第24話 あるテロリストの末路

 *残酷な表現があります



 ◇ sideテロール槍人



「クソが! あのガキども、俺を舐めやがって……!」



 奴らはデカい木を切り倒し、それを橋にして俺をここに運び込むと、その大木を崖下に落としやがった。

 おかげで俺は『大地の割れ目』のど真ん中にある断崖絶壁に置き去りだ。

 俺は舌打ちを打つと共に、去り行く獅子堂の悪魔どもに中指を突き立てる。

 対岸までは軽く10メートル以上あるし、飛び越えるのは不可能だ。



 まずはここから脱出しねぇと!

 辺りを見回し、役に立ちそうな物を探すが、石や土しかない。

 クソ! ここは本当に何にもねぇ!



 ここにいたら本当に飢え死にしちまう!

 ならば体力のある今のうちに行動するしかない。

 肉食昆虫だか知らんが、どうせ俺をビビらせるための嘘だろ?

 考えが浅いんだよ、クソガキどもが。



 俺はそっと崖の淵に手をやり、慎重に崖を降りていく。

 世界的な犯罪集団『コイントス』について回ってたんだ、このくらいなんでもねぇ。

 見てろよガキども。

 ここを抜け出したら、恥をかかせたテメーらに復讐してやる。



 しっかりと岩の出っ張りを掴んで降りていく。

 くそっ、思ったより疲れるぞ!?

 たった数メートルでこんなに消耗するとは……!

 急がないと途中で力尽きるかもしれない。



 ペースを上げた次の瞬間、俺の手が滑った。

 岩壁が濡れていたのだ。

 俺は岩壁から滑り落ち、背中から『大地の割れ目』へと落ちていく。



 冗談だろ!?

 こんなところで俺が終わるはずがない!!

 その時だった。

 落下が急に止まったのだ。

 どうやら何か柔らかい物に体が引っ掛かったようだ。



 恐る恐る目を開くと、崖と崖に張り巡らせた白い糸に引っかかったようだ。

 やっぱり俺はこんなところで死ぬ男じゃないんだよ!

 俺は安堵のため息を吐き、上空を見つめる。



 地上から10~20メートルくらいか?

 糸の上を歩いて対岸へ渡って登り切れば、ここを脱出できる。

 俺は糸のようなモノの上を歩こうとして、気づいた。

 この糸、ネバついてて身動きとれねぇ!

 まるで巨大なクモの糸にでも引っかかったみたいだ。



 そこまで考えて、俺はゾッとした。

 クモの糸……ってことはまさか!?

 慌てて辺りを見渡すと、崖にある洞窟から3メートルほどの怪物がのそりと姿を現すのが目に入った。

 クモとサソリを合体させたような化け物だ。



 俺は慌てて糸を引きはがそうとするが、まったく取れない!

 必死に動く俺だったが、化け物は機敏な動きで糸の上を移動して、俺の眼前までやってきちまった。



「い、嫌だ! こんなとこで死にたくねぇ!!」



 必死で暴れるが、糸は剥がれない。

 絶望する俺だったが、意外にも化け物は俺に何もせず、ジッと観察しているようだった。

 なんだ? まさか助けてくれるのか?

 そう思った瞬間、化け物のサソリの尾が俺の腹を貫いた。



「ぎゃあぁぁっ!!?」



 激痛で俺の体が軋み、跳ね回り、涙が出てきた。

 サソリの尾から、体の中に注入されているのを感じる。

 何だ!? 毒か!? 

 死にたくねぇ! 誰か助けてくれ……。

 恐怖と痛みで、俺の意識は真っ暗になった。



 ◇ 



 次に目が覚めた時、俺は洞窟の中だった。

 洞窟の入り口に目を向けると、オレンジ色の光が差し込んでいるのが見えた。

 どうやら夕暮れ時まで気絶してたらしい。

 薄暗い洞窟の中には俺と、糸でグルグル巻きにされたバッタみたいな生き物がいる。

 おそらくだが、俺は非常食としてここに放りこまれたのだろう。



 まだ生き残るチャンスがある!

 体を揺らして糸から逃れようとするが、体が麻痺してまともに動かない。

 さっきの毒針のせいか!

 おまけに俺の体は糸でグルグル巻きにされている。

 でも、糸がべったりついているのは服だけだ。

 麻痺が解ければ脱出の目はある。

 見てろよ、クソガキども!

 俺はこんなところで絶対に終わらない!



 ~2日目~



 昨日に比べれば大分麻痺が解けてきた気がする。

 うまく行けば明日には脱出できるかもしれない。

 生きる希望が湧いてきた俺だが、少し気になることがあった。

 体が妙に痒いのだ。

 昨日、サソリクモに刺された腹がやけに痒い。

 もしかしたらアレルギーかもしれない。

 早めに脱出しなければ!



 ~3時間後~


 痒い! かゆい! 痒い! かゆい! 痒い!

 痒い! かゆい! 痒い! かゆい! 痒い!



 俺は糸で拘束された状態で、暴れていた。

 さっきからおかしい! 痒すぎる!

 まるで体の中で、何千匹の虫が蠢いているようだ!

 こんなんじゃ、脱出できねぇ!

 ちくしょう!

 なんで俺がこんな目に!?




 ~3日目~


 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!

 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!



 手足のしびれは治ったが、痛すぎて脱出どころじゃない

 何でこんなに痛いんだ!?

 意味が分からねぇ!?

 激しく咳き込んだ俺の口の中で、何かが蠢いている。

 慌ててそれを吐き出し、それに目を向けると、なんと動き出した!



 これは……小さなクモサソリ?

 なんでこいつが俺の口から出てきたんだ?

 そこまで考えて、俺はハッとした。

 まさか初日に刺された時、流し込まれたのは毒だけじゃなくて卵も?

 この体の痛みはもしかして……。



「ぎぃぃっ!?」



 一際激しい痛みを感じ、目を向けると体を食い破って大量のクモサソリが湧き出してきやがった!

 こいつら、俺を食ってやがる!?

 腹から、口からクモサソリが出てきて俺を食い散らかしていく。



 絶叫しながら必死に暴れていると、カクンと足から力が抜ける。

 目を向けると、もう俺の足は骨と皮だけになっていた。

 胴体も似たような感じだ。

 嘘だろ!? 



 胴体をあらかた喰い終わったのか、俺の顔にまで登ってきやがった。

 必死に顔を振って振り落とそうとするが、奴らはハサミで俺の肉を少しずつ千切って食べていく。

 もう口を閉じるための筋肉まで食われて、俺はだらんと口を開いてしまう。



 こんなの嫌だ! 虫に食われて死ぬなんて人の死に方じゃない!!

 恐怖で涙が滲んでくるが、クモサソリたちはそれを興味深く思ったのか、俺の目に群がってきた。

 そして連中は、俺の眼球に飛び込んできた。

 中に! 目の中に虫が入り込んできた!!?



 やがて何も見えなくなり、暗闇の中で激痛に耐え続けるしかなくなる。

 どうして俺がこんな目に合う!?

 俺が何をしたってんだ!!

 俺はただ、皆が見たがっていた凄惨な光景を作って動画にしただけじゃないか!?

 安全な場所から見る凄惨な光景を、他人事のように見たがる連中に動画を提供してやっただけなのに!



 俺は悪くない!

 なのにどうしてこんな酷い目に……。

 暗い暗い闇の中へと、俺の意識が溶けていく。

 そして激痛しかない暗い闇の中へと、俺の意識は消えていった。


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