第5話 悪徳貴族の屋敷に潜入
「ずいぶんと登りやすい壁だなー」
「まったくだぜ」
「これなら道具無くてもイケるわ」
真夜中に、俺たちは月明りを頼りに屋敷の壁を登っていた。
目算で10メートルくらいだろうか。
この程度の高さなら俺たちにとって朝飯前だ。
なにせ獅子堂学園は日本一体育の成績が良い学校だからな。
オリンピックの代表を必ず排出しているし、学校の体育の時間に様々な技術を教え込まれている。
ロッククライミングもその一つだ。
そのおかげで天才もやし野郎の俺でも、30メートルの壁なら軽く登れる。
さすがにツルツルな壁は無理だが、この城壁のように掴むところが多いなら問題ない。
俺たちが壁を登りきるのに5分もかからなかった。
城壁の上に立った俺たちは屋敷を見下ろす。
見張りの数がパッと見た限り50人はいる。
ふむ、妙だな……。
クラスメイトもそう感じたようで、疑問を口にし始めた。
「やけに少ないな……?」
「確かに。授業で潜入した政治家の屋敷の方が大変だったぜ」
「監視カメラとか、対処メンドイもんな」
獅子堂学園では潜入の授業がある。
潜入の実技試験では、政治家や実業家の屋敷に潜入して、不正の証拠を確保するテストがあった。
監視カメラが多くて、中々面倒だったのをよく覚えている。
まぁ、面倒なだけの簡単なテストで、不合格者は誰も出なかったが。
「この程度なら楽勝だな」
「ああ、さっさと終わらせよう」
俺たちは領主の屋敷へと潜入した。
◇
「ここが領主の部屋か」
俺たちは領主の部屋、その天井に潜んでいた。
学校で習ったおかげでほとんど迷わずに領主の部屋へと忍び込めた。
俺はみんなに視線で合図する。
俺たちは音を立てずに床に降りると、領主の眠るベッドを取り囲む。
すでにドアの前の見張りは眠らせてあるし、念のため、4人ほど不正の証拠を掴んでもらうために別行動してもらっている。
あとは飲ませるだけだ。
「さっそく飲ませようぜ!」
毒島が流れるような手さばきで、貴族のオッサンを無力化する。
すぐに起きる貴族だが、毒島に締め上げられて暴れることすらできない。
どうやら争いごとには無縁のようだ。
「こら、毒島。ペニシリンは血管に注射しなきゃダメなんだぞ」
「そうなのか!?」
「注射って、秀也は出来るのか?」
「当然だ。医療系マンガでバッチリ学習したし、ホワイトジャックによろしくは大好きだった」
「「すげぇ!」」
皆の尊敬の視線がくすぐったい。
おっと、浸っている場合ではない。
さっさと注射せねば。
「よし、抑えていてくれ」
俺はそう言うと、自作したペニシリンを注射器で吸い取る。
注射器も針と木材で自作したもので、地球産のものと比べるとかなりデカい。
おそらくこんなぶっとい針を刺されたら子供は絶対泣き出すだろう。
しかし、ペニシリンってこんな臭いのか……。
黒っぽい緑色をしているし、見るからに体に悪そうだ。
まぁ良薬口に苦しって言葉もあるし、たぶん大丈夫だろう。
俺は注射器を手に取ると、血管を探す。
ふむ、とりあえずこの緑っぽいのが血管だろう。
そういえば注射って静脈と動脈のどちらに刺せばいいんだ……?
まあ、ドラマや漫画に描いてなかったからどっちに刺しても良いのだろう。
俺は領主の腕を掴み、太そうな血管に注射器を刺す。
「んぐっ!?」
ちょっと深く刺しすぎてしまい、領主がビクリと体を震わせ、悲鳴をあげた。
でも血が結構出てるし、たぶん血管に入ったのだろう。
俺はシリンジを押し込み、ペニシリンを注入していく。
なんか領主がビクビクと痙攣してるが、どうしたのだろうか?
ああ、初めての注射が怖いのか。
「秀也、なんかコイツ白眼剥いてるんだけど……」
「初めての注射が怖いのさ」
「あ! そーいうことか」
「軟弱なヤローだな、悪徳領主のクセに」
毒島たちはゲラゲラと笑う。
彼らを尻目に、俺は注射器に追加のペニシリンを詰める。
「あれ? もっと入れるのか?」
「俺は素人だ。ペニシリンの効力も薄いハズ。だから多めに入れるのさ」
「なるほど! さすが秀也だぜ」
仲間の称賛にニヤケながら、俺は再度領主の腕に注射器をぶっ刺す。
よく分からんが、一リットルも入れれば十分だろう。
俺はペニシリンを残さず悪徳領主に注射した。
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