クロノといつきとニコ
―――誰か助けて、お願い。
そんな声が聞こえた気がした。気になって覗いてみたら、そこは僕の世界ではなく、僕が生まれた世界だった。
困ったな。ここはもう僕の世界じゃないから、僕にはどうにもできない。
だから、僕には助けてあげられないよ。諦めた僕に、誰かが意識を向けた気がした。
それは、本当に小さな、今にも消えてしまいそうな魂だった。『人』になりきれていない魂だから、話ができたんだろう。
助けを求めていたのはその小さな魂に寄り添ったもう一人で、そっちの子は僕に気づいていない。ただ助けてくれる誰かを願い、必死に祈り続けている。
小さな消えかけた魂は、僕の神子と同じ色をしていた。僕はつい話しかけてしまった。
「君は、生きたいの?」
小さな魂は困ったように、傍らの少女を見ていた。
『ぼくがいると、かのじょがげんきになれないんだよ。ふたりいっぺんにいきられないから、ぼくはまたこんどでいいやっておもったのに、かのじょがないてはなしてくれないの。』
彼が話すと、傍らの彼女が僕に気づいたようだった。
『わたしは、このこといっしょにここにきたのよ。もっと、これからもいっしょにいたいの。ねえ、だれかいるの?おねがい、このこをたすけて。』
強い悲嘆が伝わってくる。魂は嘘がつけない。他の世界にいた僕に聞こえるくらいに、彼女は願っているのだろう。
本当ならば、僕は手を貸すことなんてできない。だ
けど、消えてしまいそうな魂は僕が見えて話ができる、僕に触れることができる神子になる魂だ。僕はこの魂がこのまま消えてしまうのが、すごく惜しくなった。
いや、少女の願いを無視したならば、消える前に拐ってしまう事はできる。この少女を甘言で惑わして、僕が保護してあげるって言って、かすめ盗ってしまえばいい。
だけど、そんなことをしたら、この小さな魂は僕を恨んでしまうかもしれない。嫌われるのはいやだなあ。
「僕は、この世界の神じゃないんだ。君は、僕の声が聞こえるし、僕の存在がわかる、すごく波長が合った魂なんだけど、この世界では僕は勝手に命を与えるなんてことができない。
せいぜい、延ばす事なら…それに見合う対価があればできるかもしれないけど、魂の対価は魂。例えば彼女の魂を分け与えるとか……」
嫌われることを考えてしまったせいか、正直に事実を話してしまった。もともと隠し事は得意じゃないけど、できないことにしておけば後ろめたくならなかったのに。
少年の魂は、困ったように佇んでいた。彼はもともと、彼女に負担をかけたくないから、今生を諦めたのだろう。
でも、彼女は違った。希望を見出したようにキラキラと僕を見つめる。きっとその目に僕は映らないのだけど。
『わたし、なんでもするわ。いのちがはんぶんになってもかまわない。てあしがはんぶんしかなくてもかまわない。だから、おねがい。このこをたすけて。』
彼女は彼から僕の言葉を受け取っているみたいだ。けれど、話ができるっていいなあ。それに、こんなにも無垢に想い合えるなんて綺麗な子たちだ。僕は本当にこの二つの魂が惜しくなった。少女へと確かめるように条件を続ける。
「君は、本当にそれでいいの?僕は彼には力を貸せるけど、きっと君のことはそんなに助けてあげられない。最低限普通に生活できるようにはしたいけど、生命を薄めて引き伸ばすんだから、君は周りが当然とすることでも、体力がなくて諦めなくてはならないことがたくさんでてくる。
それに、どのくらいかはわからないけど、きっとそんなに長くは引き伸ばせないと思う。期限は…君の魂と肉体が摩耗して耐えられなくなるまで。」
少女は喜び、同意した。
『いいの、いいのよ。だって、このこはわたしのために。きえるのは、わたしだってよかったのよ。だから、はんぶんこ。これでおあいこよね。』
少年は、諦めたように笑った。彼女のためにも生きる決心がついたようだった。
僕は、この二つの魂が大好きになった。そして、僕がこの二人に介入することへの言い訳を考えるうちに、閃いた思い付きに突き動かされた。
「僕は、この世界の神じゃないから、本当は力を貸してはだめなんだ。だけど、彼は僕にとってすごく特別な、波長が合う魂なんだよ。
だから、君が今生を終えたら、僕の世界に来て欲しいんだ。君の魂を対価に、僕は彼女の願いを叶えて力を貸す。
これなら個人との契約だし、他にもそういう例はあるから、僕が不用意に他の神の領域を侵したことにはならない。」
そう、思い付きだ。
理屈は間違ってはいないけれど、それ以外の手立てを探さないくらい、思い付きだった。
だって、欲しかったんだ。『悪魔』が『魂』を対価に、契約するようにでも。
僕は、悪い神なんだろうか。彼を手にいれるためなら、少しくらいの罪は犯す気でいる。
人間であるかのように僕の声を聞き、僕の姿が見えて、僕の存在を感じてくれる魂。
もう何百年か出会えなかった僕の神子。彼が欲しいんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます