第33話 悪徳富豪ドーラ
◇ side ドン・ドーラ
「いけませんねぇ、そんな考え方じゃ。そのお金はあなたのモノなのだから好きに使って良いのですよ?」
「そんな……、あのお金は投資してくれた方のものでしょう? さすがにそれは……」
青二才の言葉に私は静かにため息を吐いた。
これだから最近に若い者はいけないのだ。
投資してもらった金はもうこちらのモノなのだから、好きに使って何が悪い。
仮に失敗したとしてもそれは見る目のなかった向こうが悪いのだ。
あとで連中がゴタゴタ抜かすようなら始末すればよいだけの事。
むっ、そういえば先日の件は片付いただろうか。
「そういえば例の件は片付きましたかな?」
先日、この男に頼んだのは私の部下が潰された件だ。
麻薬売買を取り扱わせていた闇ギルドがほんのわずかな時間で壊滅し、麻薬も全て焼かれたとのこと。
それが事実ならば凄まじい手練れだ。
賄賂を贈って手駒にした衛兵からの情報では少年だという話だが、そんな連中がいるのなら私の情報網に引っかからないはずがない。
おそらく少年に変装しているだけだろう。
さて、この男はどこまで調べ上げたのか。
調査報告を期待して待つ私の前で、男はおずおずと口を開く。
「いえ、それがまだ……。黒髪の男たちという事しか分かっておりません」
……使えんな、この男。
私に友好的な親族の中では最も優秀らしいが……。
優秀な甥っ子が私と敵対したのが悔やまれる。
会長就任の際にあれだけ協力してやったというのに、就任直後に裏切りおって。
見目麗しい亜人たちを商品とした奴隷市場を拡大しようとしただけだというに、一体何が問題なのか見当もつかん。
全く、商売など金を儲けてナンボだろうに。
何がモラルだ、何が品性だ。
どんな汚いやり方でも金を稼いだものが勝者なのだ。
情けない親族に苛立つ私に気づいたのか、商会支部の副会長が慌てて口を開いた。
「そういえば鬼人族の里に襲撃に行くと聞きましたが……」
下衆な笑顔を浮かべる副会長。
どうせおこぼれが欲しいのだろう。
この男は愚かだが、欲望に素直な所は称賛に値する。
欲のためならどんな汚れ仕事でも平気でやるし、何より扱いやすい。
「ええ。情報によると不死王との戦によって鬼人族の生き残りは女しかいないとのこと。これは好機です。彼女らは皆美しく、素晴らしい商品となるはずですよ」
「おお! さすがはドン様! 捕らえた時は何人かうちに回してください! うちの娼館の目玉にしますので」
「ぐっふっふ。味見をした後でなら送りましょう」
やはり手っ取り早く大金を儲けるにはこれが一番だ。
これだから人狩りで見目麗しい種族を浚って売り飛ばすのは止められない。
「む?」
「おや?」
楽しく談笑する私たちの耳に足音が届いた。
それはこの部屋へと近づいて来る。
何か面倒ごとだろうか?
私たちが扉に視線を向けた瞬間、扉が勢いよく開かれた。
「た、大変です! 侵入者が来たようです!!」
「……数は? いや、見張りは何をしていた?」
「そ、それが妙な少年たちが『公園はみんなの物だろう!』と訳の分からない事をいって襲ってきたらしくて……。みんな失神しています!」
「はぁっ!?」
なんだそいつらは?
私の屋敷を公園と間違えているのか?
何と迷惑な! 一体どこの酔っぱらいだ!?
不愉快な愚か者めが! 適当に痛めつけて死ぬまで炭鉱で働いてもらうとしよう。
賊への処分を決めた私が口を開こうとすると、扉から見える廊下から執事が慌てて走ってくるのを見えた。
あいつは長年家に使えてくれている老執事だ。
あれほどの男が慌てるなど何事だ?
「ドン様! すぐに避難してください!」
老執事はドアの前にいた男を突き飛ばすと、荒い息を吐きながら叫び出す。
「もしや侵入者の事か? それならさっき聞い……」
「火事です! 離れの屋敷が……ドン様の宝物館が焼けていますっ……!!」
「なっ……なんだとぉぉっ!!?」
◇
「これは一体なんの冗談だ……」
私の目の前で宝物館が焼けている。
この中には金にモノを言わせて揃えた名画や彫刻があるというのに!
一作品当たり金貨数百枚の価値がある私のコレクションが焼けていく……!
「だ、誰か私のコレクションを回収してこい! あれがいくらするか……!」
私が叫んだ直後。
宝物館の扉が蹴破られ、中から男たちが飛び出して来る。
あいつらは……私の雇った護衛か!
ふと視線を向けると、彼らの手には数点の絵画と小脇に彫刻を抱えていた。
彼らは私に気づくと真っすぐに駆け寄ってくる。
「旦那! 持ちだせたのはこれだけです!」
「これだけ、だと……?」
「後は燃えちまってて、とても回収は無理でした」
すまなそうに項垂れる護衛達。
バカな!? ほんの10作品しか持ちだせなかったのか!?
いや、僅かばかり残っただけでも僥倖だ。
一品当たり金貨数百枚するんだからな。
私は作品をチェックしようと覗き込む。
「なんだこれは!?」
美術品をチェックした私は驚愕した。
私の名画に落書きがされていたのだ。
彫刻にも訳分からん修正が施され、裸婦像が仮面をかぶった不審者に変えられているだと!?
「うわっ!? なんだこれは……!?」
「この絵……なんでこんなに目がデカいんだ?」
「ああ、目と目が離れすぎてる上にデカい。これだけ大きいと眼球で脳みそ圧迫されてないか……?」
この惨状を見ていた使用人が口々に感想を口にする。
こんな様では値段などつかないだろう。
「酷いですね……。名画が見る影もありませんな」
がっくりと項垂れる私を支えながら老執事がぼそりと呟く。
全くだ!
侵入者め、なんて酷いことを……!
これは芸術に対する冒涜だ!
これをやった奴は何を考えているんだ!?
「侵入者を探し出せっ!! まだ近くにいるはずだ!!」
私の叫びに部下たちが動き出す。
護衛達の半分が侵入者捜索に、使用人たちは消火活動に勤しむ。
今さら消火活動をしても無駄かもしれんが、被害拡大を防ぐためには必要なことだ。
まだだ、まだ私は終わらんぞ。
まだ私の庭には竜という財産が残っている。
まだ幼い個体なのでドラゴンレースには出せないが、その数は20頭近くいる。
血統書付きなので手放すのが惜しいが、その価値は合計金貨千枚を軽く越えるはず。
再出発の軍資金にはなるだろう。
侵入者め、決して許しはせんぞ!
必ず捕らえて地獄を見せてくれる!
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