第25話 迷宮生物を造ろう!
「さて、これをどうするか」
砦に戻ってきた俺は、手の中のダンジョンコアを見つめ、思案していた。
迷宮内で死んだ生物のエネルギーを吸い取って、それを使って迷宮を自在に組み替え、魔物を創造するのがダンジョンコアの能力だ。
砦のそばに迷宮を作ることをシュリたちに許可してもらったが、まだ具体案もないのに作るわけにもいかない。
そもそも魔物を産み出してどうするというのか。
頭を悩ませてる俺のそばをクラスメイトが通り過ぎていく。
シュリ達の畑作業を手伝っていたグループだろう。
意外なところで不満が溜まっているかもしれないし、念のため彼らの会話に耳をすませるか。
領地改革と仲間の不満の解消、両方やらなくちゃいけないのがリーダーの辛い所だ。
まぁ、俺は偏差値40の天才だから余裕だけど。
「あ~、たまには鶏肉以外が食いたいぜ」
「だな。今度遠出して何か狩ろうぜ!」
仲間の言葉で気づいた。
シュリ達の領地では、家畜は鶏っぽい生き物しかいない。
他の生き物が食べたいなら、森で狩るしかない。
何か他に、例えばブタみたいな家畜がいればよいのだが……。
ふと思い付いた。
ダンジョンコアを使って、食べられる家畜として魔物を産み出すのはどうだろうか!
あるいは、定期的に果実を実らせる植物型のモンスターも良いかもしれない。
さすが俺って天才だ!
うまくいけば、いつでも安全に食べれる食料が手に入るぞ。
さっそく俺はみんなを呼びに行くことにした。
◇
「秀也! うまい肉の魔物を生み出すって本当か!?」
「ああ、うまくいけばA5ランクの肉が食えるはずだ」
毒島の言葉に、俺は自信を持って答える。
ダンジョンコアが魔物を自在に創造できるなら可能なはずだ。
しかし、TVでたまに見るがA5ランクの肉ってどういう意味なんだ?
たぶん美味しい肉って意味なんだろうが、レポート用紙のサイズと何か関係があるのだろうか……?
まあいい。
皆が待ちわびているし、さっそく創るとしようか!
「ダンジョンコアよ! どんな食材でも食べて清潔で美味しい肉を実らせる、大人しくて共食いしない家畜を産み出してくれ」
俺は大きな声でダンジョンコアへと叫んだ。
その直後、大きな光が周囲を包む。
そして光が収まった後、ソレを見て俺たちは声を失った。
それは体長2~3メートルほど。
頭はブタ、胴体が芋虫で背中にはバナナの木に似ている樹木が生い茂っている。
その木にはピンク色の果実――ソーセージをバナナの房のように実らせていた。
何か想像と全然違う……。
みんなも絶句しているようで、先ほどから声一つ聞こえない。
様子を見に来たシュリなんて腰を抜かし、慌ててイバラさんが部屋に連れ帰っていくのが見えた。
俺としたことがとんでもないキメラを作ってしまったな。
コイツはどうすればいいんだ……?
さすがの天才もお手上げだ。
その時、クラスの輪から一人の男が進み出てきた。
「どうやら私の出番のようだね」
「お、お前は……畑山モツゴロウ!」
畑山モツゴロウ。
外見はやや老け顔の小男で、俺よりも身体能力が低いクラスメイトだ。
だがこの男には誰にも負けない特技がある。
動物と心を通わせ、操る能力――獅子堂のビーストマスターとはこの男の事だ。
それはモツゴロウが中学の頃だった。
色々あって人に絶望したモツゴロウは動物園を単身で乗っ取ったのだ。
当然、警官が取り押さえようとしたが、モツゴロウに従う猛獣の群れがそれを許さなかった。
あらゆる種類の猛獣が、種族の垣根を越えて協力し合い、武装警官を退けたのだ。
その手腕を気に入った獅子堂学園のスカウトマンがその動物園に出向き、猛獣の群れとモツゴロウを無力化し、拘束した。
これがモツゴロウが獅子堂学園に入学した経緯だ。
例え訓練された敵の軍用犬でもあっという間に味方にできる、頼もしい男だ。
「モツゴロウ、任せていいか?」
「私にお任せあれ」
そう言うとモツゴロウはそのキメラ――ブタもどきの頭に手を触れた。
そして俺には理解できない言語や唸り声で会話を始めだす。
よく分からんが、気持ちが通じ合っているようだ。
不安そうに見つめる俺たちへと、満面の笑みでモツゴロウが振り返る。
「うん、この子の背中にはソーセージやハムが実るみたいだ。食材と水をくれれば、一日一度だけ収穫できるらしいよ。味沢、腐りかけてたサメ肉あったよね? あれ全部あげてくれない?」
「腐りかけだぞ? 腹下したりしないのか?」
「完全に腐ってなければ問題ないってさ」
なんていうことだ。
見た目はヤバいが思った以上に高性能なキメラだぞ!?
思った以上のスペックに俺は感嘆の吐息を漏らす。
「やるな、モツゴロウ! さすがビーストマスターと言われるだけある」
「動物と会話できるとは……、さすがだな」
「ビーストマスター、モツゴロウ!」
「大した奴だ……」
クラスメイトの称賛を笑顔で受け止めたモツゴロウは笑顔で口を開いた。
「じゃあ、さっそく収穫したソーセージを食べてみようか!」
俺たちは無言でブタもどきを見る。
森で出会ったら、間違いなく魔物として駆除するであろう醜悪な姿だ。
俺たちの視線を受け止めたブタもどきはつぶらな瞳で首を傾げる。
どうかしたの?と言いたげな視線だ。
え? 本当に食べれるのか……?
モツゴロウがそう言うからには食べれるのだろうが、少し勇気がいるな。
しかし、仲間を信じられなくて、どうしろというのだ!
俺はごくりとつばを飲み込むと、引きつった顔で口を開いた。
「そ、そうだな。食べてみようか……」
「た、楽しみだぜ」
「味沢、頼んだぜ……」
「ま、任せろ……!」
俺たちはブタもどきから収穫したソーセージを調理場へと持って行った。
結論からいうと、メッチャ美味かった。
なにせ匂いを嗅いだシュリ達が我慢できずに食べに来るほどメッチャ美味かった。
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