第2話 未練が多かったみたいだ。俺は何も無い。
「成仏できてないって言ってたけど、この世に未練でもあるの?」
久しぶりに思い出した他人への興味。1歩後ろを浮遊する少女に問いかける。
「んー? 多分いっぱいあるんじやないかなぁー?」
「無念のうちに死んじゃったのか……」
「それがよくわかんないんだよねぇ」
へらへらと彼女は笑う。
「やりたいことは何ですかって聞かれれば思い浮かぶ事はたくさんあるの。例えば……肉まん食べたい、とか」
「絶対に今、目の前のコンビニのノボリみただろ」
「えへへ。それだけじゃないよ?」
屋上よりいくらか暖かくなった街を見回す。
裏路地を抜けた先。時代に取り残された繁華街。
ひとつだけ新しいコンビニは後方に。右手には色褪せた暖簾の中華料理屋、少し離れて人が混み合う大衆居酒屋、左手には点滅したネオンのモダンなバー、こおばしい香りの漂う焼鳥屋、ソースの香りの串カツ屋……
「ラーメン食べたい……とか?」
「それもあるけど、おともだちが欲しいっていうお願いは叶ったかなー」
「意外とちゃんとした未練」
「トモダチってだーれー? って聞いてくれないんだ」
小さな頬に空気を含んで見下ろされる。
「だーれー?」
適当に棒読みでオウム返し。
もったいぶった様に首を傾げ、閉じた目を少しばかり開ける。胸の前で組んだ腕を解き、真っ直ぐな人差し指と共に声を放つ。
「君だよ」
「……あぁ、ありがとう」
「ねぇ! すごい反応塩じゃない!? 私ちょつとだけ傷ついたよ!?」
「悪い」
「仮にでも私、命の恩人だよ?」
「飛び降りる直前の人間にオンジンもクソもねぇよ」
「うぬん……女の子を論破するなんて、君の血は何色だよ……!?」
「多分赤だよ。確認する? ちょうど今、大きめのトラックが──」
「すぐそうやって死にたがる」
哀れみの目を向ける少女に(一応)言い訳する。
「轢き殺されたいとは思ってないから。救急車呼ばれちゃうし」
「なんだそのモットー……」
「俺は死んでから発見されたい」
「いや、キリってされてもさぁ、君のセリフはかっこ悪いよ」
「言ったことに未練は無い」
盛大にため息をつかれた。
「私このまま成仏できないで永遠にここにいる未来が見えた」
「お先に成仏させてもらいます」
皮肉混じりに合掌しておく。
「自分より後に死ぬ人間の方が早く成仏するとか複雑…… まだ名前も知らないトモダチなのにぃ……」
「名前知らない相手でもトモダチなのかよ……」
「私、ユメっていうの」
「どこまでもマイペースだな」
「君の名前は?」
「
「うん? 下の名前教えてよ」
「
名乗った直後、ユメはゲラゲラと笑い出した。
「あはははは! イブキ君、君ずっと死ねないよ!」
「酷くねぇ?」
「だってさ、イマダニイブキじゃん」
「だから?」
「未だに生きる、じゃん」
「……もうお前のことトモダチだって認めたくないと思った」
「ユメの幽霊になって初めてのオトモダチだよ??」
「勝手に成仏してくれよ……」
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