみる。クロノは世間話のていのまま答える。
「うーん、つがいに近い感じ?詳しくは知らないけど。僕、トイレと閨は覗かないように昔神子に説得されたから。」
いや、生々しい話はいらないけどな!
「まあ、簡単には勝てないだろうね。少なくても直接喧嘩を売った人たちは報復をうけると思うよ。魔王の魂はもう還りたがってるから、放っておけばこの世界から魔王は消えると思うんだけど。」
クロノは俺を見て、ちょっと眉をひそめて思案して語る。
「魔王は、昔人間だったんだけれど、人に命を奪われかけて、知性ある魔物に助けられて。蘇生のために注がれた魔力が、魔力結晶を作ってね、強い怨嗟と交じって神格が生まれてしまった。
放っておいたらこの世界が壊されてしまうかもしれないから、僕は彼が魔王という輪廻をたどるように神格を弄くってみたんだけれど。
もう人を恨む気持ちも世界を破壊したい気持ちもないみたいだから、解放されていいんじゃないかなって思うんだよね。当分はこのまま亜神として生きるだろうし。」
クロノの言っている神の常識は俺には全くわからないけど。こいつ、本当に神様なんだな、とは度々思う。こんな、人間臭い表情で頭を悩ませてるのにな。
俺は立ち上がり、クロノに歩み寄って風にそよぐ髪をくしゃくしゃと撫でた。クロノは少しだけ目を丸くして、それからふにゃりと笑った。
「そうだ、一樹。何なら魔王と竜神をパーティーメンバーに誘ってみたら…」
思いつきに目を輝かせたクロノを見下ろしながら、俺は全力で否定した。
「お前、神様と妖精と魔王と竜神のパーティーって何だよ!!むしろ魔王いる時点で不戦勝だろ!?」
いや、本当は神様いる時点で不戦勝だけどな。
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