ミッション5 同盟国と仲良くしよう

第17話 迷宮と島津国の使者


「迷宮を発見した?」


「ええ、しかも町からそんなに離れてない場所にです。一ヶ月前まで何もなかったのに……」



 不安そうなシュリの話に俺は腕組みして考え込む。

 迷宮か、厄介だな。

 以前にシュリからこの世界の事を説明してもらったから知っている。

 迷宮は全部で封印迷宮、財宝迷宮、人食い迷宮の3種類。



 封印迷宮はあまりに危険すぎるため、神々に封印された土地だ。

 現代では珍しい希少鉱石や貴重な薬草がたくさんある夢のような場所だが、単独で国一つ滅ぼす怪物がめっちゃ生息してるらしい。



 財宝迷宮は古代の魔導士が作った財宝部屋だ。

 よく分からんが、たぶんエジプトのピラミッドみたいなものだろう。



 人食い迷宮は『ダンジョンコア』という希少な魔道具によって人為的に生み出される迷宮だ。

 なんでもこの迷宮内で死ぬと、命や魔力の全てをダンジョンコアに吸われてしまうらしい。

 そしてそれを糧にして、ダンジョンマスターは強力な魔物を創造し、周囲の土地を飲み込んでいくのだ。

 昔、一つの国が丸ごと飲み込まれたこともあるらしい。



「封印や財宝迷宮なら突然現れたりしません。つまりアレは最近になって人為的に生み出されたはず……」


「なら人食い迷宮か。早めに潰さないとマズいな」



 一ヶ月前までなかったということは、その迷宮はさほど強い魔物を生み出せてないはずだ。

 弱いうちに潰さないと手が付けられなくなるかもしれない。

 今のすぐに全力で叩き潰す必要がある。

 ただ、一つ問題があるのだ。

 それは――。



「同盟相手の島津国だっけ? 使者が明日来るらしいが……どうする? この天才ナシでうまくやれるか?」



 シュリの亡き父にして先代の頭領シュテン。

 武闘派の彼が認めるほどの狂戦士ばかりが住む傭兵国家、それが島津国だ。

 数百年前に『日ノ本』という国から流れ着いた人々が興した小国で、鬼族の着物や刀の技術はそこから来たらしい。

 間違いなく日本の島津出身だろう。



「いえ、数百年の付き合いなので問題はないかと。イバラが何度かお会いした事のある方らしく、自分に任せて欲しいと言っています。少し、いえかなり特殊な方なので苦手意識があるそうですが……」



 シュリは少し陰のある表情を見せる。

 イバラさんが心配なのだろう。

 数百年前の島津ってことは戦国か江戸時代か……?

 よく分からんが、同じ国でも時代が違えば価値観もだいぶ変わる。

 相手がこちらと同じようなモラルを持っているとは限らない。



 ふむ、念のため奴を残しておくか。

 俺は背後で戦闘準備を整えている仲間を振り返る。



「カズト! イバラさんの護衛として残ってくれるか?」


「おいは留守番か? まぁええぞ。先祖と切り合うのも面白そうじゃ」



 物騒なことを言うこの男は薩摩カズト(一刀)。

 日焼けした浅黒い肌に傷だらけの男で、その目は飢えた狼のようにギラついている。

 クラスでもかなりの猛者で、刀を持たせればあの毒島と互角に渡り合うほどだ。

 格闘戦のクラス最強が毒島なら、剣術最強はカズトだろう。



 カズトを残していけば、大丈夫のはず。

 バックアップに服部たちもここに残し、それ以外の皆で迷宮を攻め落とす。

 決まりだな。



「頼んだぞ、カズト」


「カズト! 俺たちの帰る場所を守ってくれよ」

「任せたぜ、カズト」

「悔しいけど剣術ではお前がナンバーワンだ」


「み、みんな……」



 皆の言葉にカズトが涙ぐむ。

 一体どうしたというのか?



「おいは幸せもんじゃ。故郷じゃ爺様以外には鬼とか狂人と言われちょった……。 おいを受け入れてくれた皆のためにも、命に代えてもやり遂げるぞ!」



 周りにいるシュリ達が青ざめて後ずさるほどの気迫。

 一般人なら気絶してもおかしくはないだろう。

 どうやら気合は十分のようだな。

 俺たちはカズトと服部たちを残し、迷宮へと向かうことにした。



 ~次回予告~


 凄腕剣士、カズトを護衛にして使者との会談に臨むイバラ。

 そんな彼女を待っていたのは流血が飛び交う狂気の会談だった。

 はたしてイバラは生き残れるのか!?


 次回『島津の使者とイバラの受難』


 絶対見てくれよな! 天才との約束だぞ?

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