第1話 私は成仏したい。俺は死にたい。
「成仏の仕方教えてよ」
「は?」
死神だか神様は女子高生の姿をしているらしい。
人生に諦め、楽になりたい一心で廃ビルの屋上から飛び降りようとすると女子高生が止めてくれるらしい。
そのくらい俺は思考を放棄した。
「ねぇ、おにーさん聞いてる?」
「聞いてた」
「私に成仏の仕方教えてよ」
「俺まだ生きてる……」
「あっちゃー」
眉間に皺を寄せ、栗色の前髪を押さえる。
首を横に振るたびにツインテールが揺れる。
「私さ、死んでるみたいなんだよね」
「……?」
「成仏できてないみたいなんだよね」
「……??」
「おにーさん、私を成仏させてよ」
「……は?」
Question
目の前の彼女は何者でしょう?
条件を以下のとおりとする。
(1) 手が冷たい
(2) 成仏の仕方が分からない
(3) 栗色のツインテールのたぶん女子高生
(4) 死んでいるらしい
(5) 足が──透けてる
……え? 透けてる? ……透けてる。
Answer
条件(1)〜(5)より
認めたくないけど、彼女は幽霊でしょう。
証明は2秒とかからなかった。
「……あのさ、俺まだ死んでないよね?」
「死んでなかったね。落ちる前に止めちゃったし」
何を当たり前のことを、と目で訴えられた。
「あなたは幽霊?」
「その認識で間違いない……はず」
「……うん、俺、飛び降りるのやめるわ」
夜露に濡れ始めた鉄柵を掴みよじ登る。
もうこちら側には来ないはずだったのに。
ツンとした錆びた匂いに春の香りが混じっていた。
行きは良い良い帰りは怖い? まさか。行きよりもずっとわくわくしている。
自ら飛び立とうとした鳥籠の中に舞い戻らんと熱を持たない金属を手から離す。
彼女と同じ目線で顔を合わせる。
「私を成仏させてくれますか?」
4度目の同じお願い。
蛍光灯の下、青白く照らされた彼女は純粋に可愛くて、綺麗だった。
「……俺に取り憑いてください」
ちょっとどころじゃなく人生を諦めている。
今日、この場で、数分前には無くなっていた命だ。
死にたい思いはまだ変わらないし、変わるとも思っていない。未だに自殺願望は無くなってない。
──でも、最後くらいはヒトの役に立ってから死んだっていいじゃないか。
生きてたって死んでたって困る人間はいないんだったら、たったひとりの役に立ってから死んだ方がかっこいいだろう?
「……ホントに取り憑いてもいいの?」
「死んだも同然の身体だ。あなたの好きにすればいい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
にへらと笑った彼女のためだったら、もう少しの間だけでも寿命を延ばしてみようか。
「言い難いんだけどさ、どうやって取り憑くかわかんない……んだけど」
照れくさそうに彼女は笑った。
「俺も知らねぇ」
呆れて肩を落とす。
「とりあえず、君のお家ついて行っていい?」
「勝手にしろ……」
しょっぱなから雲行きが怪しい。
彼女は成仏する事ができるのだろうか?
面倒事に首を突っ込んでしまったようだ。
「やっぱり死のうかな……」
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