第34話 なぞの金塊
「秀也!」
「む?」
美術館を出てすぐに俺を呼ぶ声が聞こえて視線を向けると、林の向こう側からクラスメイトのモツゴロウが竜を従えて戻ってくるのが見えた。
その竜の数はおよそ20頭。
思ったよりも多いな。まったく、ひどい飼い主もいたものだ。
飼えないなら買うなというのに。
どこの世界にも無責任な連中はいるもんだ。
「捨て竜はそれで全部か?」
「うん! どの竜も喜んでついて来てくれたよ」
新しい動物の友達が出来てモツゴロウはとても嬉しそうだ。
仲間も喜んでいるし、竜も手に入った。
良いこと尽くめだな!
これも俺たちの日頃の行いがいいからだろう。
俺が気を良くしていると、モツゴロウは大事なことを思い出したといった様子で手を打った。
「秀也、そういえば気になることがあったんだ」
「どうした?」
「竜たちが寝てた小屋の地下にさぁ、なんか隠し部屋があるっぽいんだよねぇ」
「ほぅ……、そこに案内してくれないか?」
俺の第六感が言っている。
これはきっと良いものだと。
俺はクラスメイトを連れて隠し部屋へと向かうことにした。
◇
「ここか? ずいぶんでかいな」
「うん、竜たちが寝床にしてたところだからね」
切り開かれた林の中にぽつんと建てられた石造りの建物はかなり年季が入っていた。
相当古い建築物だが、かなり頑丈な作りをしていると一目で分かる。
何せこの天才は獅子堂学園の授業で、爆発物のテストで一位だからな!
正直言うと初めて爆発物の授業を受けた時、「高校にこんな授業あったの?」とか「社会に出て使うの?」という思いが強かった。
なにせ最小限の爆弾で建物倒壊させるとか、時限爆弾の解除とかみっちり教え込んでくるのだ。
さすがにおかしいだろうと詰め寄る俺たちに、教官はこう言った。
『この技能身につけないと社会に出た時困るぞ? いい大学いけないが良いのか?』
『『なっ、なんだってー!?』』
そこまで言われたら俺たちも何も言えない。
きっと英会話と同じように、今の日本教育に必要な物なのだろう。
あの時は大変だったな……。
爆弾解除の授業を理解できたのは俺だけだったのだ。
他のクラスメイトは早々に匙を投げられ、教官に『お前たちは外でランニングしていろ』と追い出され、俺だけが座学を叩き込まれる羽目になった。
あれはキツかったな……。
おっといかん!
今は隠し部屋を最優先に考えねばな。
これだけ古い建物なのだから、きっとお宝だろう。
俺はワクワクしながらモツゴロウの後に続いて建物の中へと入っていく。
中は細かく分けられていて、大型車が一台入りそうなスペースの部屋がたくさんあった。その中で最奥の部屋へとモツゴロウは進んでいく。
「この場所さ。そいや!」
モツゴロウが部屋の中に敷き詰められていた寝藁を蹴飛ばすと、床の大きな隠し扉が露わとなる。鋼鉄製のかなりしっかりとした扉だ。
これは期待できそうだな。
俺はキーケースから道具を取り出すと、カギ穴に器具を差し込む。
う~ん、思ったほど難しくないな。
これならアメリカのホワイトハウスにあった金庫を開錠した時の方が手こずったぞ。
ピッキングを始めて一分もしない内に開錠すると、さっそく床の扉を開いてみる。
部屋は薄暗くてよく見えないが、大きな木箱がたくさん置かれているのが分かった。
「秀也、これを使え」
「サンキュー」
俺は仲間が用意してくれた松明を地下室に投げ込む。
かなり広いな。
松明の明かりに照らされた部屋は小学校の体育館くらいはあるだろう。
罠がないことを確認すると、俺たちは木箱の蓋を引っぺがす。
「なんと……!」
「こいつはすげぇや」
松明を近づけた俺たちは思わず唸り声を上げてしまった。
中には金の延べ棒が大量に詰まっていたからだ。
「すげーな!」
「すごいけど何で公園にこんなモンがあるんだ?」
仲間の疑問で俺はハッとする。
確かにそうだ……、なぜ公園に金塊があるんだ?
誰かが隠したのか? しかし何でこんな場所に?
俺は金の延べ棒をいくつか手に取ると、念入りにチェックする。
重さから考えてほぼ純金で間違いない。
む? 表面に何かの紋章が刻まれているぞ。
どこかで見たようなデザインだが……。
う~む。なんか家紋みたいだな。
待てよ? 家紋……埋蔵金……? まさかっ!?
俺の中で点と線が結ばれていき、真実が導き出されていく。
もう間違いないだろう。
家紋みたいなマークが刻まれた金塊などアレしかない!
「そうか! そういうことか! 分かったぞ、この金塊の正体がっ!!」
「何っ!?」
「どういうことだ!」
「俺たちにも分かるように説明してくれよ!」
思わず叫んでしまった俺に困惑した様子の仲間達が詰め寄ってくる。
仕方がない、この天才が説明してやるか!
「みんな、落ち着いて聞いてほしい。……これは徳川の埋蔵金だ!!」
「「なっ、なんだってー!?」」
仲間たちは驚愕の表情で固まった。
それも当然だろう。
俺自身、信じれれない思いで一杯だ。
まさか俺たちが徳川の埋蔵金を見つけてしまうとはな……。
「徳川ってどっかで聞いたことあるぜ!」
「テレビで見たような気がするけど、誰だっけ?」
「バカ! 総理大臣だろ」
「さすがにそれは違くねぇか? 何かこう……偉い人じゃね?」
「AVを作った人とか?」
「それはエロい人だろ」
クラスメイトは戸惑った様子で話し合っている。
口々に『徳川って誰だっけ?』と言ってる辺り、徳川家を知らないようだ。
やれやれ、どうやら少しレベルの高すぎる話をしてしまったらしいな。
「徳川っていうのは戦国大名の1人で、徳川幕府を作ったおっさんだ。江戸時代って言葉を聞いたことあるだろう? あの時代の支配者が徳川家さ」
「そーなのか!?」
「知らなかったぜ……」
「江戸時代ってことは……」
「あっ、日光の江戸村を作った人か!」
「なるほど、江戸村の村長さんか」
驚き戸惑うクラスメイトの中で、一人の男が困惑した顔つきで手を上げる。
天然パーマのクラスメイト、安室だ。
「秀也、ここって異世界だろう? なぜ徳川の埋蔵金がここにあるんだい?」
「良い質問だ、安室。まずはこれを見て欲しい。何に見える?」
俺は金の延べ棒を安室に手渡すと、刻まれた紋章を指さす。
安室はその紋章を興味深げに見つめる。
「何かの紋章っぽいね。でも僕はこういうの詳しくないしなぁ……」
「家紋に見えないか?」
「えっ? そういえばそうだね。家紋……っ!? まさかこれは徳川家の家紋なのかい!? 」
どうやら安室も分かったようだな。
俺は思わせぶりな態度で黙って頷く。
ぶっちゃけ徳川家の家紋とかよく覚えていないが、たぶんこんな感じだったはずだ。
たしか丸っこくて葉っぱみたいなのが書かれたのが徳川の家紋だろう?
ならきっとこれもそのはずだ。
「みんな、徳川埋蔵金が見つからなかったのは異世界に隠されてたからなんだよ!」
「「なっ、なんだってー!?」」
俺の発言に衝撃を受けたクラスメイトが驚愕の叫びを上げる。
「そうか、だから見つからなかったのか……」
「思い出したぜ! ガキの頃、徳川埋蔵金を探せってTVやってたな」
「どうして見つからねぇのかって思ってたんだが……」
「ああ、まさか異世界に隠すとはな。やってくれたぜ、徳川も」
「してやられたぜ、徳川のヤロウに」
「待ってくれ、秀也! たしかにこれは徳川の埋蔵金かもしれない。でもどうやって異世界にきたんだい?」
納得した様子のクラスメイトだが、ただ一人腑に落ちないといった顔つきで安室が叫んだ。やれやれ、仕方がない。
教えてやるとするか。
「俺たちでさえ異世界に来れたんだぞ? まして徳川は征夷大将軍だ。きっとこのくらいできるだろう」
「せ、せーい大将軍……っ!?」
「どっかで聞いた名前だぜ!?」
「強そうな名前だな~」
「時空を超えるとはやるじゃねぇか、天下人も」
「……確かに、秀也の言う通りだ。僕らだって異世界に来れたんだ。その……ナントカ大将軍だっけ? そんなに強そうな名前ならきっと次元の壁も越えられるはず」
安室はようやく納得した様子で頷いている。
安室よ、俺も同じ思いだ。
でも天下人ならきっと時空を越えられるはず。
だって俺が小学生の時にハマっていたゲーム――確か戦国大名が無双するゲームだったか?
そこに出てきた武将たちはみんなビームを出したり、瞬間移動したり、中には時空を切り裂く奴もいた。
彼らがそこまで出来るということは、天下人の徳川も時空を渡ることぐらい造作もないはずだ。
しかし、徳川め。
異世界に隠してでも埋蔵金を渡したくないとはな。
俺が感慨深げに金塊を眺めていると、一人の巨漢がクラスメイトの輪から歩み出てきた。クラスメイトの毒島だ。
毒島は親指で金塊を指し示しながら口を開いた。
「で? 秀也、これはどうするんだ?」
「全部持って帰ろう! 竜もいるしな」
「いいのか? 徳川の子孫とかに渡さなくても?」
「大丈夫さ。だって公園はみんなの物だろ? そこに埋まってた埋蔵金は誰のものではない。つまり発見者の俺たちの物さ!」
「なるほど、早い者勝ちってわけか」
「たしかにそうだな」
「さすが秀也だぜ!」
「さっそく運ぼうぜ!」
「おう!」
皆が喜び勇んで金塊を運び込む中、モツゴロウが俺に駆け寄ってきた。
異常事態でも発生したのか?
「秀也、言い忘れたんだけどさ、明らかに違法な薬物が近くの建物にたくさんあったんだけど……」
「マジで? ちなみに中に人はいるのか?」
「もういないよ、僕が叩きだしたから。そこの林に寝かしてあるよ」
「さすがモツゴロウ! 仕事が早いな。 じゃあ、その建物に放火して帰ろう!」
違法薬物など百害あって一利なし。
学校の教官もそう言ってたし間違いない。
全部焼き払っていくとするか。
それにしてもこの公園は色んなものが落ちているな。
衛兵は何をやっているんだ? あまりに職務怠慢ではないか!
俺が嘆いていると、クラスメイトの服部が近寄ってきた。
「秀也、火炎瓶使う?」
「む? 準備がいいな。でもそんなの作ってたっけ?」
「割れた酒瓶がもう一本あったから作ったんだ」
「ナイスな機転だ! モツゴロウ、あの建物か?」
「うん、あれだよ」
傍らのモツゴロウに話しかけると、モツゴロウは50メートル程先にある木造づくりの建物を指さす。
あそこか。よく燃えそうな建物だ。
あんな近くなら俺の貧弱ボディでも余裕だな!
俺は火炎瓶を建物の窓へ正確に投げ込んだ。
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